011 愉快な仲間達 後編
011 愉快な仲間達 後編
先程のシンシアの魔法攻撃で、アルミナは自分の出番が無かったので少し戸惑っていた。
「シンシア、
さっきの魔法攻撃で、杭は跡形もなく消し飛んでいます。
あれだけの魔力攻撃が出来るシンシアなら、
並の獲物や盗賊では、わたしの物理攻撃では意味がありません。
これからわたしは一体何を磨けばシンシアの側に居れるのかわかりません。
・・・」
自信を失くして少し涙目になったアルミナは、そう伝えると俯向いてしまった。
シンシアは、アルミナの気を落ち着けるため何か話そうとする。
「さ、さっきの攻撃はわたしも加減が分からなくて、、、
あ、あんなことになるとは思っても見ませんでした。
・・・」
咄嗟に話し始めたシンシアだったが、なんとか言葉を絞り出す。
「アルミナはハンターである前に、わたしの護衛騎士です。
いついかなる時もわたしを守らなければなりません。」
アルミナは顔をあげて、シンシアの顔を見て頷く。
シンシアは、自分には出来なくてアルミナに出来ることを必死で考えて続ける。
「アルミナ、
目の見えるアルミナは、わたしの目となって目標を指示してください。
今回のように止まっている的のような敵なんていません。みんな生き残るために必死で抗います。
今まで訓練を受けてきたアルミナなら、その時対峙すべき相手がわかるのではないですか?
そ、それに、森ではアルミナに前を歩いてもらわなければ、
わたしは蜘蛛の巣の餌食です。」
(これで、役割分担と蜘蛛の巣対策で一石二鳥だよね。たぶん。)
シンシアの言葉に、アルミナは自分の役割を見出したことで少し顔の表情から強張りが消えた。
「はい。わたしがシンシアの目になります。守って見せます。」
二人の様子を見守っていた『海の支配者』のメンバーだったが、リーダーのチェスがひとつ提案をする。
「役割分担がまとまったようだな。
しかし、練習なしに実戦はやめたほうがいい。
さっきのシンシアの魔法の威力を見た上では、とても放ってもおけないし、
こちらとしても明日から同じ任務に携わる身だしな。
と、そこでひとつの提案だ。
これから1時間ほどお互いのチーム別で、森で狩の競争をしてみないか?
四人対二人じゃ話にならんので、俺がシンシアのところに加われば、
経験の差を考えても互角ぐらいになるんじゃ無いのか?」
チェスは、シンシアにそう伝えるとママリーの様子を伺う。
「チェスにしては良い提案ね。
じゃー。獲物はホーンラビット。わたしが『海の支配者』の臨時リーダーね。
絶対負けないわよ!」
ママリーも了承し、『誓いの絆+1』と『海の支配者−1』で、森での狩の競争が始まった。
ママリーたちは森に入って左側を重点的に獲物を狩ることを告げると、先に森へと消えた。
シンシアたちは、今後は二人のチームであることも考えて役割分担を確認した。
基本隊型は、先頭アルミナ、中央シンシア、後方チェスとして、アルミナが指揮をとることになった。
シンシアも前世の知識からクロックポジションの方位指示の仕方を二人に教えた。
シンシアたちも森に入り15分くらい進んだが、獲物には出会わなかった。
シンシアは辛抱できずに探索魔法を使う。
「9時の方向20mに1匹、11時の方向30mに2匹、15時の方向20mに1匹、魔物だと思うわ。」
シンシアが叫ぶとアルミナが指示を出す。
「9時はわたし、11時はシンシア、15時はチェスお願い!」
シンシアはアルミナとチェスが離れ攻撃を開始するのを待って、11時の方向へ氷の槍 (ロックアロー) で広範囲攻撃を行なった。
アルミナとチェスが獲物を持って戻り、一旦基本隊型に戻ってシンシアの攻撃したポイントに向かった。
1回目の狩の成果は以下の通り。
シンシア:ホーンラビット 2匹
アルミナ:レッサーウルフ 1匹
チェス :ホーンラビット 1匹
アルミナのレッサーウルフは、食べれないが毛皮が高く売れるらしい。
チェスは、探索魔法とクロックポジションの便利さに驚き、クロックポジションは自分のパーティーでも使うことにした。
その後、シンシア達はホーンラビット1匹とレッサーウルフ1匹を仕留めて狩は終わった。
ママリー達もだいぶ苦戦していたようだ。
彼女達も、ホーンラビット3匹とレッサーウルフ3匹を仕留めて狩は終わった。
最初の森の入り口に戻っていた2つのパーティーメンバー達は、
冷静なナターシャの司会で結果発表という儀式を行い、お互いの成果を披露しあった。
「く、く、悔しい。
レッサーウルフの数では勝っているのに、ホーンラビットの数では負けたわ。」
「ママリー、そんなに落ち込むことはないよ。
シンシアは探索魔法が使えるようだから、人数のハンディ調整はせずに四人対二人でもよかった。
だけど、今日はシンシア達のメンバーと一緒にさせてもらってほんとに良かった。
これなら明日から同じ任務に就いても大丈夫なことが解ったし、
なにしろクロックポジションという方位指示を教えてもらった。
シンシア、ありがとう。」
ママリーは悔しがったが、チェスはこの競争が有意義だったことに言及しシンシアにお礼を述べた。
「い、いえ、こちらこそ、
ありがとうございました。」
シンシアもお礼を述べた。その後、獲物を使って簡単なバーベキュー大会となった。
シンシア達は、『海の支配者』のこれまでの経験を色々きいた。
彼女のクロックポジションの方位指示の話題でも話は盛り上がった。
夕食もあるので、ホーンラビット2匹だけを食材用に潰してのバーベキューだったが、
ほとんど食べ終わったのを見計らってチェスがシンシアに声をかけた。
「シンシア、少し相談なんだが。。。
『海の支配者』は、明日からのキャラバン隊で唯一のBランクパーティーだ。
2日前に確認に行った時に、商業ギルドからキャラバン隊の護衛代表にとお願いされたので了承している。
今日見せてもらった探索魔法は確かなものだったし、クロックポジションも良かった。
そこでなんだが、シンシアには負担になるが、明日からのキャラバン隊で探索魔法を使ってもらいたいんだ。
頼めないか?」
シンシアは少し考えて、すぐに了承の返事をする。
(先日は、最年少の私が足手まといにならないように魔道特訓して、
今日は、実力チェックだったんだわ。たぶん。)
「わかりました。
わたし達でお役に立てるならお手伝いします。
これで、私たち『誓いの絆』も『海の支配者』に認められた仲間ですね。
これからも、ご指導よろしくお願いします。」
シンシアの返事に合わせアルミナも了承のため頷く。
シンシアは、明日からのキャラバン隊で自分達『誓いの絆』が浮いてしまうのを恐れていたが、
少なくとも『海の支配者』とはうまくやれそうなので、内心ほっとしていた。アルミナも同様のようだった。
シンシア達とチェス達は、たわいのない話題で談笑しつつ帰路についていた。
秋の近づいた季節の空は晴れ渡り、少し西の空が茜色に染まりかけていた。
続きが読みたくなったよね。たぶん。
ブックマーク、評価☆☆☆☆☆など押したくなったよね。たぶん。