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32 仮説から導き出されること


「このまま魔力サーチやってみるから、ラナはそのまま束縛続けられる?」


「もちろん。

 むしろ逃がさないことだけに全力注げるから大分楽ですわ」


 頼もしい返事を聞いて、にっこり微笑む。

 なんとか網から抜け出そうともがくキックラビットに近づいて、杏はその腹に触れた。思ったよりも毛はフカフカだ。普通の野ウサギよりも毛が長いかもしれない。そういえばキックラビットの毛皮は冬に大人気だった、などという、どうでもいい情報を思い出しながら、魔力を流す。

 一番最初にディガルドにしたのと同じ、探査用の微力な魔力だ。しかし、今回の場合痛がらせないようにという気遣いは無用。杏のやりやすいように魔力を流す。キックラビットにしてみれば魔力回路の中を無理矢理探られているような感じだろうか。暴れる力が強くなるが、蘭がそれを許さない。むしろ、身動きができないように魔力網をガチガチ強固にしている。


「うーん…」


「何かわかった?」


「うん。なんていうか…魔力が汚い。

 汚染された魔力っていうか…」


「ふむ。魔物の中に流れているのは魔力で間違いないの?」


「それは間違いないよ。というか、魔力回路そのものは、魔物であっても他の生き物と変わりないんじゃないかな? 他の生き物の魔力って回路調べたことないけど」


 読んだ書物によれば、動物でも植物でも、この世界にいるすべての生物には魔力回路があると言われていた。なので、キックラビットにも魔力回路があるということは自然だと思う。


「そういえば魔力回路ってよくわからないものよね。

 漠然とそういうもの、として捉えているけれど。もし可能なら普通のウサギも調べて見た方がいいかもしれないわね」


「だねぇ。

 とりあえず、負の魔力と呼ばれるものが、どういうものかっていうのはわかったよ。ほんと濁ってるってか汚いっていうか…。うん、一刻も早く排除したいって気持ちになるのわかる感じ」


「具体的に言うと?」


「うーん…。

 手が汚れたら、洗うでしょ? でもその汚れに効くのが何かわからない。石鹸でおとした方がいいのか油でおとした方がいいのか…。もしかしたら、普通のやり方じゃダメかもしれないから、もういっそナイフでこそげおとしてしまえ、みたいな?

 一刻も早く汚れを落とすためなら多少の犠牲を払ってもいい、みたいな追い詰められる感覚がある。今もすごくゾワゾワするよ」


 負の魔力には本能的な嫌悪感を感じるようだ。

 異世界モノでよくある、魔物を調教して味方にする、などということは微塵も考えたくない。一刻も早く除去しなければ、という気持ちになる。


「うわぁ。アンナがそうなら相当よね。

 …ねぇ。思ったんだけど汚れなら浄化魔法でキレイにできないのかしら?」


「へ? あぁ、考えてもみなかった。確かにこれほんと汚いから浄化できそうな気が…やってみるね」


 キックラビットの中に流れる魔力を根こそぎキレイにする。キレイになったあとは、自分達が扱っている魔力に近いものになるだろう。

 そんなイメージを持ちながら浄化魔法をかける。普段の使用よりも、気持ち魔力多目で。


「えっ…」


「なにこれ、どういうこと?」


 強めの浄化魔法をかけられたキックラビットの姿が変質していく。

 異常に発達した脚は普通よりちょっとたくましめのサイズに。

 濁った赤い目は愛嬌のあるルビーに。

 浄化魔法をかけられたキックラビットは、ちょっとたくましい野うさぎへと変化していた。


「はい? なに? なぜ?」


「…抵抗する力もかなり弱い。というより、普通に食べられると思って怯えてるような…。

 でも、野うさぎにしてはあの…大分でかい、かしら?」


 目の前のキックラビットだった生き物、おそらくは野うさぎは、今まで見たこともないほどに大きかった。キックラビットだった頃よりは縮んでいるものの、養殖してたらふくエサを食べさせてもこのサイズまで大きくなったかどうかは怪しいところだ。


「うん、絶対にでかい。

 でも、今すぐ倒さなきゃ、みたいな危機感みたいな、圧迫感みたいなの、ない…ね?

