1話
レインは夢遊病者のようにさ迷いとある店にたどり着く。
そこは村で評判の食堂だった。
「いらっしゃいませ!!ってレイン!終わったの?」
営業スマイルから親愛の微笑みに変わった少女ラナ。
レインの幼馴染である。
くすんだ金髪を三つ編みにしソバカスの残る顔立ちは愛らしく、食堂の看板娘である。
「座って座って。何か食べる?」
「…………………」
明るく話しかけるラナだったがレインは黙ったままだった。
「どうしたの?もしかしてスキルの事で?」
レインは今だ無言で小さく頷く。
「私に話してくれる?」
「……………ラナ」
顔を上げたレインだったが顔色は真っ青だった。
「僕のスキル【チキンハート】って言うんだ」
「どんな能力なの?」
「逃げた時に身体能力が50%上昇………」
「凄いじゃない!」
「でも戦うと身体能力50%減少…………するんだ」
「あーそれは………」
ラナは気まずくなり顔を反らす。
明らかに冒険者向きのスキルとは言い難い。
「ん〜じゃあさ……王都に行くの止めてこの食堂で働きなよ…私と一緒に……」
チラチラとラナはレインの様子を伺う。
レインの予定ではスキルを授かった次の日には王都へ向かう商隊に同行して冒険者になるつもりだった。
ただラナとしては複雑だった。
冒険者がレインの夢なのは幼馴染の自分がよく知っていた。
早くに両親を亡くしたレインは幼い頃から冒険者になるために訓練してきた。
しかしラナは心配でしょうがない。
2つ年上の自分が面倒を見てきたレイン。
出来ればこのまま一緒に居たいのだ。
「ありがとうラナ…………でも諦めきれないよ」
レインは拳を握り力強く呟く。
(やっぱりそう言うよね)
その言葉を聞いて落胆はするが納得もする。
ラナが知るレインという少年ならそう言うと思った。
「じゃあ予定通り明日村を出るのね」
「ああ」
もう先程までの落ち込んだ様子はなかった。
「そうと決まったら今日は餞別代わりに奢ってあげるから。沢山食べなさい」
「うん」
翌朝。
王都へ向かう商隊が準備をしている中レインとラナは別れの挨拶をしていた。
「いい?レイン、ちゃんと毎日食べなきゃ駄目よ。あなた夢中に、なると忘れるから」
「解ってるよラナ」
「……………本当に行ってしまうのねレイン」
「うん。行ってくる」
「レイン、一つだけ約束して。何時になってもいいから必ず帰って来て」
「ラナ…………約束する」
「おーい!!そろそろ出発するぞ!!」
準備を終えた商隊の馬車が列を成す。
「レイン最後に祈らせて【小さな幸せ】」
ラナのスキルが発動する。
スキル【小さな幸せ】は祈りを捧げた相手の運を少しだけ上げるもの。
決して強力なスキルではない。しかしレインはこれ以上ない位嬉しく心強かった。
「行ってくるよラナ!僕……いや俺は必ず立派な冒険者になって帰って来る!!」
手を振るレインの姿が徐々に遠くなりやがて見えなくなる。
「レイン………」
ラナの瞳から涙が零れた。