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42 最終決戦


「さて、どうしましょうか。

 わたくしとしては、わざわざ相手のフィールドに入ってあげる必要はないと思うのだけれど」


「だよねー。

 てことで、魔王城解体~」


 言うが早いか、双子は魔力を練り上げ、かなりの濃度の浄化魔法を魔王城にぶつけた。

 負の魔力が供給されるのが早いか、浄化されるのが早いかの勝負だ。


「うわ、これきっつ」


「でも、手応えはありますわ」


 浄化しても浄化しても、負の魔力は供給される。だが、少なくとも魔王城を成長させるのを防ぐ効果はあるようだ。膨らみ続けていた魔王城の領土が、少し停滞している。その魔王城との境界線を見極めて、杏は更に魔力をこめた。


「…今まで学んできた強化系の魔法はなんだったのかしら」


「肉弾戦になると思ってたから回復とか強化とか任せちゃったもんねぇ…。

 浄化魔法って強化できないの?」


 こうやって会話をするくらいには余裕がある。

 魔王は、この光景をどんな顔で見ているのだろうか。


「そもそもアンナはどんなイメージで浄化してる?

 超強力除菌消臭スプレーみたいな?」


「あ、そんな感じ」


「…火つけたら爆発炎上しそうね」


 爆発炎上しても、それはそれで熱消毒になるかもしれないと思ってしまう。

 周りに人が居なければ、の話だが。


「あ、うん。

 汚物は消毒だー! ってイメージだからあんまり間違ってない」


「うわぁ…。でもそうね、浄化っていうか消毒できればまぁ…いいか」


「もとが樹木ならいい感じに燃えてくれそうだしね」


 双子でイメージを合わせながら浄化魔法強化を試みる。

 かなり物騒なイメージではあるが、前世の具体的なイメージがある分、かなりまとまりやすい。

 試行錯誤を繰り返しながらも上手くいったようで、徐々に魔王城が小さくなっていく。


「浄化魔法はあんまり魔力食わない魔法なのに、こうやって浄化すると結構魔力消費するわね」


「そうねぇ。でも、そろそろお出ましじゃないかしら?」


 双子の周りには浄化魔法によって強制的に剥ぎ取られた木材が散乱している。全部が終わったら回収して様々な用途に活用して貰おう。一度負の魔力で強化されたのだから、きっと強度なんかが上がっているのではないだろうか。

 気付けば城だったものはかなり小さくなり、樹齢何千年の大樹くらいの大きさになった。あと一息、と思ったところで、中から人がゆったりと出てきた。

 ディガルドだ。

 その事実に杏は小さく息をのむ。魔王が彼だなんてあり得ない、と心のどこかで思っていたから。

 だが現実はそう優しくなかった。


「君は本当に規格外だな…。それは、そちらのご令嬢もそうだが」


 見た目は図書館にいたときとさほど変わらない。

 だが、一点だけ。

 彼の利き手である左手が、禍々しい何かで覆われている。そして、その手にはしっかりと剣が握りしめられていた。

 それは、杏とディガルドが目標としていた姿だ。

 本来ならば喜びたいのに、あの禍々しい魔力がそれをさせてくれない。


「…ディガルドさん」


「正式なご挨拶は初めてかと存じます。キンストン公爵家のラナと申します。

 そちらからお出まし頂けたと言うことは、降参ということでよろしいかしら」


「…丁寧な挨拶痛み入る。

 だが、降参とはどういうことだろうか。俺は君たちと敵対する気などない」


「では、その禍々しい魔力は手放していただけるのですね」


 ディガルドの姿を確認して、悲しいやら悔しいやらで杏は言葉がでなかった。それを察した蘭が交渉を試みる。

 戦わなくてすむのであれば、それにこしたことはない。


「それは出来ん。

 この魔力がなければ、俺はまた手の使えない役立たずに戻ってしまうからな」


「役立たずなんて…」


「公爵家令嬢であれば、聞いているのではないか? 俺の評判を」


「そう、ですわね」


(…対話は…出来てる? このまま剣を握れるディガルドさんのまま一緒に帰ることは…)


(できる、のかしら?

 でも…あの魔力は見るだけで人を畏怖させるわ。それに対話だけならゲームのラナだって…)


 双子がテレパシーで会話をする。僅かな希望に縋って打開策を見つけようとするが、時間は止まってはくれない。

 ジリジリと、ディガルドとの距離が詰まる。禍々しい負の魔力の気配が濃厚になった。あれは、人に自然と嫌悪感を抱かせるものだと再認識してしまう。


「であれば、止めてくれるな。

 女性を傷つけるのは騎士にあらず。俺はただ…剣が振るえれば…。

 違う、剣を振るえるだけではだめだ。示さねば、戦えると…」


 よく観察してみれば、ディガルドの瞳は時折焦点がブレている。

 負の魔力にあらがっているのかも知れないが、支配されるのは時間の問題だ。


(蘭…お願いがあるんだけど)


(一応聞いてあげるわ)


(手出し厳禁で。バフもいらない。

 ディガルドさんとタイマンする)


(バカじゃないの!? いくらパラメータあげたからってラスボスの魔王相手にノーバフなんて!)


(魔王でもラスボスでもない! ディガルドさんだもん!!)


 最初はただ、好みな属性を持つ男性というだけだった。

 そして、自分にも出来ることがあるから手を差し伸べた。それだけの関係だ。

 けれど、人柄を知った。

 不器用な笑顔も知った。

 手の温かさだって知っている。

 目の前の彼は魔王なんかじゃない。ディガルドさんの、少しだけ弱い部分だ。


(…死にそうになったら強制回復ののちにバフかけまくってとどめ刺させるからね。

 ううん、むしろ私がとどめ刺す)


(うへ、こわいこわい。

 絶対にそうならないようにするよ)


(じゃあ私は雑魚浄化してるわ。周辺状況浄化するのはバフに入らないでしょ)


 そう伝えるが早いか、蘭は少し離れたところに移動してくれた。

 ディガルドと正面から向き合った杏は静かに告げる。


「…申し訳ありませんが、その魔力は捨て去ってもらいます。

 力尽くでも」


「そう言う割に、ラナ嬢は離脱してしまわれたが…まさか一人で戦うとでも?」


「そりゃあもう。

 だって、ディガルドさんがそんな風にとらわれちゃったのって私が余計なちょっかいかけたからでしょう?

 じゃあ責任とらないと」


 不敵な笑顔に見える表情を作る。余裕がある、と見せられるように。

 間違っても、今にも後悔で泣きわめきたいだなんて感情を見せないように。


「責任、か…。まぁいい。

 最初の試し斬りが君になるとはなんとも皮肉な話だ」


「油断しないでくださいね。

 私こう見えてそれなりに強いんで」


 何が悲しくて乙女ゲームの世界で、萌えた相手とガチバトルをしなければならないのだろうか。

 そんなことを考えてしまう。

 だが、考えても仕方のないことだ。

 ゲームの世界に来たことも、今までも、嬉しかったこと悲しかったこと全て、現実のものだ。


「私も"蘭"も、ディガルドさんも。全員バッドエンドになんてさせるもんですか」


 パァンと右拳を左手の平に打ち付ける。

 最悪の未来にしないために、杏は右拳に浄化魔法をのせて、ディガルドに殴りかかった。

 

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