09 久々の再会と財力ゲット作戦
「それじゃ、そんな感じで…まずはお試し、ですね」
「ありがとうございます。せいいっぱいがんばりますね」
蘭と計画を練ってから一ヶ月後。蘭は公爵令嬢ラナとして、杏の両親が営む「そよ風亭」にやってきた。表向きは平民の現状を視察ということだが、真の目的はもちろん杏の作るアクセサリーへの出資だ。
そよ風亭自体が今は王都でも知る人ぞ知る有名店となっているお陰で、視察に来ることはそこまで難しくはなかったらしい。ただ、そこで売っている子供の作ったアクセサリーに出資する、となると話は別だ。主に、ラナお嬢様のお付きであるじいが猛反対したのである。この世界で初めて再会したときに「庶民とかかわるなんて~」とのたまっていた人物だ。やはり貴族は平民と関わるのは恥という風潮があるらしい。蘭はその風潮をぶっ壊す気らしいけれど。
「それと、これは個人的なおねがいなのだけれど…」
「はい、なんでしょうか?」
「ラナお嬢様! もう十分でしょう、お屋敷に帰りましょうよ!」
やかましいじいは総スルーである。
蘭も杏もいないものとして扱っているので少々かわいそうな光景だ。
「わたくし、同い年のおともだちってあんまり居ないんですの。よければおともだちになってくださらない?」
「お嬢様!?」
「ともだち? うん、いいよー」
「小娘お前当然の様にタメ口ききおったか!?」
「じい! うるさい!
それにじいもこのアクセサリーの緻密さに驚いてたじゃない! 今さら反対なんてさせないわよ!」
杏の作るアクセサリー自体は大変好評だった。特にデートの贈り物としての評判が高く、まことしやかに「そよ風亭の看板娘が作ったアクセサリーを贈ると恋が成就する」とかなんとか言われていたり。実際の告白成功率は調べていないが、よく観察してみるとそよ風亭のカップル率が増えている気がする。
つまみ細工はこの世界では見かけたことのない手法のようで、恋愛と関係なく女性陣に大人気となっていた。
そしてその細工の細かさは貴族のお眼鏡にも適ったようで、この口うるさいじいも現物を見たあとは出資自体に反対はしなかったほどだ。つまみ細工に使っている生地をもっと高級なものにすれば貴族社会でも通用するだろう、とのこと。
今後は高級生地を使ったものはラナお嬢様に納品し、普通のアクセサリーは今まで通りここで売り出すことになった。
「アンナ、これからもよろしくね」
「はーい。よろしくおねがしますー。
あ、ごはんたべてく? パパとママのごはんおいしいよ」
「あら? それは素敵なお誘いね。じゃあ今度あなたもわたくしの家に招待するわ」
勿論このやり取りは打ち合わせ通りの展開だ。こうでもしないと二人はリアルで会うことができない。確かにテレパシーは便利な能力ではあるが、顔を突き合わせて相談できる機会があった方がなにかと安心である。
また、ゲームのラナは、ポッと出の平民アンナに嫉妬して人生を狂わせてしまう。では、ラナとアンナが幼少期からの友達であればそんな未来にはならないはずだ。そのためにもビジネスライクな関係でなく、幼少期からの親友といったポジションを獲得しておくのは決して悪いことではない。
そんな打算もあり、じいを無視して予定通り軽く軽食を食べていくことで合意する。
周りの大人達はそりゃあもうハラハラ顔で見守っているのだが、この場の最高権力者はラナお嬢様である蘭だ。下手に口を出すことができないでいる。
(ウケるーー! じい顔真っ赤だよ?
蘭、いいの?)
(いいわよ。
っていうか「たまにはワガママを言ってもいいんですよ」とかなんとか言ってたの、じいだもの。
ま、平民と関わるどころかごはんまで食べるっていうのは、じいの想定外だったんだろうけどね。
ところでオススメなに? ここメニューないんだ?)
