41 決戦の舞台へ
「ラナ!」
「アンナ…いけるわね?」
「勿論」
図書室にディガルドはいなかった。テレパシーでそれは蘭に報告済みだ。
単純に風邪をひいたとか、それだけかもしれない。そう思いたい。
そんな杏の心情をわかっている蘭は、多くを言わなかった。そして杏もそれに応える。
「そう。今こちらは魔王城らしき建物のような…大樹、といえばいいのかしら。そういったモノが発見されたところよ。
城というには小さいけれど、成長している様子が見られるわ。樹木に負の魔力が宿ったせいかもしれない。負の魔力自体はまだまだとんでもない濃さのようよ。
まだまだ成長する可能性も否定出来ないわ。」
「あ、もう場所は特定されてるんだ?
なら話は早いね」
ぐっぐっと気合い入れがてらの準備運動をしてさぁ、行こう。
と、したのだが邪魔が入った。
「ちょっと待って、何二人で行こうとしてるの!?」
「へ?」
「まず先遣隊を編成してるからちょっと待って!」
アルフォンス王子が慌てて止めに入ってくる。
「いや…私たちあなたに呼ばれたよね?
先遣隊とか…その人に万が一があったらどうするの?」
「そうですわ。それに、いたずらに魔王を刺激しないほうが良いと思います」
本音は、万が一ディガルドが魔王となってしまったのだとしたら、その姿を周りに見せたくないというものだ。だが、それを公言するつもりはない。
それに、強くない人が偵察にいって無駄死にするのも防ぎたい。
ゲームでは膨れ上がる魔王城に飲み込まれて帰らぬ人がいた、という描写もあった。まだ魔王城は完成していないのだ。
「偵察もなしに最初から二人で行くというのか!?
無茶だ!」
「偵察してくれる人が私より適任なら受け入れるけど?」
「確かにアンナくんは強いのだろう。しかし、強さと偵察の能力は必ずしも因果関係があるとは言えない」
「ところがどっこい!
冒険者として偵察の腕はお墨付きなんだなー」
やってて良かった冒険者。
特に偵察も兼ねた任務は日帰り出来ることも多かったため、杏の腕は冒険者ギルドの人間に聞けばすぐわかる。
「わたくしもアンナも浄化魔法は得意ですわ。
二人で進めば普通の魔物に負けることはないでしょう。また、道中の様々なものを浄化しながら歩く方がより安全かと。
私たち以上の適任はいないと思いますが」
得意どころか、アンナに至っては第一人者だ。国中探しても今現在アンナより浄化魔法を上手く使える人間はいないだろう。
「だが…。
では何人か兵を…」
「やだ、邪魔」
「大変申し訳ありませんが、わたくし達の連携を邪魔しないという保証がありません。
流石に気が散った状態でなんとかできると思い上がれる状況ではありませんわ」
杏がバッサリと、蘭が理論的に護衛を断る。
実際テレパシーで会話しながらの連携なので気が散ることはないだろう。しかし、未来の王妃であるラナがバキバキに戦う姿はあまり見せたいものではない。今後に差し障る。
「何も二人だけで倒してこよう、というわけじゃないわよ。
それこそ先遣隊の仕事を私たちがした方がいいってだけ。どのくらい浄化魔法が効くのか、道中の危険はどんなもんかとかね。
私が行くのが一番手っ取り早いよ。ラナを連れてくのは…保険と思ってくれれば。
私より前に出さないと約束するよ」
「…万が一があれば、わたくし単身で戻ることも考えております」
「頑張れ頑張れ。身体強化は私より上手い気がする」
いつも通り、気負いもない二人の会話にアルフォンス王子を始め周りが脱力し始めた。
「別に死ぬ気で特攻ってわけじゃないよ。
そんな自己犠牲に富んだ精神してないしさ」
「わたくしもですわ。ただ、わたくしたち二人で偵察に行くのが一番だと思っているだけですの」
「ついでにペロッと魔王が浄化できれば儲けものって感じかな?
でも、何よりも大事なのは私たちと出会わずまっすぐ王都に向かおうとする魔物を退治して貰うことなんだよね。
さっきからボコボコ生まれてる気配がする」
「…なんでわかるの。
すまない、急ぎ警戒を」
部下らしき人に王子が指示を飛ばす。よく考えたら王子が現場に出張っている方がやばいんじゃないだろうか。突っ込んでやぶ蛇になるのはイヤなので突っ込まないけれど。
「ま、そんな感じでよろしくね」
「では、行って参ります。アルフォンス様もお気を付けて」
二人でアルフォンス王子に手を振り、禍々しい気配のする方へと足を進めた。
ここからはテレパシーで会話をする。
人の声に敏感な魔物もいるからだ。
だが、その会話内容は緊張感とはほど遠いものである。
(忘れてたけど、周りの人いたのにアルフォンスくんにため口きいちゃった)
(学友なのは皆知ってるから大丈夫じゃない? こんな緊急事態に無礼だなんだって言い出す方が頭おかしいわよ)
リラックスはしているものの、周囲への警戒は怠っていない。ほどよく緊張して、ほどよくリラックスしている。
魔王と対峙するという気負いはあまりない。
(それより、戦える?)
(わかんない。今はまだ、魔王と戦うんだなー思ったより早いけど、パラメータ的には問題ないからいけるっしょーって気持ち。
ただ、姿見たら動揺するかも…。
でも、そうなったら蘭がケツひっぱたいてくれるでしょ?)
(そうね。任せなさい)
歩くごとに、浄化する回数は増していく。魔物がボロボロと生まれているのだ。
中には「どんな生物が核になったんだ?」と問いただしたくなるような魔物もいた。サイクロプスとか。
(…浄化魔法の、範囲魔法ってできないのかな。
いちいちターゲッティングして浄化めんどくさい)
(試してみてもいいんじゃない?
一定範囲を浄化できれば、大気中の負の魔力も浄化できそうだし。
私もやってみるわ)
一度足を止め、範囲を浄化するよう試みる。
イメージとしては大きな消毒用スプレーだ。
(範囲は円形かな? あ、私の歩いている半径10mくらい無差別にキレイになっちゃう感じ。
根こそぎ汚物は消毒だー!)
(ちょっと! 笑わせないで!)
テレパシーをつないでいたせいで少々蘭の集中を乱してしまったようだが、結果的に範囲浄化魔法は成功した。どちらかというと、火炎放射器のように視界の範囲内を燃やし尽くしているようになってしまったが、それはまぁ結果オーライと言うことで。
(…大気中の負の魔力も浄化出来てる、のかな?
遠くに見えてた魔王城、さっきまでムクムクでっかくなってたけどちょっと成長とまった気がする)
(出来てるのかもしれないわね。魔力の減りはどう?)
(普通の浄化魔法よりは多いけど、負担になるほどじゃないよ。
このまま浄化しながらいこうか。蘭も出来たらやってみて)
何回か練習すると蘭もコツを掴んだ。二人がかりで範囲浄化をしながら歩いて行く。
暫くすると、魔王城というか魔王樹といえばいいのか。とりあえずそんな建物が見えてきた。魔王城は禍々しい大樹が折り重なり、城のような建築物になっている。下から全体を見ようとしても最初に聞いたときより、かなり大きな建物となっていた。
「さぁて、魔王様とご対面といきますか」
自分自身を奮い立たせるため、杏は言葉を発した。
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