45 断罪イベント
後一話で完結です!
「ディガルドさん。
貴方は負の魔力を用い、国を混乱に陥れる存在、魔王となりました。
間違いはありませんね?」
「あぁ。俺は自分の意思で負の魔力を受け入れた。
そして、魔王とやらになった。間違いない」
目の前で行われる断罪イベントに頭が着いていかない。
だって、蘭がディガルドさんを断罪するなんて、そんなのおかしい。私の双子が、私の好きな人を断罪、だなんて。
口を挟みたいけれど、何を言えば良いか分からない。
だって、これは冤罪ではないのだから。
どうにか止めたくて蘭にテレパシーを送るけれど、弾かれる。もうどうしたらいいのかわからない。
「そこまで潔いのでしたら、わたくしも楽ですわ。
では、国としての決定を伝えますね」
ふと、蘭の方を見て、違和感を覚えた。
(…なんか、企んでる?)
双子だからこそわかる違和感。雰囲気がどことなく、楽しそうというかなんというか。蘭は自分がされるはずだった断罪を人にやって喜ぶような人間ではない。じゃあ、何が?
グルグルと考えていると、その前に一度こちらに目を向けられる。
「あ、アンナ。あなたにも言いたいことあるから」
「へっ!?」
「当然でしょう?
二人で頑張ろうねって約束、違えたのあなたよ?」
「いや、あれは…フカコーリョクってやつでは…」
「問答無用。ということで、まとめて断罪です」
にっこり、と蘭は笑う。それはもう楽しそうに。
あれ。なんか、おかしいぞ? と思う間もなく、その違和感の正体がわかった。
「ディガルドさん。あなたはこれから一生、国一番の浄化魔術の使い手の監視下にいて貰います。また、魔王となったその後の経過観察など王家及び王宮魔術師からの要請には応えること。生涯をかけた奉仕活動ですね」
「……………それは…?」
「……はい?」
間抜けなディガルドさんと杏の声が響く。
魔王になった代償が、それ。いや、死罪よりもよっぽどいいけれど…何かおかしくないだろうか。そんな風に混乱する杏を蘭はとても楽しそうに見つめながら言葉を続けた。
「で、アンナ。
わたくしに心配かけた罪は重くてよ。
あなたは生涯わたくしの話し相手を務めること。あと、元魔王の監視があなたの業務に加わります」
「は? 待って? 待とう? タイム」
蘭が、とっても良い笑顔で楽しそうに断罪内容を言い渡す。その中身に杏の脳みそがついていかない。それはディガルドも同様だったようで、大変困惑した表情をしている。
「別に待っても良いけれど…内容は変わらないわよ?」
「ラナ、終わったかい?」
大混乱している最中、アルフォンス王子が顔を出して混乱に拍車をかける。この元魔王領域最前線に何しに来てるんだ王子。
だが、アルフォンス王子もまた大変楽しそうだ。なんだこのカップル。あと待って欲しい。普通に目の前で抱き合ってイチャつかないで欲しい。なんなんだこの空間は。
「今ちょうど罪状と刑罰内容を教えたところですわ」
「だからそんなに楽しそうなんだね。
ラナが言い出したときはどうしようかと思ったけど、渡りに船って感じの名案だったと思うよ」
「…殿下がそうおっしゃるということは、先ほどのはラナ嬢のおふざけなどではなく?」
こわごわとディガルドが問いかける。
それに、アルフォンス王子も良い笑顔で返してくれた。なんだこのカップル。爆発しろ。
「やだなぁ。未来の王妃がこんな大事な場面で嘘やおふざけを言うはずないだろう?
あ、一応さっき父にも許可とったから王命だね、王命」
「さっきのぶっとんだ提案アルフォンスくんのパパにもしちゃったわけ!?」
未だ混乱が収まらない頭だが、なんとか再起動してツッコミをする。さっきのアホな断罪内容を国王が許可してるとかどんだけだ。
だって、どう考えてもおかしい。
「あれ? もしかしてちゃんと伝わってない?」
「回りくどすぎましたでしょうか?
