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05 画面共有って便利よね


 この世界で蘭と再会して数日。

 二人は夜になるとテレパシーで会話をし、情報交換をしていた。メインは蘭から杏への情報伝達だ。蘭がラナとして得た知識を杏に教え、パラメータをあげるのが今の目標である。


(でも実際さぁ…自分がどのくらいの位置にいるかわかんないのにガムシャラにやるの無理くない? 無理おぶ無理)


(確かにねぇ…。定期テストや受験があるわけじゃないし…)


 定期テストや受験があれば、指標ができる。現時点の自分の能力を測ることができるのだ。


(テストってさぁ、時間とられるしめんどくさいしですっごいイヤだったけど、今ならありがたみがわかるわ…)


(そもそも私たち命かかってるからね。仕方なくやってる受験とかとモチベーション違うよ…)


 テストや勉強がない世界に来て初めてわかるテストの大切さである。


(ところでさ。私は悪役令嬢ラナだからパラメータ欄なんてないものって思ってたけど、杏もパラメータ見えないの?)


 ゲーム画面ではいつでも主人公のパラメータを確認することができた。だからこそパラメータの微調整ができたのである。少なくともパラメータさえ見ることができれば目標設定がしやすいのだが。


(ないよぉ…。あれかな? 定番の「パラメータオープン」って念じたり口にすれば見え…えぇ…?)


(ちょっとどうしたの? 見えた?)


 杏が冗談で「パラメータオープン」と念じたところ、本当に見えた。ゲーム画面で見慣れたフォントが自分の目の前に現れたのだ。


(出た…マジかぁ。ちょっとネネもやってみてよ。念じるだけで出たわ)


(……マジだぁ。私も見えた。これは何? 仕様?)


(わかんないけど指標が可視化されただけでも喜ぶべき…かな?

 これで努力してるけど伸びたかどうだかわかんないって現状から抜け出せるじゃん!)


(確かにねー。ちょっと今お互いどのくらいか教えあいましょ)


 結果を総合すると、どれをとっても現時点では蘭の方が上のようだ。唯一、純粋な攻撃力だけは杏が勝っている。


(これが食堂の看板娘パワー)


(確かにウェイトレスみたいなお仕事でしょ? マッチョになれそう)


(マッチョロリはやだなぁ…。

 でも、教えてもらった身体強化の魔法で割りと最近は楽できてるよ)


 この世界には魔法がある。

 生活にちょっと便利なものから、戦争に使われるものまで様々だ。しかしながら、膨大な魔力を持つ人間は限られている。魔法は暴力にもなり得るので、強めの魔法の素質を持った人間は15歳になると学園に入学し、使い方を学ぶのだ。

 生活魔法ではない戦争にも使えるような大規模魔法を使えるのは、ほとんど貴族だ。だが、杏もとい、このゲームの主人公アンナは平民であるにも関わらず、どの魔法もある程度は使いこなせるというレアケースな存在である。

 そのため、平民ながら入学したことにより、いじめやら差別やらをこれからたらふく食らうことになるのだ。

 そんな事態を避けるためにも、魔力のコントロールは必須である。

 少なくとも実力を示せば、正面から絡んでくる輩は減るのだ。そうでなくても、身体強化ができれば物理的に負けることはない。最悪脱兎のごとく逃げ出すのも可能。そのため、二人は魔法のなかでも身体強化の魔法を重点的に練習していた。


(慣れるとなかなか使い勝手がいいわよね、身体強化。

 最近は徐々に体力を回復する魔法も練習してるから、いずれは疲れ知らずになれるはず)


(とにかく寝る前に魔力をからっぽにして眠れば、少しずつ魔力が増強されるんだよね)


(うん、本にそう書いてあったわ。

 ここベースが日本のゲームだからかわかんないけど、公用語は日本語なのはすごくありがたいわよね。…私はいずれ数か国語覚えなきゃいけないらしいけど…)


(…がんば)


 この世界では、あまり識字率が高くない設定らしい。冷静に考えればひらがな・カタカナ・漢字をおりまぜて使う日本語は覚える側にとってめんどくさいことこの上ないのは確かだ。だが基本的な文化が同じなのは、二人にとって大変ありがたいことである。