 ていうか、私野うさぎ狩りの依頼受けたことあるからわかるけど…これ普通よりちょっとたくましい野うさぎであってる、と思う」


「負の魔力に汚染されたから魔物になった…ということ?

 それで巨大化した? で、浄化したら魔物じゃなくなったけどサイズは上手く戻せなかった?」


「かもしれない…? もしかしたら魔物になって食生活変わって立派になっちゃった説はあるかもしれないけれど。もしくは浄化の副作用?

 そもそも浄化魔法ってあんまり一般的じゃないんだよね。使える人いないこともないとは聞いたけど」


「…検証しましょう」


 こうやって仮説ばかり立てていてもラチがあかない。そう思った蘭は護衛の人達を呼びつける。捕縛や検査はコチラでやり、その記録をとってもらうためだ。

 単純に倒したり、浄化後食べてみたり色々。蘭が食べることはかなり止められたけど、強引に食べさせた。ちなみに魔物状態の時も杏だけが食べた。体内に残る微量な負の魔力で大変気持ち悪くなったが。

 様々な体を張った検証の結果、魔物とは負の魔力に汚染されたふつうの動物のことだろうという仮説が立てられた。


「わたくしはこのデータをしかるべき研究所に持っていきますわ」


「うん、お願いします。一般人の私の手には余りまくり問題だよ」


「アンナさんにも研究の一端を…というより研究の指揮をとっていただくよう手配しますわ」


「なんで!? 私、一般人!」


「そもそも浄化魔法の使い手が少ないという話はしたでしょう? あと、浄化魔法に使う魔力は微々たるものとはいえ、何度も使えば普通に魔力切れになります。

 アンナさんなら何千回やっても浄化魔法で魔力切れになることはないでしょう?」


「…そういえば確かに魔物を浄化するときって、普段の浄化魔法より魔力くったような…」


 普段の浄化魔法を1とすれば、魔物浄化は2か3くらいだろうか。ただ、杏の魔力総量がこの比率でいくと1万は軽く越えるため、誤差のようにしか感じられない。

 だが、ごく普通の冒険者がやるとなると十数回も浄化をすれば魔力切れが起きる可能性がある。


「あなたの弟妹にこの任務がいかないようにしますので、あなたが頑張ってください」


「うぐ、確かに私以外の浄化魔法の使い手の筆頭って弟たちだけどさぁ!」


 姉としては弟たちを危ない目に合わせたくはない。特に弟は最近冒険者に憧れを持っているらしく、やたらと冒険譚を聞きたがる傾向がある。魔物の調査といえば嬉々として手伝いに来る気がした。


「わかったわよぉ、やればいいんでしょやればー!

 でも、私は検証とか難しいことわかんないからね?」


「実際に魔物の相手をするのと、思いついたことがあればなんでも調査員に言ってみるだけで十分だと思いますわ。

 情報収集や研究はその道のプロに任せましょう。捕縛がイマイチ面倒ですが…」


「毎回ラナに来て貰うわけにはいかないものね」


「そこはどうにかスケジュールをこじ開けますわ。それと、捕縛と浄化魔法の使い方を教えることもしなければなりませんわね」


「冒険者ギルドで依頼だすのもアリだと思うよ」


「そうですわね。では、まずは王都へ戻りましょう。

 結構深追いしてしまいましたわ」


「確かに…。じゃあ研究の方どうにか進めておいてくれる?

 私先にギルドに言って束縛と浄化魔法使えそうな冒険者さん内々に探しておくから」


 思っていた以上の成果が手に入ったものの、まだ確証には至っていない。

 夏休みは、あまり学生らしい過ごし方を期待できそうになかった。


閲覧ありがとうございます。


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