道案内1
元気になって、ふと考えた。
「この石、2人が帰ってきて、なにもわからなかったら、持って帰ってもいいかな?」
「おい。まさか盗品とかじゃないよな? ボビーに知れたら面倒だ」
ボビーというのはこの町の警察官の俗称。ヒースが勘弁してくれと肩で息をつく。
「盗品やなさそうやけど。ほんま、どこから来てんやろな」
久遠がそう言ったところで、小さき精霊たちが一斉に外を見た。アキが同じように視線を向けると、誰かがのぞいているのに気がついた。
「おい、ヒース。行ってくれ」
「ああ? 入ろうかどうか悩んでるんだろ。気になるんなら行って来いよ」
「僕は行けないよ。こんなの付けて外へ出たら誘拐されちゃうよ」
両手を前に出し、見せつけた。
「わかったよ」
そんなわけあるかと、しぶしぶではあるがヒースが顔を出す。
「どうぞ中へ入ってごらんください」
今までとはずいぶん違う対応だが、アキではなく、ラインハート侯爵に仕えるときはいつも物腰が柔らかい。ようするに、外面がいいだけだ。
「あ、いえ、あの……」
無理矢理のように店内に押し込められたのは、20代前半に見える男性2人だった。
中肉中背の典型的日本人。年齢的にはもっと上かもしれない。言葉が通じないと思ってか、表情が硬い。
アキやカスミの影響で日本語が話せる優秀な執事は、ニッコリ笑って話しかけた。
「大丈夫ですよ。日本語を話せます。何かお探しでしょうか?」
2人は顔を見合し、ほっとした表情になった。
「いえ、道をお聞きしたかっただけなのですが、何となくこの店が気になってしまって。それで……」
背の高いほうが口を開いた。
「そうですか。では、ごゆっくりご覧ください。うちの店は高価なものから手頃なもの。古いものから新しいもの。色とりどり、時代とりどりですよ」
ここは縁あるものが入店してくる。石が呼ぶのか人が選ぶのかはわからないが、ほとんどの人が値段はどうであれ、気になったものを購入してくれる。
そんな時、アキは、住人たちが幸せでいてくれればと願いを込めて送り出す。
「どこまで行かれるんですか? 近くなら、ご案内しますよ」
キョロキョロしている2人にアキが声をかけた。
狭い店内では5人いるとスペースが限られてくる。久遠は見えないのをいいことに、カウンターの上で2人の値踏みをしているようだ。ノムさんは奥へ入り込んだ。
「あ、ここなんですけど……」
見せられた地図は、ノートを破った手書きのものだった。覗き込むと、見知った場所が記されていた。
うちだ。