Jの客
アキは沙羅とファイを連れ、ドローイングルームへ足を運ぶと、くつろいだ様子でヒースと客人がお茶を飲んでいた。
傍らにカスミがいることで、日本人同士という意識からか客は安心しているようだ。
「お待たせしました」
「あっ、さっきの……」
アキは背筋を伸ばし、1人用の猫足の椅子に近づいた。
部屋は、優雅なテーブルや椅子と、落ち着いた色で統一されていた。臙脂がかったスモーキーカラーのカーテンやたっぷりのドレープにオフホワイトのレース、棒をねじったような足のついた小さなテーブルにある賑やかな瓶花、キャビネットのカップに、マントルピース上の写真や小物などが、客間という雰囲気を演出している。
客は目を丸くし、あわてて立ち上がった。ラインハート侯爵と呼ばれる人物が、こんな若い者だと思わなかったのだろう。想像はできる。
「どうぞおかけください。って、Jの紹介だから、こんな堅苦しい話し方もなんだし、普通でいいかな? 僕のこともアキでいい。堅苦しいのは好きじゃないんだ」
客は、ホッと胸をなでおろし、腰を下ろしたとたん、再び目を見開いた。カスミに一声かけて後ろから入ってくる2人のの異様さに驚いたのだ。
「ああ、彼らは僕を手伝ってくれる人だよ。もちろんJも知ってる人たちだから。あ、カスミ、僕たちにもお茶を。それと僕には何か軽い物もね」
そう言いながら、沙羅とファイに目くばせすると、軽く首を振った。悪い気はないということらしい。
部屋は広く、余裕があるくらい椅子もあるのだが、沙羅とファイは立ったまま話を聞いた。