001 シンシアとアルミナ
初投稿です。
エンディング目指して頑張りますので、
みなさん応援よろしくお願いします。
※誤字など随時修正、改稿しています。広い心で見守ってください。
新たな登場人物等
シンシア:10才、薄い金色の髪、深い青色の瞳、健康的に透き通るような白い肌で天使のような容貌。後に『盲目の聖女』と呼ばれる。
アルミナ:12才、薄い水色の髪、同じ色の瞳、少し儚げな美少女。シンシアの護衛騎士。
ヒルデンブルグ王国:後に愚王と呼ばれるヒルデン国王に治められている。
001 シンシアとアルミナ
小鳥の囀りで、シンシアは目を覚ました。
彼女は眼を大きく開くが一面の暗闇。なぜなら盲目の少女の瞳に光が宿る事は無い。
彼女には、前世からいつもと変わらない朝だった。
前世のシンシア (ヒトミ) も盲目だった。
前世の彼女は、10才で盲目となり25才の若さで交通事故で亡くなった。
不幸な彼女ではあったが、神様の戯れでセカンドチャンスを得て異世界に転生した。
彼女 (ヒトミ) は、上級貴族の一人娘 (シンシア) として新たな生を受けたが、生まれながらの盲目だった。
シンシア (ヒトミ) にとって盲目は、前世から変わらない自分の一部であり、残念なことだけれど不幸だとは考えていなかった。
(魔法が使えるから大丈夫だよね。たぶん。)
今のシンシアは、異世界での10才、ついこの前に誕生日を迎えたばかりだ。
彼女は、薄い金色の髪、深い青色の瞳、健康的に透き通るような白い肌で天使のような容貌だ。
彼女はベッドから抜け出すと、今日の予定を考えながら着替え始める。
(今日は外出だから、お気に入りのワンピースが着れるわ。ふふふ。)
上級貴族のお嬢様は、侍女が従き身の回りの世話をするが、シンシアは違っていた。
前世の記憶と知識が戻っていた彼女は、自分でなんでもするのが普通で好きでもあった。障害者とは呼ばれたくも無かった。
彼女は、両親にはひとりで生きる訓練だと説得して、侍女を従けずに自分のことをほぼ完璧にこなしていた。
上級貴族のお嬢様には護衛も従くが、シンシアにも女性の護衛騎士は従いていた。
「シンシア様。おはようございます。」
「あ、アルミナ。おはよう。すぐに朝食に向かいましょう。」
ちょうど着替えが終わるのを見ていたかのようなタイミングで、アルミナがノックの音と同時に部屋に入ってきていた。
シンシアには見ることは出来ないが、アルミナは、12才、薄い水色の髪、同じ色の瞳、少し儚げな美少女と聞いていた。
少し早い護衛の到着に驚いたシンシアはすぐに返事を返し、二人は食堂に向かった。
シンシアは、幼い頃から探索魔法を自然と使えていたので、ほとんど不自由はしていなかった。
シンシアとアルミナは、食堂に着くといつものように向かい合って座る。
シンシアは、家ではいつもアルミナと一緒に朝食と昼食を摂っていた。
彼女は、最初アルミナと別に食事をしていたが、そうすると、彼女の後に食事を始めるアルミナが終わるのを待つことになる。
彼女は、時間の無駄だと考えて、家ではアルミナと一緒に朝食と昼食を摂ることにしていた。
いつものシンシアは、午前中は家庭教師と座学の勉強を行い、午後はダンスや楽器など実技の練習を行う毎日だった。
今日は、教師ギルドの会合があるため教師達は来ない。教師達は、シンシアに自習を進めたが彼女は断った。だから、今日の勉強は何も無い。
シンシアとアルミナは、今日は外に出て街中で過ごすことを約束していた。
シンシアとアルミナは、今日の予定を相談しながら朝食を摂り、食事が終わったら早速、街へ繰り出す事にした。
シンシアは、2才年上のアルミナを姉のように思い、アルミナは、シンシアを妹のように思っていた。
二人の仲はとても良好だった。アルミナは、このままシンシアの従者でいたいと考えていた。
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シンシアは、もの心つきだした3才の頃から、前世の記憶を時々夢で見ていた。
彼女の夢の中で話される言葉は、転生してから覚えた言葉とは違ったので意味は解らなかった。
