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44 決着

残すところ数話。最後までお付き合いしていただけると嬉しいです。


「ここは…」


 ディガルドはゆっくりと目を開ける。目に映ったのはおどろおどろしい魔王城の天井ではなく、天幕の布。何が起きたかわからずに体を起こそうとするが、全く体に力が入らなかった。


「あら、目を醒ましましたのね」


 声がする方に目を向ければ、そこにはアンナと共に魔王城へときたラナがいた。


「どう、なっているんだ」


 酷く掠れた声が出た。


「魔王城討伐の際に、倒れている巻き込まれていた民間人を発見。

 冒険者アンナはその民間人を庇いながら、辛くも魔王討伐に成功。

 今は魔王城の残骸の処理や他にも巻き込まれた民間人がいないかの確認中です。ここはその確認作業の拠点としている天幕の中ですわ」


「民間人…?

 いや、それよりも彼女は無事なのか?」


「それを貴方がおっしゃいますの?」


 グッと空気が重くなる。未来の王妃に足るだけの威圧感。すでに満身創痍なディガルドは殺気にも似た圧をまともに浴びてしまう。暑くもないのに汗が流れた。けれど、ここでひくことはできなかった。


「彼女は無事なのか?」


 愚直に重ねて問う。それ以外の方法をディガルドは知らない。

 最後の一撃は、いや、戦いの最中のディガルドの攻撃は全て本気だった。全力を出して、それこそ、せっかく手にいれた負の魔力を手放す覚悟をもって望んだ一撃。それが彼女に届いたのか、その部分は記憶にない。


「…まぁ、良いでしょう。

 二言目に聞いてきたことですし」


 何がラナの心に響いたのかはわからないが、フ、と空気が軽くなる。無意識に詰めていた息を吐き出す。それでも冷や汗は止まらない。


「アンナはどこかの魔王さんと死闘を繰り広げたせいで、嫁の貰い手がない程度には傷だらけですわ。急所を外しているのは流石アンナと言ったところですけれど。

 魔力も体力も今のあなたと同じようにほぼ0に近い。

 命があるのが奇跡だ、とお医者様はいっておりましたわ」


「そうか」


 生きていてくれて嬉しい。

 だが、それは全力の一撃も彼女に届かなかったという結果と同義である。負の魔力を得てもなお、彼女には勝てなかったのだ。

 複雑な感情が胸を渦巻く。


「あの子が生きていて残念でしたか?」


「それはない」


 ラナの問いかけにキッパリと答える。

 確かに、負けは悔しい。それでも戦いの最中彼女を殺したいと思ったことは一度たりとてなかった。


「そうですか。残念と答えていただけたら今すぐにでも消し炭にしたのですけれど…」


「怖い方だ」


 彼女ならば脅しではなく本当にやっただろう。

 あの量の負の魔力を浄化しまくったラナではあるが、すでに抵抗もできない状況になっているディガルドに火魔法を放つ程度は造作もなくできるはずだ。


「まぁ、もしものことを言っても仕方がありません。

 今後の話をいたしましょう。

 今回あなたは魔王城生成に巻き込まれた民間人です。それを私たちが見つけて保護いたしました。攻撃手段の乏しい私があなたの回復とアンナへの援護を、アンナが魔王と対峙し討伐した、というストーリーです」


「なんだと?」


 事実とはまったく異なる話にディガルドは目を剥く。

 それではあまりにも自分に有利すぎた。罪人はきちんと罰されなければならない。


「異論を言える立場ではないことは、わかっておりますわね?」


「だが、実際に俺は…」


「もちろん、これは公にする方の情報です。

 国王様など一部の方には色々伝えるべきことはありますが。まぁ、些細なものですわ。もう魔王はいないのですから」


「確かにそうではあるが」


「何より、負の魔力に取り込まれた人間が力を得るなどという情報が出回って良いはずがありません。

 もっとも、戦いの最中に一定範囲を強制的に浄化する魔法を会得いたしましたので、魔王が誕生するほどに負の魔力をためることは今後できないとは思いますが」


 安易に力を求めるものにとって、負の魔力はとても魅力的にうつるだろう。

 そんな方法を国に広めるわけにはいかないのはわかる。第二、第三の魔王が現れてしまっては国が疲弊する。


「では、俺は秘密裏に処分ということか」


 仮にも元魔王をそのまま野放しにすることはできないだろう。

 公にしなくとも、処分する方法は無数にある。

 だが、ラナはそんなディガルドの言葉にきれいな笑顔を返してきた。


「いえ? 国家を脅かしたのですよ?

 そんな簡単に、楽に死ねると思わないでくださいまし」


「それもそうか」


 負の魔力を自分の身に受け入れると決めたその日から、ろくな死に方ができるとは思っていない。無様に生き残ったのだから、当然の結論だろう。

 罪はきちんと償わなければならない。


「抵抗しませんのね」


「元より覚悟の上だ」


 折角生かす方向で頑張ってくれたアンナに対して申し訳ないとは思う。だが、それだけだ。自分のような心の弱い悪人よりも、もっとふさわしい人と共に幸せになってほしい。真っ直ぐ向けられた好意を踏みにじったディガルドだが、彼女の幸せを願うくらいなら許されるだろう。


「まったく…。そこまで潔いのでしたら最初からこんな無茶をしなければよいものを」


「過去の未練を絶ち切れなかったバカな男の末路とはこんなものだろう」


「イヤミの言いがいがありませんわ…と、来ましたわね」


「何が…?」


 言いかけて、やめる。こちらに向かってくる足音が聞こえたからだ。

 少しの間の後にバーンとアンナが転がり込んできた。


「ディガルドさん! ラナ!! よかった無事だぁ!」


 体のあちこちに痛々しく包帯を巻き付けた状態で、それでも安堵の笑みを浮かべるアンナ。その様子をディガルドは微笑ましい気持ちで目に焼き付ける。


「もうそんなにドタバタできるほど回復しましたのね」


「あはは、実は魔力はすっからかんなんだけどね。

 あ、この辺座って良い? 立ってるの実はしんどい」


「走ってきたくせによく言いますこと。まぁ構いませんわ。

 ちょうどディガルドさんに処分内容を伝えるところでしたの」


「しょぶん…?」


「アンナには断罪の方が響きがよいかしら?」


 アンナにとっては余りにも意外な言葉だったのだろう。目をまん丸に見開いて口をパクパクさせている。

 その様子が純粋に可愛くて、今のうちに目に焼き付けておこう、とディガルドは思った。


「これだけ国を混乱に陥れて無罪放免、なんて…そんなことはできませんでしょう?」


「で、でも…」


 アンナは何かを言い募ろうとして、言葉が見つからない。そんな雰囲気だ。

 だが、それを無視してラナは言葉を続けた。


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