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002 別れ

新たな登場人物等

 リベルナ王国:シンシアの母国 (ヒルデンブルグ王国) 西側の隣国。

 レストア:獣人の騎士。年齢不詳。獣人解放軍の指揮者。

 聖女の瞳:シンシアの家に伝わる秘宝。深い青色の魔石。シンシアの瞳の色と似ている。




002 別れ




シンシアとアルミナは、王都の繁華街を散策していた。

シンシアは、探索魔法を使っているので不自由もなく杖も使っていなかった。

ただ彼女をよく観察すれば、目の前のものを見ているのではなく、その先にある何かを見つめているように見える。


街を往来する人々の中には、二人の少女に目を止める人もいたが、別にシンシアが盲目と気づいたからではない。

人々が二人の少女に目を止めるのは、二人の容姿に見入っているからだ。


シンシアの瞳に光が宿る事は無いが、彼女の容姿はまさに奇跡とも呼ぶべき出来だった。

10才のシンシアは、鏡で自らの容姿をみることは出来なかったが、みなの言葉を借りると以下の賛辞となる。

「まぁ、なんて美しい髪色でしょう。その薄い金色は、光の加減で黄金色にも見えますわ!」

「まぁ、なんて力強い瞳色でしょう。その深い青色は、なんでも見通す力と深い慈悲を感じさせますわ!」

「まぁ、なんて透き通った肌なのかしら。まるで天使の肌ですわ!」

シンシアは、何を言われてもお世辞だとしか思っていない。


護衛のアルミナは違った意味で目立っていた。

12才のアルミナは、薄い水色の髪、同じ色の瞳、少し儚げな美少女だ。

その美少女が護衛装備をつけている姿は、絶妙なバランスのアンマッチとなり、人々の目を釘付けにしていた。




シンシアとアルミナは、王都の東門と緑地公園のちょうど中間にある噴水の前で休んでいた。

東門の方から少し騒がしくなってきたので、アルミナが警戒していると、馬に乗った騎士が城の方向へ駆け抜けていった。

アルミナは持ち前の動体視力で、一瞬で馬上の騎士の顔を見ていた。

騎士の顔には、怒りと焦りが入り混じった表情が見て取れていた。

少し不安になったアルミナは、シンシアを連れてすぐに屋敷へ帰った。




シンシアとアルミナが屋敷に戻ってしばらくすると、侍従長が二人を大広間へと呼びにきた。

どうも使用人から侍従長に、すぐに対処が必要なとんでもない報告があったようだ。

侍従長は、すぐに近くの上級貴族の侍従に裏付けをとり、大広間に屋敷の皆を集めるように手配しているようだ。

シンシアは、あれから時間も経っていないのにこの手配なので侍従長はまじで優秀だな。などと考えていた。


二人が大広間に着くと、シンシアの母様も含めた屋敷のものが集められていた。

侍従長のゆっくり落ち着いた指示。


「奥様もお嬢様も参られた。

 すでに、私の方でも内容の裏付けは取っている。

 さぁ、落ち着いて、お前が聞いてきたことを直接話しておくれ。」


使用人が話し始める。


「大変です。ぐ、ぐ、王が、王の近衛団が獣人族の町を壊滅させました。

 少し前から噂になっていたのですが、本当の事件だったようです。


 獣人族は、これまでの迫害と今回の一件で、獣人の騎士レストアを中心に獣人解放軍を組織したようです。

 さらに、獣人族に近い東部の領主も獣人解放軍に加勢したようです。


 獣人解放軍は王都を目指して進軍中で、明日か明後日には王都で戦闘になるとの噂で、

 商人たちは、辺境領や隣国リベルナ王国へ避難を始めています。

 このままでは、ヒルデンブルグ王国はお終いです。


 噂では、魔力の使える上級貴族は王城に集められるようです。旦那様も奥様も登城せずにはおられないと思います。

 シンシアお嬢様、どうか一刻も早くお逃げください。」


そう言いきると同時に使用人は泣き崩れた。

しばらく使用人のうめき声だけが部屋の空気を支配していた。皆、唖然としていた。


「誰も死なせないわ。そのために今できることをするのよ!」


この場の最上位者の母は、突然言い放った。