 お陰で蘭は空いている時間に、自分の家の図書室に引き込もって本を漁ることができる。


 ちなみに、ラナお嬢様が本が読めるとわかったとき、蘭の一家はお祭り騒ぎになったらしい。

 ゲーム中の悪役令嬢ラナは、王子の婚約者候補として様々な教育を施された反動で、めちゃくちゃ甘やかされて育ったらしい。飴と鞭の加減を間違った典型例だ。そのせいで「婚約者候補関連以外のわがままならば何を言っても許される」「未来の婚約者である私は偉い」と勘違いしてしまったらしい。

 お陰で成績も容姿もトップクラスではあるものの、唯我独尊ワガママ放題令嬢が出来上がったというわけだ。


 ただ、中身が蘭になったせいか、各所とのトラブルはかなり減っているんだとか。蘭の意識が芽生える前のラナが撒いたタネのせいで、蘭も大概苦労しているようだ。


(ところでこのパラメータなんだけどさ。最終目標いくつ?)


(二人でノーバフクリアが目標だから、高くて悪いってことはないわね。

 最低でそれぞれ120くらい。できるならカンストの200まで持っていきたいけれど…)


 参考までに、二人の中で今一番高い数字が、杏の攻撃力の48だ。

 5歳児ではあるものの、毎日毎日ウェイトレスをして鍛えてはいるはずである。それでもまだ目標値の半分にも満たない。全く教育を受けていない杏のマナーに至っては6だ。


(…これ間に合うの?)


(私たちに残された時間は10年。1年12ヶ月だから、毎月すべてのパラメータを1あげてれば十分間に合うわよ)


(それもそうか。10年あるんだった)


(問題は上がり幅が未知数なことかしら?

 どれくらい頑張ればどの程度あがるのかわからないものね)


(それにパラメータもレベルも正直上がりかたっって均一じゃないよね。

 正当派RPGだって後半になるとレベル上がりにくいもん。

 まぁ最大限努力するってことには変わりないかぁ…)


(ま、そういうことになるわね。

 そういえば文字を読めるってわかったときに私日記帳もらったのよ。よかったら杏の分のパラメータもメモしておこうか?

 記録つけてれば上がり幅もわかるしモチベもあがるんじゃない?)


(そうかも。じゃあお願いしようかなー。

 でもさぁ、これ視界共有とかできたらいいのにね。そしたら蘭の家の本も読めて私の勉強もはかどるし、パラメータメモだって楽じゃん?)


 現在杏の勉強法はテレパシーによる口頭でのものだ。音だけで覚えるのは相当難しい。それでなくても一般庶民の杏の家には紙はほとんどない。この世界の紙は高級品のようだ。したがってメモをとるにも一苦労。本なんてものは贅沢品の部類になる。空き時間に少し見返すだけでも覚える速度が違うと思うのだがなかなかままならない。


(視界共有…できないかしら?)


(できたら便利よね。…できないこともない、の?

 そもそもこのテレパシーだってたぶん魔法だよね? 日本でできたことないし)


 この世界の魔法の原理は「魔力を使って具体的に想像できたことを可能にする」というものらしい。例えば炎を出すにしてもぼんやりと「炎を出したい」と考えるより「握りこぶしくらいの大きさの炎をあの岩にぶつけて粉砕したい」の方が正確に再現できるのだ。あとは魔力を込める量と慣れの問題になる。

 イメージを統一化するために詠唱を行うことも多いらしい。


(イメージイメージ…。あれか、動画撮影とか画面共有的な…)


(それだ。とりあえず杏のパラメータメモりたいからそっちにチャンネル合わせる感じで)


(オッケー)


 杏は自分がカメラになった気持ちで、蘭に目の前の光景を送信するといったイメージを描く。見せたいものは目の前の光景よりも、視界の隅にあるパラメータ画面だ。

 ほどなくして「あ、見えた」という声が聞こえる。数分間そのままにしてパラメータをメモってもらった。


(あ、なんか別タブ表示で現在の体力魔力も見れるっぽい)


(え? あ、ほんとだ。これは大発見だね!

 あ、あれ? 徐々に魔力が減ってる)


(一回画面共有切ってみようよ)


 何度か実験するうちに、ふたりのテレパシーや画面共有も魔力を消費する魔法だということがわかった。

 現状と目標地点がはっきり数値化できるというのは特に蘭のお気に召したらしい。俄然燃え上がって「最高パラメータで魔王をケチョンケチョンにしてやるわ」と息巻いていた。


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