010 愉快な仲間達 中編
010 愉快な仲間達 中編
シンシアとアルミナは、昼食をとった後すぐに宿を出て、森の入り口まで来た。
そこにはすでに海の支配者のメンバー達がいて、訓練をしていた。
シンシアとアルミナは、しばらくその様子を見ていた。
海の支配者の4人組の前には杭が立てられており、その杭を獲物に見立てて攻撃をしていた。
どうやらコンビネーションのタイミングを確認しているようだ。
まず身軽なリンドーが瞬発力を生かして獲物に襲い掛かり、右左から二撃を加えるとすぐに退いた。
ママリーは、リンドーの退くタイミングに合わせて攻撃魔法 氷の槍 (アイスアロー) を叩き込んだ。
チェスは、ママリーの氷の槍を追いかけるように獲物に駆け寄り、獲物を真ん中から真っ二つにした。
ナターシャは、その一連の様子を見ていて、無駄の無いタイミングでみんなに癒し (ヒール) をかけた。
シンシアとアルミナは、その無駄のない洗練された動きに驚嘆しつつ拍手を送る。
「あら、シンシア達、着いてたのね。」
「素晴らしいコンビネーションですね。
私たちも練習すれば同じようなことができるのでしょうか?」
ママリーは、2人を確認するとすぐに声をかけてきた。
シンシアは、ママリーたちがどのようにしてここまで無駄のない洗練された動きになったかは知らないが、
自分たちも練習すれば直ぐにも同じことが出来るのではないかと考え、ママリーに聞いてみた。
ママリーは、苦笑を浮かべながら返事をする。
「あなた達は、剣士と魔道士の二人だけだから、私たちとは違う戦い方になるわ。
私たちのように懐に飛び込んで攻撃するのは良くないわね。一人がやられるともう一人も危なくなるわ。
そうね、シンシアが魔法攻撃、怯んだ相手をアルミナが物理攻撃してすぐに退く、を繰り返す感じはどうかしら、
どちらかが司令塔になって、いざとなったら逃げるのも大切よ。」
「わかりました。ちょっと試してみます。
アルミナ良いかしら。」
シンシアは返事をして、アルミナと手順を打ち合わせる。
リンドーは、その間に杭を立て直してくれていた。彼は、結構まめな男のようだ。
(名付けて『二人とも一撃必殺、失敗したら即退散作戦』ですわ。ふんす。)
「それでは行きます。」
シンシアが告げて、今度は二人の攻撃コンビネーション?が始まる。
(私がとことん魔物を弱らせる感じで行けば大丈夫だよね。たぶん。)
「岩の箱 (ロックボックス) 」
杭が岩の箱で閉じ込められる。みんなには岩しか見えない。
「木の霧 (ウッドミスト) 」
特に何の変化もない。
「炎の竜巻 (ファイアートルネード) 」
引き続き何の変化もないのかと見ていたら、岩が赤くそしてマグマのように黄色くドロっとなってきた。
内部では粉塵火災が起こっていた。
「水の霧 (ウォーターミスト) 」
次の瞬間、灼熱の岩が一瞬縮む。
「い、いかん、逃げ。。。」
ド、ゴ、ゴ、ゴーン。
チェスの声が、危険を察知して響く。が、爆発の轟きにかき消される。
キーン。パン。パン。パン。
しばらくすると、土煙が収まり視界も晴れてきた。
気がつけばシンシアを中心に、半径15mぐらいの薄い金色のドームが形成されていた。
アルミナも海の支配者のメンバー達もその中にいた。
降ってきた岩がドームに当たって、パン、パンと鳴っている。
(な、な、何がおこりましたの?
ちょ、ちょっと粉塵火災を起こそうと考えただけですのに。)
「こ、これは、『聖女の盾』。。。」
チェスは何かを呟くが、みんなは呆気に取られて声が出ない。
みんなが放心状態から立ち直ると、チェスから順にシンシアをジト目で見つめてくる。
「おほほ。
何が守ってくれたのか見てまいりますわ。」
シンシアは、みんなから逃げるように薄い金色のドームの端へ歩み出す。
アルミナも他のみんなも、少し離れてついて行く。
シンシアはネックレスの魔石『聖女の瞳』からの魔力波動を感じ、一瞬立ち止まり魔石を服から取り出す。
(まあ、なんて綺麗な魔力波動かしら。金色の波動なんて初めて見ましたわ。たぶん。)
シンシアは、魔石を服に戻して再び薄い金色のドームの端まで歩む。
彼女がドームに触ろうとした瞬間、薄い金色のドームは跡形もなく消えてしまった。
(突然消えてしまいましたが、何かバリヤーのようなものでしたわ。たぶん。
先程まで感じていた魔石『聖女の瞳』の魔力波動も止まりましたわ。たぶん。)
シンシアがバリアーのことを考えていると、魔法への好奇心が限界を越えたナターシャが聞く。
「さっきのあれは何だったの?」
「えーとですね。
獲物を岩の壁で囲うと自分たちも守れるよね。たぶん。って考えました。
その次に、その中で爆発を起こせれば、こちらに被害も無いし獲物も弱るよね。たぶん。って考えました。
最後は、水の霧 (ウォーターミスト) で全体を冷やしつつ岩を消せば、
アルミナの一撃で獲物が倒せるよね。たぶん。って考えたわけなんですけど。。。
そ、それと、さっきの薄い金色のドームは、何かのバリアーだと思うんですが、
爆発が起こりかけた瞬間には、私は何も魔法は考えてませんでした。
『危ない。みんなを守らなきゃ』って一瞬思っただけです。」
応え終わってテヘペロって仕草のシンシア。
シンシアは、高温のるつぼの中に水滴を入れたら、温度は一瞬下がって膨張が収縮し、
その収縮で再び高圧となり、高圧高温に戻ったところに水があれば、自ずと水蒸気爆発になることを知らなかった。
みんなは複雑な魔法を連続でかけたシンシアを、かわいそうな子どもをみる目で見ていたが、
なぜそうなったのかを説明できる者はいなかった。
おもむろにチェスが話し始める。
「さっきの盾・・・バ、バリアーか、
あれなんだが、獣人族の古い言い伝えで同じようなことを聞いたことがある。
確か『獣人族の危機を救った人間の聖女の話』だったと思う。
何でもその伝説の聖女は、薄い金色のドーム型の盾を使っていて、みんなは『聖女の盾』って呼んでいたそうだ。
シンシア、何か心あたりがあるんじゃないか?」
「え、あ、
さっき、この魔石が光っていたので、これが原因じゃないかしら。」(たぶん。)
シンシアは、服から魔石を取出し先程の状況を説明した。チェスが続ける。
「そうか。
まぁ、さっきは助かった。ありがとうよ。
その魔石は本物のお宝だな。大事にしなよ。」
「はい。この魔石は我が家の秘宝なんです。これからも大事にします。」
チェスはもうすこし聞きたいところもあったが区切りをつけた。
シンシアが『我が家の秘宝』って伝えたことで、それ以上魔石について聞く者もいなかった。
(この魔石の名前が『聖女の瞳」だなんて、とても言えませんわ。)
シンシアはやがて『盲目の聖女』と呼ばれることとなる。そのことは今は誰も知らない。
続きが読みたくなったよね。たぶん。
ブックマーク、評価☆☆☆☆☆など押したくなったよね。たぶん。