今までおっとりした母しか知らなかったシンシアは、突然の母の気迫に驚いた。

シンシアの母は侍従長に、家のこと使用人のこと落ち着いたらまたこの家で再会しましょうとだけ伝えて全てを任せた。

侍従長は、使用人を集めて次々と指示を出し、使用人たちが慌ただしく散って行く。


「アルミナ。貴女はどうしますか?」


シンシアの母は、全てをアルミナの判断に任せるようにゆっくりと聞いた。

母はアルミナが実家に帰ると言っても、引き留めなかっただろう。


「私は、シンシア様の護衛騎士アルミナ。どこまでもシンシア様とお供いたします!」


真っ直ぐに母を見据え、躊躇なく言い切った言葉に嘘は無い。


「そうですか。ありがとう。」


シンシアの母は答え、今度はシンシアに向き直った。


「シンシア。あなたは隣国リベルナ王国へ避難しなさい。落ちつくまでここに戻ってきてはなりません。

 いいですか。あなたは数年後、この屋敷の当主として戻ることになるでしょうから、これを渡しておきます。

 これは、我が家に伝わる秘宝『聖女の瞳』です。私には使えなかったけれどあなたなら使えるかもしれません。」


母は、首から下げていたネックレスを外し、そっとシンシアに渡しながらそう伝えた。

シンシアは魔石の色を見ることは出来ないが、『聖女の瞳』は深い青色の魔石で、シンシアの瞳の色と似ていた。

シンシアは突然のことで、今言われたことを反芻していた。


(母様は何と言った? あなたは数年後、この屋敷の当主として戻る?)


シンシアに突然訪れた今生の別れの言葉。


「母様、私が戻るとき、この屋敷の当主として戻るって、、、どういうことですか!」


シンシアも察しているが、聞かずにはいられない。アルミナも顔を伏せていた。


「そう言うことです。

 アルミナ、シンシアを頼みます。」


シンシアの母は、アルミナの両手を掴みながら、深く頭を下げた。




シンシアとアルミナが出発準備を整え、玄関口へ降りると、侍従長が待っていた。


「あのあとすぐに城からの使者が来て、奥様は先に登城されました。

 奥様からメッセージを預かっています。

 落ち着いたら読むようにとの仰せでした。」


侍従長は、メッセージカードをシンシアに渡すと話を続けた。


「シンシア様が出発次第、この屋敷は閉鎖します。

 これは、当面の生活資金です。無駄なく使えば1年は暮らしていけると思います。


 私たちは、辺境領出身の使用人のところへ別れて身を潜めますので、ご心配なさらないように。

 お仕えできたこと、誠に光栄でした。

 では、シンシアお嬢様、お達者で。」


侍従長が渡してくれた皮の巾着袋には、金貨も多く入っていたが、銀貨、銅貨も多く入っていた。

シンシアたちが困らないように、急いで準備してくれたのが手にとるようにわかった。




シンシアは、屋敷の玄関から門まで歩いたところで、アルミナから振り返るように言われた。

シンシアが振り返り探索魔法で確認すると、玄関のところで屋敷の使用人たちが一列に並んでいるのが解った。

使用人達は、振り返ったシンシアを見て、皆深く頭を下げた。

アルミナは言う「みんながシンシア様に礼をしています」。


「シンシアお嬢様ー!、お達者でー!」


シンシアは、目が見えないので使用人の顔は知らない。小さい頃からの声の記憶があるだけだ。

シンシアに次々に届く声は、知っている使用人達の声だ。

シンシアに合わせてアルミナも、玄関の方向に頭を下げて礼をする。


「大丈夫。きっとまた会えるわ。みんな元気で!」


シンシアは、そう叫ぶと大きく手をふり、ふり終わると街の方へ向き直った。

彼女は、一瞬の間をおき、何かを振り切ったように前へ歩を進める。

彼女は、みんなに心配をかけないため、彼女が小さい頃に教えてもらったお嬢様を実践する。

彼女は、堂々と進む。決して俯かない。




屋敷を後にした少女の頬には涙が流れていた。




続きが読みたくなったよね。たぶん。

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