壊れた人形を貴方は愛せますか?〜歪んだ三人〜
※誤字脱字多かったらすみませ!
この世界に戻ってきてから退屈でしかたない。ナーシュで遊ぶが、前の世界の方が楽しかった。足りない、何かが足りない。前の世界の方が色鮮やかだったというのに、この世界は灰色だ。
「ティディ、今日は街に出て買い物でもしないかい?」
「武器屋に行ってくれるなら行く」
「また物騒だね?いいよ、行こう。君が喜んでくれるなら」
簡素なドレスに着替え、馬車に乗り込む。馬車の窓から街並みを見るがどれもこれもが灰色だ。その時人混みの中に一瞬クロに似た黒髪の男を見つけた。
「馬車を止めて!!」
「ティディ?急に血相を変えてどうしたんだい?」
「チッ、指示に対する判断が遅いんだよ」
私は馬車の窓を全開にし、するりと馬車から飛び降り受け身を取る。そして、黒髪の男へと走っていく。あの髪、あの体格、このあたしが見間違える筈がない。男に向かって隠し持っていたナイフを振り上げるが、男……クロはあたしの手首を掴み捻りあげる。ああ、クロだ。嬉しくてそのまま捻りあげられた方向に体を捻り、鳩尾に膝蹴りをするが片手で簡単に受け止められてしまった。
「ガキ、そんな物騒な再会をするようには育ててねえぞ」
「クロ……!!逢いたかった!!」
「だから甘ったれんな。お前を放り込んだ後、何でか俺も吸い込まれて散々な目に合ってたんだぞ」
「クロ!!クロ!!」
「人の話を聞け、ガキ」
灰色の世界がクロによって色鮮やかに染まる。周りの喧騒など無視し、クロの首に抱きつき噛みつく。
ザワザワとした人混みの中を掻き分け、ナーシュが私を追いかけて来た。私とクロを見つけた瞬間、ベリっとでも音がしそうな勢いで私とクロを離す。ナーシュの腕に囲われ私はクロに手を伸ばす。ナーシュは地を這うような声で私に問いかける。
「ティディ……この男が君が言っていた『クロ』かい?」
「そうだよ?育ての親で、兄で、相棒で私の一番大好きな人」
ナーシュの歯がギリッと鳴り、囲む腕に力が入って痛いが、こんな痛みなど些細な事だ。色鮮やかに染まる世界にクロがいる。それだけで胸が高鳴る。
「ここは人目が多い、屋敷に戻ろう」
「もちろん、クロも一緒だよね?ナーシュ様?」
「……君がそう望むなら」
「どいつもこいつも勝手だな、俺の意思は無視か」
馬車に戻り、私はいつもしていた様にクロの膝の上にちょこんと座る。ナーシュ様は今にも人を殺さんばかりの目でクロを見ている。クロは溜息をつき、どうにでもなれという状態だ。
「ナーシュ様、無理だよ。クロは魔法が使えないのに私よりも強いし、毒も無駄だし、殺せないよ」
「そうかい……」
ニコニコと足をぶらぶらさせ、ケラケラと嗤う。ナーシュ様の歪んだ顔が楽しい、嬉しいという気持ちが溢れて出してしまう。やっぱり私にはクロが必要だ。どんな世界でも私を楽しませてくれる。
屋敷に着くとナーシュ様は私に手を差し出す。私は右手で取り、左手はクロの手を離すまいと握っている。
「おい、ガキ。逃げたりしないから離せ」
「嫌だ、クロは勝手だし嘘つきだから」
「あー、はいはい。お好きにどうぞ」
ナーシュ様、私、クロと手を握る様は異様だろう。屋敷の使用人も驚いた様子だったが、ナーシュ様が直様応接室に私達を通す。
ナーシュ様がクロにソファに座る様進めクロはソファに沈み込む様に座った。私もクロの足の間に座ろうとすると、ナーシュ様に止められた。
「ティディ?君は私の婚約者だ。他の男の近くに座ってはいけないよ」
「面倒くさいなあ。私はクロの近くが良いのに」
仕方なくナーシュ様の隣に足を組んで座る。ナーシュ様はそんな私を咎めず、ドロドロとした感情を押し込み、綺麗な挨拶をクロにする。
「初めまして、私は公爵家当主……ナーシュ・ベルニクスです。私の婚約者であるティディをそちらの世界で保護してくださり有り難うございました。礼は尽しましょう」
「ティディ?ああ、ガキの事か。礼はこの世界の情報と金でいい」
「クロ、一緒にまた玩具壊そう!!前の世界より需要があるからきっと、前よりもっと楽しいよ!!」
「馬鹿か、ガキ。どこの世界に公爵の婚約者が殺し屋やる馬鹿がいるんだよ。……ここにいたか」
「ティディ、玩具は定期的にあげるからクロから手を引きなさい」
「ふふっ、絶対に嫌だ。私はクロのもので、クロは私のものだから」
「いつから、俺はお前のもんになったんだよ」
「私に手を差し出した時からだよ」
ナーシュ様が顔を歪めながら私の肩を強く掴み言葉を紡ぐ。その顔が面白くてケラケラ嗤う。
「ティディ、君は私だけのものだ」
「違うよ」
影でナーシュ様をソファに押し倒し、その上に跨りナイフを首に当てながら言う。
「ナーシュ様は私のもの、クロも私のもの。ねえ、ナーシュ様……私って我儘で欲張りなんだよ?」
ナーシュ様の喉がゴクリと上下する。でも、その顔は仄暗い笑みを浮かべた。
「……分かったティディ。君がそう望むのならクロを飼っても良い」
「……どいつもこいつも狂ってやがるな。まあ、俺は俺の仕事ができりゃあ良い」
はあ、と心底面倒くさそうに溜息をつくクロも嗤っている。
私達三人は何処までも狂ってる。
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