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37 蘭のギルド初仕事


 学園を出てまっすぐ蘭とギルドへ向かう。

 今現在、魔王の出現の兆候があった地域は厳戒態勢になっている、らしい。らしいというのは一部の冒険者及び王立騎士団や魔術師しかその場所を知らないからだ。

 下手に人数が増えて、魔王の出現が早まるのを警戒した結果である。

 その場所には一般人は近づけない。

 ではどうするか。

 答えは簡単で、そういう地域に行けるほど強い冒険者になることだ。具体的には、ギルドから推薦されるようになること。ゲームの主人公もそうやって魔王退治に乗り出したのだ。


「これで登録は完了ですわね。

 では早速依頼をしたいのですが」


 冒険者ギルドへの登録は簡単だ。今回は既に冒険者の杏が説明をしたこともあり、よりスムーズにいった。

 まだ時間はあるので蘭にはさくっと依頼をこなしてもらう。

 だが、そこにちょっとストップがかかった。


「えぇと…ちょっと待って下さい。ラナさんでしたよね」


「はい、なんでしょう?」


「アンナさんと共にいくのでしょうか?」


「そのつもりですが…」


 どのような意図で確認されているのかがわからず困惑する蘭。

 杏もこの事態はよくわからず、とりあえず自分の立ち位置を説明する。


「一応私の立場は、蘭から護衛依頼受けたみたいなものだからね」


「大変申し訳ないのですが、それでは実績にできない場合があります」


 受付嬢は申し訳なさそうに言う。

 それで、双子はピンときた。


「ふむ…。

 冒険者歴が長いアンナが全部やってしまうから、ですか?」


「そういうコトです」


「えーでも私小さい頃も実績になってなかった?」


 杏がギルドに登録したばかりの頃は、様々なパーティが依頼に帯同させてくれていた。

 それでもきちんと依頼達成になっている。


「制度が少し変わったことと、アンナさんを連れてった人達が全員信用がおけるベテランだったというのがあります。

 ベテランの皆様が新人育成のために、何を経験させるのかみたいなのがありまして…」


「あ、なるほど。私そういうの全然知らないや。育成側には回ってなかったもんなぁ…。

 それに友達だから全部やっちゃいそうってのもあるかしら?

 ラナがお嬢様だからってのもあるかも? 普通のお嬢様はこんなことしないもんね。

 まぁどっちでもいいんだけど…困ったなー」


「制度が変わった、ということは、これから来るであろう学園生全員がそういったルール適用になるという認識で構いませんか?」


「そうですね。基本的に護衛を連れての依頼達成は達成と見なされないか、大幅な減点対象になります」


「ふむ…でも、それで貴族に死なれちゃ元も子もないしなぁ…どうしよう」


 正直な話、平時であればそれは良い制度だと言える。

 貴族の中にはズルをして自分で依頼をやらず、誰かを雇って依頼を達成させる者がいないわけではないからだ。

 けれど、今はちょっと困ってしまう。蘭は立場上護衛を付けない方が難しい。


「一つ、提案があります」


 どうしたものかと杏が悩んでいる中、先に蘭が打開策を思いついたようだ。


「なんでしょう?」


「ギルドから人員を派遣していただくというのはどうでしょう?

 護衛が護衛以外の任務をしないように。

 いえ、いっそギルドを通して護衛のみをする任務を出してしまいましょうか」


「あーなるほど。護衛以外の、依頼達成に対する助力をしたら護衛の方も減点されるって感じ?

 そうすればどの冒険者でもちゃんとやってくれるでしょ。冒険者にとってギルドの信頼損なうの、めっちゃ怖いもんね」


「えぇ。そうすれば冒険者の方も依頼が増えますし、学園生の身の安全も最低限保証されます。あとは学園生が力で真面目に取り組めば、単位取得は難しくないでしょう」


 かなり良い提案の様に思う。が、それはギルドの受付嬢が決められる事柄ではない。


「んんん…ごめんなさい、そこまでいくと私の権限で決めることはできないです」


「だよねー。これは学園とギルド双方のエライ人巻き込んでするべきだと思う。

 ただ、今は急ぎだからギルドの人から見張り頼めないかな?