(平民の識字率の低さを舐めちゃいかんよ。メニュー置いたって読めないんだから)
(あー、なるほどねぇ)
「今の時間だとお腹一杯になっちゃダメだよね。パパママー、なんかイイのある?」
「あ、ええと、ご令嬢の口に合うかわからんが…」
「ふふ、構いませんよ」
「むぅ。じゃあ木苺のジャムと蒸しパンはー?」
「じゃあそれでお願いしようかしら」
「注文はいりましたー!」
和気あいあいとしている幼女たちの周囲が、お嬢様の注文が入ったことでバタバタと騒がしくなる。
そんな様子を横目に幼女たちは今後の相談を始める。
「布は揃い次第、こちらにお届けでよろしいかしら?」
「うん、私は大概あそこの入り口に座ってるから、声かけてくれたら受け取れるよ。
あとね、どんなのつくってほしいか教えてくれたらがんばる」
蘭はお嬢様らしく、杏はまだまだ幼女ですというようなわざとらしい口調だ。そのことにお互い吹きだしそうになるのを堪えながら話している。
(ぶっちゃけ貴族の流行りとかわかんないからさぁ)
(あー確かにねぇ)
テレパシーでぶっちゃけ話をしながら商売の準備も着々と進めていく。これが成功すれば、蘭も杏も自分で稼いだお金ができるのだ。当然のことながら気合いが入る。
「そうですね…流行りのドレスに合わせるのであれば、ドレスの図案なども必要でしょうか?」
「そうかもー? 一緒に相談できればいいなぁ」
「では月一くらいの頻度で、こちらに遊びにきてもよろしいですか?
その際に紙も持ってきましょう。そうすれば二人でイメージの共有がしやすいですものね」
(テレパシーでイメージ共有できればいいのにねぇ。
まぁ意思疎通できて映像まで共有できるんだから御の字なのかしら?)
(時間があるときに実験してみるのはアリかもしれないわね。
あ、あと私のお古でよかったら教科書になりそうなもの一緒に持ってくるね。その方が勉強はかどるでしょ。ついでに弟さんたち用に絵本見繕っとく?)
(うわーめっちゃ嬉しい! けど、絵本はどうかな?
そもそもこの世界絵本あるの? って感じだし、妹なんかまだ小さいから破っちゃうかもしれないから遠慮しとくよ。なんなら自分で作ったり買ったりするさー)
(確かに貴族からの贈り物汚したらめんどくさそうね。了解。
あ、じゃあノートと筆記用具だけでもプレゼントするわね。これはアクセサリー作りの必要経費だもの)
(まじでー!? じゃあ遠慮なくもらうーありがとね!)
(こちらこそ。頑張って財力権力ゲットしましょうね)
テレパシーを織り混ぜつつ、商談をすすめる。商談をする6歳児たち。それを遠巻きに見つめる大人。どう考えても目立っているのだが背に腹はかえられないのだ。
その後、商業ギルドの方にも手を回してくれたため、つまみ細工は杏の専売特許となった。これは出来上がった作品を見て目ん玉ひんむいたラナのお母様、つまり公爵夫人の判断らしい。類似品が出回る前に囲ってしまえ、ということだ。その分貴族向けの注文も増えたが、細工が細かいということで作れる個数は少ない。希少価値が爆上がりし、値段も高騰。
さらにラナとそのお母様が社交界でつまみ細工アクセサリーを身に付けていったことを皮切りに、つまみ細工は流行の最先端となった。その後、杏個人の収入がそよ風亭を上回る事態に発展するのだが、それはもう少し先の話になる。
(うまくこれで権力と財力ゲットできるといいなー。
でも、つまみ細工作るので忙しくなっちゃうんだったら他のパラメータ上げられなくて本末転倒じゃん?
うーん、その辺りも蘭と相談しないとね。)
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