04 足りないのは知力体力財力権力その他もろもろ
本日二回目の更新です。
明日からは毎日13時更新予定なのでよろしくお願いいたします。
双子が感動の再会を果たした次の日。
杏の実家は早速食堂をオープンした。新しい店となると覗いてみたくなるのが人情と言うもの。この興味本位のお客様たちを必ずやリピーターにしてみせると意気込んでいた杏はヨロヨロと自分の部屋に戻った。とても贅沢なことに、この新しい家は子供たちそれぞれに小さな部屋があてがわれている。プライバシー尊重万歳と喜びつつ、杏はベッドに腰かけて蘭からの連絡を待つ。
下手にベッドに入ってしまうと眠ってしまいそうなのだ。程なくして蘭からのテレパシーが届いた。
(私たちには足りないものだらけです)
(おっそうだな。
って、どしたのいきなり)
なんだかあちらも疲れている気配がする。
確かに、5歳児というのは思ったよりも体力がない。頑張ってお手伝いをしていた杏だが、混雑時はぶっ倒れるかと思った。前世の女子高生基準であれば、まだまだ余裕の運動量にも関わらず、だ。
(いやぁ…お貴族様舐めてた。優雅に茶を啜ってるだけかと思ったわ。
優雅な振る舞いってやつ? あれね、一種の格闘技よ)
蘭曰く、優雅に見える立ち振舞いは湖に浮かぶ白鳥の如し。インナーマッスルフル稼働らしい。
(うわー。それ、最終的には私も覚えなきゃいけないヤツよね。
今の仕事でも十分しんどいのに?)
(そうね。とりあえず出来るならずっと姿勢と表情に気を付けといた方がいいわ。
それだけでそれなりに鍛えられるはず)
(うええ。了解。
なんにせよノーバフで早期魔王討伐するなら筋力は必要だもんね)
魔王討伐、ひいては安全にこの世界を生き抜くために、二人には足りないものが沢山あった。
(筋力もそうだし知力体力魔力財力権力は必要ね…)
(おおう…10年という歳月でなんとかなることを祈ろう…)
(祈りの力でなんとかなるのはリセット可能なゲームの時のみよ!
私たちはノーリセット&ノーロードゲームにこれから挑むんだから!)
(メニュー画面が開けないリアルタイムアタックだ…辛い)
なんだかんだ言いながらもやるしかない。ただ、現状二人で協力プレイが出来るのはありがたかった。闇の中で手探りよりも、信頼できる双子と手を取り合って進めるのだから。
(まず魔力よね)
(まぁ、何もしなくても主人公は入学できるくらいの潜在魔力があったみたいだけど、鍛えられるなら鍛えたいよね)
(私もまだよくわかってないけど、お貴族様のお上品バトルには魔力も関わってくるみたい。ようは身体強化、自己バフね。
早い内に鍛えられるようにお願いしたわ。で、鍛え方がわかったら杏にもやり方横流しする。これで、魔力に関しては尋常じゃない平民が出来上がるはず)
(身体強化できたら嬉しいなぁ。
食堂の看板娘意外と疲れるもの)
実生活にも役立ってくれるのであれば嬉しいことこの上ない。
(次に知力。
これは本当にお勉強ね。私は貴族だからなんかもう学校通ってる並みにやらなきゃいけないみたい)
(うへぁ。ご愁傷様です)
ゲームの世界でもお勉強とか正直勘弁して貰いたい。
不謹慎だが、自分がお貴族様な悪役令嬢でなくてよかった…と杏が安堵した瞬間呆れたような声が響いた。
(何自分は無関係です~みたいな言い方してるのよ。
杏もやるに決まってんでしょ)
(えっ!? なんで!?)
(1年次のパラメータ上げを有利にするために決まってんでしょ。既に頭にたたき込んだ内容なら一度復習するだけで大分いい成績がとれるはず)
(魔王を倒すのにはいらないじゃん!)
(甘いわね。
確かに魔王を倒すだけなら知力学力はいらないでしょうよ、普通は。
でもね、ここはゲームの世界なのよ!?)
(あ、もしかして…。
パラメータの総合力が2年次からのRPGパートに影響してくる…の?)
