08 同情しなくても金をくれ!
イレギュラーがあって更新おくれました!すみません!
(へー。じゃあもうウェイトレスメインじゃなくて、お会計と浄化係なんだ?)
(うん、今日から試験的にやってみたけどその方がスムーズだなぁって。
そりゃ現代日本の女子高生だもの暗算くらいはねぇ…。しかも、消費税ないから楽だし)
今アンナの両親が営む『そよ風亭』はアンナの発案でお勘定を先払い制にしている。お金の管理を一括でアンナがやっているのだ。
この店の常連さんは慣れっこだが、初めての人は「なんじゃこりゃ」という顔をしている。そりゃそうだ。店の出入り口近くでちっちゃい娘がちょこんと座っているのだ。そして常連は慣れた手つきで注文をし、ついでに魔法をかけて貰っている。ただ、初見さんが目を丸くしてくれるからこそ「ご新規さんだな」と判別がつき、初回浄化無料サービスをかけやすくなるのだが。行き着く先はさらなる常連の増加である。
この出入り口お会計&浄化魔法システムを導入したお陰で、混雑時でも浄化魔法が受けられるとお客さんからは好評だ。特に女性陣。
そして女性陣がくれば男性客だって増えるわけで。そういうお客には「清潔な人の方がモテますよ」と囁いて浄化魔法をおすすめしている。実際この店で出会って付き合ったり、パーティを組むようになった人たちも多く居る。
お陰様で普通の食堂であれば空いているであろう時間帯も、それなりの客が入る繁盛ぶりだ。
色々な説得の末に、お店に定休日を設けたり、ウェイトレスの他にも料理人を一人雇ったり、と店の方はめまぐるしい変化を遂げている。
(ただそのせいで、今月あんまり攻撃力値が上がらなかったのよね)
(でも正直、現時点で私たち規格外だと思うわ。
私図書室で見かけた魔法片っ端から試してるんだけどさ。その中に『鑑定』って魔法あったのよ。価値をさぐる魔法ね。あーラノベでよく見るヤツだーと思って使ってみたらビックリ。
たまにお茶会で会う貴族の子供たちのパラメータ、平均30くらいよ?)
今の二人のパラメータは平均70程度。
まだまだ幼児期と言えるので伸び率がいいのだろう、と思っていた。だが、周りのパラメータを可視化してしまうと正直やり過ぎたか?と思ってしまう。
(え、待って待って。教育受けられる貴族のお子様がそんなもんなの?
じゃあ街の子供どうなってるの!?)
(貴族の子供だからマナーや知識、それから魔力の部分は高いはずなのよ。教育されていなくても自然とそうなってしまうもの。…だと思ってたんだけどねぇ。
勿論、品の良い子だなって子はマナーのパラメータ高いけどさ)
(うーんやりすぎた?
でも抑える必要ないわよねぇ。二人でノーバフで魔王倒すんだもん、力はいくらあっても足りないよ。
最低限全パラメータ120、できればカンストしたいもん)
(そうよねぇ。カンストしてれば不測の事態に陥ったときにも対処しやすいだろうし。
うん、やっぱ修行を抑える必要はないと思う。正直この伸び率もいつまで続くんだ? って感じはあるしね。
ただ、謙虚でいないとやっかみや嫉妬がめんどくさいかもしれないから注意しましょう)
(オッケー。絡まれるのダメゼッタイ!
んじゃパラメータの話は置いておいて。
5歳児…もうすぐ6歳になるんだけど。子供でも出来るお金儲けってないかしら?)
二人がこの世界にきて半年ほど。驚異のパラメータ伸び率を見せる一方で、財力権力を得るアテはは全くなかった。
(そんなんあったら、世界中の子供全員が億万長者よ)
(ですよねー!
でもでも、今お店の入り口担当になっちゃって暇なのよー。座ってるだけなの!
この時間に何かやりたい!)