ですが正式文章って、今のよりも更に回りくどいんですが…」
「だってディガルドさんが国一番の浄化魔術師の監視下って…私が元魔王の監視って…」
「国一番の浄化魔術師が誰のことかなんて王宮の皆知ってるよ。
君だよね、アンナさん」
「元魔王は解説必要です?
どう考えてもあなたと死闘を繰り広げたディガルドさんですわよね?
あとわたくしの話し相手ちゃんとしてくださいね。王子妃とか王妃って大変そうなんで、たくさん呼び出して愚痴ろうと思ってますから」
「ごめん待って、ツッコミどころ満載でどこからつっこめばいいのかな…??
あ、ほらディガルドさんだってなんか遠い目してるじゃん! まってー、私を置いて現実逃避しないでー!」
気付けばディガルドが困惑混乱を通り越して虚無になっている。その気持ちはわかる。こんなくだらない刑罰のために王命まで使うなという気持ちはよくわかる。けれど、一人にしないでほしい。
「でもさ、妥当なんだって。
本当なら元魔王なんて存在処刑しちゃった方が早いんだけど、負の魔力に関しては彼が一番詳しいってことになるじゃない? それに負の魔力のこと知らないままっていうのはとっても危険だしね。対抗策を講じるにしても、まずは実情を知ることから始めないと。下手したらまた魔王化とか、下手したら死ぬ危険もありうる任務が一生続くんだから罰則としてはかなり重いと思う。
でもどれだけ危険でもアンナさんの監視下にあれば、大概のことは力業で解決してくれるでしょう?」
「何その私の力業評価…」
「正当な評価でしょう?
あ、勿論ディガルドさんにはあとで正式な制約のある契約をしていただきますけど…。自由自在に使われて謀反されても困りますし」
「でも、だからって一生監視下ってその…」
「ぶっちゃければ結婚だよねー。なるはやでよろしく。
あ、式は後でもいいから」
アルフォンス王子が薄々はわかっていたけれど、決定的な言葉を投げつけてくる。
結婚…結婚ってそんな…。
私はともかくディガルドさんの意思はどうなるの!?
「学生結婚も前例がないだけで、ほとんど単位を取り終えているアンナであれば問題はないと思いますわ」
「そういうことじゃなく!!!
なんで、一足飛びに結婚!?」
「「面白そうだから」ですわ」
ダメだこの未来の王と王妃。はやくなんとかしないと。
「でもまぁアンナからの拒否権は一応認めておりますわ。平民出身なのに唐突に政略結婚と言われても困ってしまいますものね。
でも…断られたあとのディガルドさんがどうなるかというと…」
目の前にはお嬢様以上にお嬢様らしい顔をした蘭。流石に皆まで言われなくてもわかる。そのあとに続く言葉が本来の刑罰であることくらい。つまりは、死罪だ。杏がそれを選べるわけがないじゃないか。退路なんてとっくになくなっているのだ。
鉄壁の笑顔で覆い隠しているけれど、テレパシーで探ればそれはもう最高に楽しんでいる雰囲気が伝わってくる。楽しいでしょうねぇ、じたばたと悪あがきしてる姿を見るのは!
「ラナ面白がってるでしょう!?
わたしが絶対断るわけないって! だってディガルドさんの命かかってるもんね! 色々建前と本音と野次馬根性入り交じってるだろうけど心配してくれてるもんね、ちくしょう!
受けて立つわよ!!」
「お、おい…」
やけくそぎみにタンカを切る私を心配そうに見るディガルドさん。うん、かっこいい。むり。惚れた欲目は自覚している。
「それでこそアンナさんだよねー。大丈夫大丈夫。政略結婚でも愛は育めるって俺たちが証明してるとこだから頑張れ頑張れ」
「うふふ、これから忙しくなりますわね。
お二人ともご両親にご挨拶しなければなりませんし」
「あ、新居は俺がプレゼントするよー。なんてったって元魔王さん見張ってもらわなきゃだもんねー」
「なんで王族プロデュース結婚前提になってんのよ!」
退路がないどころか、二人に首に縄をかけられて走るように強制されている感じだろうか。
だが、色々気を遣われていることもわかっている。悪あがきのように突っ込めば、また声と笑顔を揃えて言われてしまった。
「「面白そうだから」ですわ」
「もうやだこのバカップル爆発しろー!」
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