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29 何故かクラス一丸


「ねぇアンナちゃんこれってどういうこと?」


「あ、それ? それはどこだったかな…教科書のどっかにわかりやすい説明があったような…」


「ラナさん、質問よろしいでしょうか?」


「えぇ。何かしら?」


 試験前の教室にて。

 クラスメイトが何故か一堂に集い、試験対策に勤しんでいた。中心は蘭と杏だ。平民は杏に、貴族は蘭に集中してひっかかっているところを率先して質問しに来ている。


「公式が違う。何か勘違いをしていないか?」


「え~…そうだっけ? じゃあどれだ公式…」


「はは、エルンストこわーい。カインがんばれー」


「アルフォンスくん、面白がってないでこっちも教えて」


「はいはい。…ユーゴくん、もしかして経済以外やばい?」


「だから勉強会に参加してるんじゃない」


 攻略対象たちもそれぞれ和気あいあいと勉強している。ユーゴとカインは得意分野以外はお世辞にも成績がいいとは言い難いため、結構苦戦しているようだ。エルンストとアルフォンスは当然のように教える側になっている。


「アンナさんー、アルフォンスくんがいじめるんだけどー」


「いや、いじめてはいないかと。ただ、アルフォンスくんは教えてもいないですよね?やる気ないならお出口あちらですよ」


「こわっ! アンナさんこわっ!

 いやでもどう教えていいかわかんなくてさ…」


「どれでしょう?」


 杏が教えていたメンバーは今全員自分の課題に集中して質問はないようだ。平民仲間から少し離れてユーゴとアルフォンスの方へ向かう。

 弱り切った顔のユーゴに苦笑しつつ、一緒に教科書をのぞき込んだ。


「ここー。そもそも魔法学って全体像がイマイチ掴みにくくてさぁ」


「あぁ、なるほど…それは聞く方を間違えたかと…。確かアルフォンスくんは生まれた時から魔力はズッ友だったとラナから聞いてるもの」


 ユーゴはこう見えて経済学のスペシャリストとしての入学だ。一応魔法も扱えるが得意なわけではない。魔法に馴染みが薄いため、魔法学をとっつきにくいと感じても仕方がない。先ほど教えていた平民仲間も概ね同じような感じだ。

 対して貴族は魔法を使えるものが多い。王族に至っては、全員がなんらかの魔法の達人だ。その中でもアルフォンス王子は魔法に関しては天才と言っても過言ではない人物だとか。幼少期から見ている蘭が言うのだから間違いないだろう。


「えっラナってば俺のことそんな風に思ってたの?」


「思ってたというより、今現在もそう思っていると言いますか…。

 魔法に限らずアルフォンス様は全体的に天才肌なもので。私のような凡才の努力過程をあまりわかっていただけないんですもの」


「ラナが凡才…盆栽なら私は何かなぁ…鉢植え?」


「学年トップ集団がそういう自虐に入るとみんなツッコミづらいからやめようね?」


 ユーゴからのツッコミが入る。周りを見渡せば恨みがましそうな目線が多数見受けられた。


「ま、クラーク先生から押しつけられた。もとい、お願いされたからちゃんと教えるってば。

 クラス全員補習なしで夏休みを迎えましょ」


 攻略対象たちとも最近は結構話すようになっている。フラグはおそらく折れただろうし、何より杏が、ゲームの立ち位置からするとガチモブであるディガルドに淡い恋心を抱いたことが大きい。

 蘭としては一刻も早くくっついてほしい、と思っているらしいが、杏はまだそこまで考えられていないのが唯一の難点かもしれない。前世の年月プラス今世の年月で数えれば既にアラサーと言っていい年齢なのだが、恋愛というものは未だに杏にとっては未知なモノだ。

 物語で楽しむモノであって自分の身に起こるなんて思っていなかったからどうすればいいかわからない、というのが杏の主張である。


「ところでアンナ。

 夏休みちょっと付き合っていただきたいところがあるのだけれど」


「ラナが平気な日程組んでくれたら合わせるよ。

 夏休みもなんか休みじゃなさそうだもんね。それはアルフォンスくんもだっけか?」


 これは、蘭と打ち合わせした通りの会話だ。

 ここ最近のアルフォンス王子は何故か杏に対抗意識をもっているらしく、こっそり杏と出かけようものならストーキングしてきそうな勢いなのだとか。なので、こうやって大勢の前で宣言してしまおうとのことだ。日程自体は既に決まっており、アルフォンス王子がどう頑張っても抜けられない王族の公務とぶつけて物理的にも来られないようにする。


「あー…またラナがアンナさんにとられてしまう…」


「その代わり卒業したら私の親友独り占めでしょう?

 羨ましいのはこっちの方なんだけど」


「学生時代という貴重な時期は今だけなんだよ…」


「お、アルフォンスくんはわかっているね。女子学生という時期はなにものにも代えがたい魅力だよね」


「…ユーゴくんまで…発言にオヤジ入ってない?」


「ですが、アルフォンスの言うことも一理ありますよ。アルフォンスだけでなく、ここに居るメンバーは将来的に上下関係がハッキリする立場になりますから」


「エルンスト…それ言わないで…。

 折角友達が出来たのにさぁ…」


 ガックリとアルフォンスが沈み込む。

 王子らしい威厳はないかもしれないが、下手に完璧超人として君臨されるよりよほど良い、と杏個人は思っているのだが。

 実際ゲームの時のアルフォンス王子がそんな感じで、ヒロインにだけは実は甘えたなところや不安を吐露する形になっていた。弱さを見せるのはヒロインにだけ、という部分が数多のプレイヤーを魅了した一因だろう。

 だが、現在のアルフォンス王子は基本スペックはべらぼうに高いモノの、完璧超人かと言われれば首を傾げる。蘭に甘え、クラスメイトに冗談をいい、幼い頃から知っているエルンストやカインをからかう普通の学生だ。平民であるユーゴや杏といったメンバーにも気負いなく話しかけてくる。

 とりあえず、双子としては「夏休みにアンナとラナでおでかけ」という話題がさらっと流されたのでオールオッケーだ。


「夏休みって学生だとワクワクイベントなんじゃないの?

 俺、公務で押しつぶされて死んじゃう…」


「人材が足りないのでしょうかね?」


「いえ、王宮の人材が足りないわけではありません。

 単純に次期国王への期待が高いだけかと」


「でも正直次世代もここまで大変にさせるのは少々酷でしょうか…。

 アルフォンス様は何一つ手を抜いていませんもの、少しくらい息抜きがあっても良いのではないかと思ってしまいますね」

 

「アルフォンスくんかわいそー…ところでここどうなってんの教えて」


「ねぇそれ本当に可哀想って思ってくれてる?

 まぁ教えるけどさぁ」


「今ここで人材育てておけば公務が楽になるんじゃない? 頑張れ頑張れ」


「あら、アンナ。それは名案ですわ。

 そうと決まれば絶対にこのクラスから補習者は出せませんわね」


「あ、やばい。アルフォンス王子ガチ勢のスイッチ押しちゃった…。

 皆ごめーん頑張れ」


 蘭はクラス内では「アルフォンス王子の良き理解者兼一番のファンで未来の嫁」という立場を確立していた。蘭をないがしろにするとクラス一丸となって王子に反旗を翻すのも辞さない、という雰囲気すらある。少なくともこの状況でゲームのような断罪イベントは起きようがない。その事実に、今までの努力が報われた気がした。

閲覧ありがとうございます。


少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら


最新話下部より評価をよろしくお願いいたします。


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