 私が余計なことしない様に見張る人。今日中に20個くらい討伐と採集達成しちゃえば流石にラナの実力もわかるでしょ」


 学園生のこともそれなりに心配ではあるが、一番大事なのはこちらだ。

 蘭が冒険者となり、それなりの実力があるということを示すこと。それが今の双子の目的でアル。それが達成できなければ話にならない。


「今日中!? 20!? それはベテランでもないと無理でしょう?

 ラナさんってアンナさんが言ってた公爵令嬢様ですよね? 流石にそれは…」


 依頼の種類を選ばなければ一日に20件は結構できる。杏は実際にやったことがあった。

 ただ、杏が20件もやってしまうということは他の冒険者の仕事がなくなるということなので、あまり褒められたことではない。

 緊急時ということで許して貰いたい。と、思ったのだが受付嬢は他のことを心配したようだ。

 さっさと終わらせられる依頼は主に魔物の討伐だ。特に王都周辺にいる魔物は狩っても次から次へと出てくる。定期的に間引きしているので依頼は豊富な上日帰りが出来る。だが、魔物討伐には命の危険があるのは事実だ。そこを受付嬢は心配したのだろう。

 確かに初めてギルドの任務をこなすのに、討伐20件は無茶に見えるかもしれない。

 けれど、蘭の実力は杏が十二分に知っている。


「余裕余裕。少なくともラナは私とパーティ組んで足手まといにはならないくらいの実力だよ。

 実践不足ってとこは否めないけどね。

 ってことで、誰かギルドの暇な人貸してくーだーさい!」


「もう…アンナちゃんは強引なんだから…。

 少し待っていてください」


 苦笑しながらそう言うと、受付嬢はギルドの奥へ向かおうとする。

 その背中に杏は追い打ちをかけた。


「あ、ついでに今日中で帰って来られそうな依頼20件選抜もよろしくおねがいしまーす」


「本当に人使い荒いわね!?

 もう! わかったわよ!」


 そう言って今度こそ受付嬢はギルドの奥へ消えていった。

 これから大変忙しくなるだろうが、そこはまぁ仕事だと思って頑張って欲しい。実際彼女は結構仕事が早いほうだったはず。


「いやぁ…顔見知りが受付で助かった~。あのお姉さん親切なんだよね」


「助かりましたわ。けれど、20件も今日中にわたくしにできるでしょうか?」


「当然。というかやってもらわなきゃ困るわ。

 ここで実力示して貰わないと、今後パーティを組めなくなっちゃうもの。

 実際ラナはスケジュールみっちみちだから、一日に20件くらいさっさとこなせるようになってもらわないと単位落としちゃうわよ?」


「それもそうね。

 できれば王都内の雑用からきちんと段階を踏んでいきたかったのだけれど…。

 学園生はギルド内の評判あんまり良くないのでしょう?」


「あーそれもそうだねぇ。

 でもラナの場合は本当に時間ないから仕方がないよ」


「そこを仕方がないで諦めることはしたくないのです」


「…時間がかからないけど魔力がいる雑用とかならいけるかなぁ。おねえさん帰ってきたら相談してみようか」


 結局その日は双子の要望がほぼ通る形で依頼を受けることができた。

 幼い頃からギルドで着実に働いてきたことが評価を受けた形だ。杏が言うのならば、その提案で試してみようとのこと。そして、学園とも提案した方向で調整してくれるとも。

 そしてその日のうちに、王都内の雑用を含めた22種の依頼を蘭は見事一人でこなしきったのだった。


 勿論、テレパシーでの支援はした。だがそれも「この魔物は水辺の方が遭遇率が高い」「この薬草は規定数よりも多く持って行っても引き受けて貰える」と言ったアドバイス程度だ。

 特に魔物との戦闘は一切口を出していない。

 蘭は蘭できちんと修行してきたので、王都周辺にいるあまり強くない種であれば魔法で倒すことができるのだ。魔物の命を狩ること自体は初めてとのことだったが、危なげなくやりきっていた。


(今晩、寝付けそうになかったらいつでもテレパシー飛ばしてきていいからね。

 命を初めて刈り取った日って結構不安定になるからさ)


(アフターケアまでバッチリなのね。

 ありがとう。ついでにそのこともレポートに仕上げて学園生の快適なギルドライフに役立てて貰おうかしら…)


 そんな冗談を言い合いながら、蘭の初ギルド仕事は大成功に終わった。


閲覧ありがとうございます。


少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら


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