このゲームでは2年生になると、対魔王の最終兵器として学園の生徒達が駆り出される。
具体的には全ての座学を変更して、冒険者ギルドに登録し実践を詰むことが卒業までの必修科目になるのだ。
(そう。総合パラメータが高ければ最初の冒険者登録の際にちょっとオマケしてもらえるの。
GランクがFランクになるくらいだけど。それでもとっとと経験積むならそっちの方が有利よ!)
(うわあああ、勉強いやあああああ)
(この世界の設定資料集と思い込んでやるっきゃないわね)
(…それならギリ頑張れるかも)
歴史の教科書に載っている偉人はどうしても覚えられないが、某ゲームの題材になったあの人この人は結構覚えている。設定資料集を丸暗記であればまだなんとかなりそうな気がした。
(あとは財力とか権力?)
(そうね…。ある意味5歳児には一番ハードルが高いところだわ)
5歳児でも出来る金儲け、なんて本があったとしても胡散臭すぎて誰も買わないだろう。それでも、二人はその無茶苦茶胡散臭いことをやらなければならない。
(魔王を倒したとしても、言いがかりをつけられたらアウトってこともあるもんね。
ラノベでよく見た展開じゃん)
(そうね、泣き寝入りだけはゴメンだわ。
そのためにもある程度自由に使えるお金は必要ね。私が悪事を働いてないと公的に証明できる繋がりもほしいところね…)
無事に魔王を倒せたとしても、二人の人生は続いていく。
あの、トラックに轢かれた瞬間に戻されでもしない限りは。
予測可能回避不可能なトラックアタックの瞬間に戻されるよりは、今この瞬間を大事に生きていきたい。
そのために必要なのは財力と権力だ。
愛があればお金なんて、という台詞もある意味間違っていないだろうがやはりお金は大切だ。それに、その愛はこの場合双子の家族愛なので適用外かもしれない。
権力なんてもっと縁がない。この世界がどれだけ女性に厳しい社会かはわからないが、少なくともゲームの中の主人公は『平民』というだけで差別にあっていた。それに、元気よく走り回って依頼をこなしているだけで眉をひそめられるというイベントも。走り回らずにどうやって魔王を倒せというのか甚だ疑問なところではある。
だが、この世界はそういうものだとしたら。女性は出しゃばらず男性を立て、マナーや知性で戦うモノという社会だとしたら。これから二人がやろうとしている『二人で魔王討伐』はクレイジーにもほどがある行為だと言うことだ。
(正直平民の私がクレイジーガールになるのは全然アリだけど…そっちはナシじゃん?)
(腐っても公爵令嬢だからね。
正直跳んだり跳ねたり走ったりはあんまり出来ない…かな?
ゲーム設定ではわがままいっぱい育ったって書かれてたし、ほんとその通りの人格だったけど…それでも令嬢として見れば間違っていないんだと思う。
魔王に唆されなきゃ典型的なヒステリックご令嬢ってだけだったんじゃないかな?)
(あーでもそんだけ制約があると戦いの方針は決まってくるよね。
私が肉弾戦、蘭がバッファーだ)
公爵令嬢になってしまった蘭が大っぴらに動けないのなら、その役目を杏が負えばいい。
むしろ単純明快でわかりやすくなった。
(うん、そうなるかな。ごめんね?)
(何謝ってるのよ。むしろ武力はこの方向性で伸ばしていけばいいってわかったのは良いことじゃん?
蘭は回復やバフをあらゆる場面から極めてくれればいいし、私はRPGパートは前衛っぽく立ち回ればいいんだもの)
蘭を守り、自分を強化して、魔王をこの手でボコボコにする。
正直暴力を振るうのは怖いが、二人で生きていくためには仕方がない。
(そうね…。
まずは魔力を思いっきり高めること。
知力やマナーはこれから毎晩教わったことを教えるわ。
で、財力と権力は…うーん、正直まだ無理かしら)
(出来ることからやっていこ?
とりあえず今日はもう寝るね。おやすみー)
(おやすみ)
なんとなく方針が見つかったところで二人は眠りにつく。
居る場所は遠くても、お互いの息づかいが少し感じられる気がした。
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