彼女が4才になる頃には前世の記憶もしっかりと蘇っており、その記憶と知識で精神年齢も大人となった。
彼女が大人として考え始めた時、自分が転生者なのは秘密で良いと考え、他の誰にも言わなかった。彼女の大きな秘密となった。
記憶を取り戻す前のシンシアは、無意識に物体の探索を魔力で行っていたため、みんなは真っ暗な世界で暮らしていると思っていた。
記憶を取り戻した彼女は、この異世界には魔力があり、今まで無意識に使っていたのが探索魔法だとも知った。同時に彼女が盲目だとも知り落胆した。
しかし彼女は、すぐにこの世界に魔力があることに感謝した。
(前世の記憶と知識、眼の代わりに探索魔法が使えるから大丈夫だよね。たぶん。)
シンシアは、楽観的な性格だ。
シンシアの誕生日は、夏と秋の間の季節、しばらく前に10才になったばかりだ。
シンシアは、この世界では数少ない聖魔法が使える家系だったが、両親には高度な治癒魔法は使えなかった。
貴族である両親は将来を考え、彼女の誕生日のたびに治癒魔道士を呼んで治療 (ヒール) したが、効果はなかった。
彼女の7才の誕生日には、王国一の治癒魔道士を呼んで治療 (エキストラヒール) したが、やはり効果はなかった。
しかし彼女は、治療を何度もかけてもらったことで、また、前世の知識から治癒魔法が体の自己回復能力の活性化と推察することで、あっさりと治癒魔法 (ヒール) を習得した。
(魔法習得には、前世の知識が有効ですね。たぶん。)
シンシアは、やはり楽観的な性格だ。
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アルミナは、貧乏貴族の三女として育った。
彼女は、貧乏貴族の三女の行く末が、政略結婚のコマとなり望まない相手と結婚させられるのを知っていた。
そこで彼女は、護衛騎士を目指して兄といつも稽古を続け、その為の全てを学んだ。
その甲斐もあり、また、主のシンシアが盲目のこともあり、アルミナは成人前だが住込の護衛騎士として抜擢されていた。
アルミナは、主のシンシアが盲目なので、従かえ始めたころは心配していた。
シンシアが侍女を従けずに自分のことをほぼ完璧にこなしていたので、ついつい、アルミナはそんな主に質問した。
「シンシア様は、本当に眼が見えないのですか?」
「え、え、でも心配しなくても大丈夫ですよ。」
アルミナは、振り返って考えれば主に対して大変不躾な質問だったと思っている。
アルミナが質問した日、シンシアは目を覆った上で自身のことをこともなげに行って見せたので、アルミナの心配はすぐに払拭された。
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シンシアの生まれた国、ヒルデンブルグ王国は、後に愚王と呼ばれるヒルデン国王に治められていた。
たとえ愚王が治ていたとしても、王国の王都の街並みは実に美しい。
王都の道や建物は、近くの採石場の石材をふんだんに使うことで、きれいに整っていた。
シンシアには見ることができないが、みんなから聞いていた内容から勝手に想像していた。
実際、シンシアの想像はあながち間違ってはいなかった。
(中世ヨーロッパのような様式かな。たぶん。)
王都は、今から300年前に初代国王が建国したときに都市設計され、王の死後2代の王がその意思をついで整備して今の形になったそうだ。
王都の構造は独特で、王城を中心にして同心円上に街並みが広がっている。
王城は貴族街に取り囲まれており、その周りに緑地公園、その周りを市場、繁華街、商工業街、平民街が綺麗に配置された構造となっていた。
初代国王は、賢王と呼ばれ王都整備に際して『この緑地公園の大きさを変えてはならぬ』と申し付け、公園の一角に石碑も残っているそうだ。
その石碑には『この公園の内側の貴族が統治するのは問題なかろう。もし公園の一角を取り崩して統治する貴族を増やせば、やがて国は滅ぶだろう。』と予言めいたことも書いてあるそうだ。
この王都でもっとも特徴的な緑地公園は、真夏の炎天下でも涼しく都市の冷却の役目も担っていた。
