持ち帰る
「お疲れ。どうだった? なにかわかった?」
店内に入ってきたのは、対照的な物腰の2人。沙羅とファイだ。
「おかしな感じだ。この町から一歩外へ出ると気配が急になくなる」
ジーパンにスカジャンという姿で沙羅が言う。
「私もそう感じました。このエリアを離れて途中からは、アキクンに本体を付けてもらって、やっと感じられるくらいの細さでしたね」
気品の漂う風格は、詰襟の白いシャツに、しっかり折り目がつけられたパンツのせいか。丁寧な言葉遣いが似合うファイがあとに足す。
「そうか。この町に持ち主はいないんだな?」
「ええ、間違いなく」
「ノムさん、これ持って帰るね。今日は店閉めちゃっていいから」
アキが卵の宿った石を懐へそっと忍ばせた。
「沙羅とファイは、今日どうする?Jの紹介で日本人が2人来てるんだけど、一緒に来る?」
「問題がありそうなのか?」
「んー、どうかな。僕は特に何も感じなかったけど。久遠は?」
「俺も感じひんやったで。2人なら、なんかわかるかもしれへんなぁ」
気の抜けた様子で久遠が返事する。
「では、一緒に帰るか」
沙羅が言うと、ファイは頷いた。
「石は、いつもの袋の中に入れて持ち歩いてくださいね」
アキは高価なそれを外し、布で優しくくるんで元の場所に直した。
久遠、沙羅、ファイは、それぞれの石に入り込んだ。歩いて行くのは嫌だし、人の姿で空を飛ばれると困る。
アキはノムさんにあとを任せ、自転車にまたがり、午前中に来た道を戻って行った。