空いた時間があるならば、何かのタスクを詰め込まないとなんだか損した気分になってしまう。
貧乏性と言えばいいのか、ワーカーホリックと言えばいいのか。
とにかく、この空き時間を有効活用しないと、と思ってしまうのだ。二人に与えられた時間は10年といえど有限なのだ。そして命がかかっている。
(まぁ浄化魔法なんて、時間かかっても数秒だものね。大半は暇してるのか…。
あ、じゃあグッズ作ってみたら?)
(へ? グッズって…オタグッズ?)
杏は立派なオタ女子高生だった。その時代にひっそりとキャラモチーフのグッズを作っていたのだ。公式に迷惑がかかるのはオタクの名折れなので、もちろんひっそりと。ただ、有名SNSのヒウィッヒヒーなどに写真をアップしているうちに、受注生産も受けるようにはなっていた。
一応、モノとして売っても良いくらいのクオリティのものは作れていたようだ、という認識をしている。
蘭に言わせると「おまえもうハンドメイド作家として生きていけるよ」とのことなのだが、これは身内のひいき目もあると思うのでカウントしていない。
(いやでもさぁ、作るにしてもモノがないの。
プラ板もレジンもビーズもないの。毛糸もあるんだかないんだか…。
布引き裂いてヤーンなら出来るかもしれないけど、ヤーンって意外と重くなるから実用的じゃないし…)
今まで作っていたレパートリーを思い出すけれど、どれもこれもあの時代のものばかり。今から手に入れるのは難しそうだ。
(布はあるの?)
(ハギレなら。大きな布は真っ先に弟妹の衣服にしちゃうからさ)
(ハギレあるなら、つまみ細工作れない?)
(あ、あーー! なるほどね)
つまみ細工なら布の切れ端で様々なアクセサリーを作ることができる。女子高生時代のような光沢のある布は見かけないけれど、アレンジすれば体裁は整えられるはずだ。針と糸は繕い物のときによく使っている。あとは工夫とアイディア次第だ。
(でね、今私も思いついたんだけど。
杏がそれ作ったら店頭におけないかな? 窓とか目立つところにディスプレイできない?)
(なるほど、ウィンドウショッピングしてもらう的な?)
(それもあるんだけど、私が杏に出資できないかな、と思って)
(へ?)
蘭はキンストン公爵家の令嬢、ラナとして現在生きている。そして、キンストン家は一人娘のラナをこれでもかというくらい猫可愛がりしているらしい。だが、その可愛がりが度を超えているのだとか。
(いくら娘が可愛いからって月のお小遣いを庶民の半年分寄越す、普通?
だから最終的に娘が勘違いして悪役令嬢化するんだってーの!)
(…貴族半端ない)
蘭の月のお小遣いは庶民の半年の生活費に及ぶ6万ゴル。その上、何かあるたびにポンポン渡してくるそうなのだ。例えば、魔法が使えるようになったとか。難しい本を読めるようになったとか。
(でも、ここで私が堅実に貯めたとしても、それはキンストン公爵家のお金でしょう?
私は稼ぐような行為は全くしてないもの。
でも、だからといって、このお金をそのまま抱えていたら経済が回らなくなるし)
(あー…なんか政経の授業でやった気がする…。
でもやりたいことはわかった。私に質のいい布とかをくれるかわりに、売り上げがあれば何パーセントかを回収するってことね?)
(そういうこと。
勿論、杏の他にも良さそうなお店があれば低利子で出資する予定よ。
ただ、それなりのクオリティのモノ作って貰わないとダメだけど…。正直素材さえなんとかなれば杏の腕は確かだと思うのよ。
貴族をうならせられるレベルのものがあれば、私が広告塔になって夜会に付けていってもいいし。
そうなれば貴族の流行を私が押さえることになるから権力もゲットよ)
(ははは、そこまでは無理な気はするけどねぇ)
だが、やってみないことには話は始まらない。
二人はパラメータでは見えない財力と権力を得るべく、始動するのだった。
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