この古くから変わらない公園は、貴族にとっても平民にとっても憩いの場所となっていた。
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貴族街を出たシンシアと護衛のアルミナは、まだ残っている夏の暑さを避けるため、
繁華街までいかずに緑地公園内を散歩していた。いや、歩道から少し離れた小さな森を探検していた。
「シンシア様っ!」
いきなり後ろから大声で叫ばれてシンシアはビクっとなって振り返る。
「へっ!アルミナどうしたの?いきなし大声で叫ぶなんて。」
「すみません。そのまま進むと大きな蜘蛛の巣に引っ掛かります。」
「あっ!」
シンシアは、幼い頃から探索魔法を自然と使えていたので、ほとんど不自由はしていなかったが、そんな彼女にも弱点があった。それは蜘蛛の巣だ。
シンシアの知る限り、蜘蛛の巣の巣糸だけが魔力感知できなかった。
負けん気の強いシンシアは、それを知って蜘蛛の巣の探索魔法改善の努力を怠ったことは無い。断じて無かったのだが、蜘蛛の巣だけが容赦なくシンシアに襲い掛かる。
シンシアは、今回も頭から蜘蛛の巣に突っ込んだ。アルミナは、クスクスと小さく笑う。
「アルミナ、あなたもしかして楽しんでない?
もうちょっとだけ早く教えてくれたらこんなにはならないのに。」
「シンシア様が『後ろは歩きたくない。そんなことしてたら森に冒険にいけないわ。』とおっしゃるからです。
後ろからでは、蜘蛛の巣はギリギリでないと見つかりません。」
少し困った顔で、シンシアの蜘蛛の巣を取りながらアルミナは答えた。
「そうね。」
シンシアも、少し困った顔で答えながら対策を考えていた。
(これでは森の冒険は出来ません。不可能です。)
「なにか方法があるはずよ。」 (たぶん)
「もう少し考えてみるわ。」
シンシアは、そう呟くと小さな森の冒険を続けた。それにアルミナも続く。
後日、シンシアは努力の甲斐もあり、探索魔法で小さな蜘蛛を感知することに成功した。
シンシアは、早速とアルミナと小さな森の冒険に行った。
しかし、森には見放され放置された主のいなくなった蜘蛛の巣もあり、全てを防ぐことは出来なかった。
(く、く、くやしー。死ぬまでにはなんとか出来ますわ。たぶん。)
あくまで蜘蛛の巣を攻略する気満々のシンシアであった。
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季節は秋の初め、たまに夏のように暑い日がある頃となっていた。
シンシアは、ほとんど外出している父が屋敷に戻っていたので、珍しく夕食をともにしていた。
少し前に10才の誕生日を迎えていたシンシアだが、その時にふと気づいていたことがあった。
(そういえば、私の眼の治癒魔道士様は7才の誕生日を最後に来ていない。今年ももちろん来ていなかった。)
シンシアは、治癒魔法をかけてほしい訳では無いが、なぜ来なくなったのか気になっていた。
シンシアは、恐る恐る勇気を出して父に聞いてみた。
「もう治癒魔道士様は、こられないのですか?」
父は、少し顔を下げてから向き直り、まっすぐにシンシアの目を見ながら答えた。
「ああ。じつは7歳の時の魔道士様に聞いてみたんだ。娘は治りますか?って、そしたら魔道士様は言ったんだ。
『生まれた時からの病気はほとんど効果がない。まれに母体の中で育つうちの病気には効くときもあるが、今回私が試して駄目なら諦めなさい。』って」
父は、辛そうな顔でうつむいた。
シンシアに父の姿は見えないが、辛そうなことは解った。
盲目の彼女は、普通の人よりも声色だけで察することができる。すでに達人の域であった。
そんな彼女は、探索魔法の魔力感知でもある程度のことを察することができそうだとも考えていた。
「心配しないで。私には魔力があるから大丈夫。きれいな景色が見えないのは残念だけど、私には人の心の色が見えるのよ。」
シンシアは、辛そうな父を心配させまいと、小さな胸を張ってニコニコと笑っていた。
続きが読みたくなったよね。たぶん。
ブックマーク、評価☆☆☆☆☆など押したくなったよね。たぶん。