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秘密の関係

作者: 真木

 早紀さきは女性として生を受け、男性として暮らしてきた。

 幼い頃は女性の体も服も嫌ったが、幸い周りは早くから早紀の心が体と喧嘩をしていることに気づいていて、中学生の頃には男の子として学校に通っていた。

 大人になったら、早紀は母が家政婦を務めていた家の縁で、その家の営む会社で働いていた。

「早紀さん、妖精って言われてるの知ってますか」

 ある日、早紀が社食から自席に戻ったら、後輩の女の子が声をかけてきた。

「どういうこと?」

「社食に早紀さんが現れると、妖精さんが来たって噂になるんですよ」

 私もまだ時々どきどきしますと笑う女の子に、たぶん悪意はないのだろう。

 早紀には男性として暮らしていることに引け目や罪悪感はない。ただ、男性にしては細身で、あまり人と交わりたがらない性格もあって、多少浮いているのは承知している。

「もうちょっと社交界に入るように心がけるよ」

 冗談を言って聞き流すことができるくらいには、早紀は今の生活に満足している。 

 早紀が女性の体を持つことに気づく人も時々はいるが、それを大声で言うほど周りはもう子どもじゃない。

「早紀、ちょっといい?」

 そう言って早紀を安心させてくれたのは、今も一番早紀に近い存在だった。

 椅子を引いて振り向くと、背は早紀よりずっと大きいが、垂れ目でいつも困ったような顔をしている青年だった。

「どうしたんですか」

「ごめんね。早紀の手間を増やすようなことして悪いんだけど、修正をかけてほしいんだ」

 しばらく立ったまま二人で仕事の話をしたが、元々彼は理解の早い人だ。まもなく納得したようで、ハの字だった眉に笑顔が戻った。

「了解。それでお願いします」

 早紀より一つ年下で、この会社の御曹司でもある貴臣たかおみは、子どもの頃からその恵まれた立場で早紀を叩くようなことはしなかった。

 礼を言って去っていく彼を、後輩は今もちょっとだけ不思議そうに見送る。

 副社長は学校の後輩だったんですかと、訊かれたことがある。実際そうだったし、そうだよと無難な答えを口にした自分もまちがっていない。

 貴臣は部屋を出ていくとき、こっそり早紀に手を振った。

 早紀はそれに気づいて、子どもの頃からそうしていたように、妖精じみた仕草で笑って仕事に戻った。




 早紀と貴臣は、幼馴染、先輩後輩、姉弟のようなもの、どれも本当。

「早紀、新しいキーホルダーつけたよ」

 その日家に帰ると、貴臣が食事のときに家の鍵を見せてくれた。

「十個目かな。そっか。一緒に暮らし始めて十年経つんだ」

 同居人、恋人同士、それも嘘じゃない。

 結婚とか、子どもとか、お互い話したこともあるけれど、なんだか肌になじまない言葉だねと二人で首をかしげてしまった。

 毎年おそろいのキーホルダーを選んで、一緒にくっついて眠るのが、早紀と貴臣の関係。

「かわいいね」

 でも二人で新しいクマのキーホルダーにはしゃぐのは、きっと幸せな関係。

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