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28 双子の攻防②


 目の前にはキャパオーバー気味で混乱している蘭。

 まずは力尽くでも話を聞いて貰うしかないだろう。そう決めた杏の行動は――。


ゴンッ!


「いったぁああああ!?」


 頭突きだった。

 ゲームに登場する悪役令嬢ラナよりも優しそうな雰囲気に成長した蘭の形のいいおでこに向けて、思い切り頭突きをする。

 双子の情けで一応身体強化はしなかった。故に、杏も結構痛い思いをしている。


「うん、結構痛いわ。

 普段どれだけ身体強化に頼ってるかって感じね」


 蘭のおでこはわかりやすいほどに真っ赤になっている。自分では見えないが杏も同じ状態だろう。いてて、と自分のおでこをさする。

 痛みで涙目になっている蘭に、杏は言葉を続けた。


「あのね、確かに今ちょっとトキメいてる人はいる。

 それをちゃんと報告しなかったのは私が悪いわ。ごめんなさい。

 でもねぇ、不安になったら蘭も言葉にしてくれなきゃ困る。今の私たちには何故かテレパシーって便利機能があるんだから、それをお互いちゃんと活用しなきゃ」


「…だって、相談したら杏は恋を諦めちゃうことに…」


「うん、そもそもそこの勘違いから解消しよう。

 まず今恋愛してるかは私にはわからん。二次元しか恋人いなかったからね!

 それから、私が今トキメいてるのは、ゲームの攻略対象者じゃない。ゲームで言うならモブ。マジモブ。名前すらも出てない人だと思うわ。

 蘭なら分かるかもだけど…図書館にいるディガルドってイケオジ、ゲームに出てきた?」


「あ、ディガルドさん?

 彼すごく杏の好みだろうなって思って話そうとは思ったのよ。まぁ脳筋くんに邪魔されちゃったけど…って、え?

 マジ? 好みだろうな~とは思ったけど彼?

 彼なら…うん、絶対ゲームには出てこない。図書館イベントも網羅してるけど司書とか出てこなくてこの図書館セキュリティガバガバか? とか思った覚えあるもん」


 好みがモロバレしているのは少々恥ずかしい気もするが、今はそれどころではない。蘭を暴走ヒロイン状態から戻さなければならないのだ。

 それでも初めてするに近い恋愛話はちょっと気恥ずかしく、頬に朱が走るのは抑えられなかった。


「うん、そのディガルドさん。

 ガチモブなら万一私が恋愛したとしても、ヒロイン恋愛ルートからの悪役令嬢の破滅ルートにはならないでしょ?」


 自分のディガルドへの気持ちが恋愛感情なのか萌えなのか定かではないが、それでも悪役令嬢破滅ルートとは縁がないことだけは確かだ。彼は教員であり、悪役令嬢を断罪するなんて方向にもならないだろうし。


「ガチモブ…そっか…。

 私勘違いしてたのか」


「わかってくれて何よりだよ」


 憑きものが落ちたように落ち着く蘭。

 とりあえずこれ以上の暴走はおさえられたようだ。


「もう、それならそうと言ってくれればいいのに」


「いやぁ…正直あんなイケオジいると思わないじゃん。しかも妻帯者じゃないって知ったの結構最近だしさ。

 あと、ディガルドさんとか図書館関連で報告したいことも結構あるし、試験関連も相談したいんだけど…時間大丈夫?」


「次の授業までなら大丈夫よ」


 そうして、双子は今までのつもる話をし出す。

 ディガルドの治療を開始して魔力がカンストしたことや、魔物に対しての新たな論文を発見したことなど。

 蘭からは、いくつかのパラメータを更にあげる方法などが報告された。


「結局マナーカンストは蘭にしか無理そうだね…。でもここまできたら私も退学になるなんてことはなさそうだし。マナーに関しては私はもう無理に上げなくてもいいかなぁ」


「確かにね。卒業後とか…正直まだ考えられないけれど、将来的に杏がカンストするほどマナーが必要な場所にいくとは思わないし」


「ちなみにカンストマナーが必要ってどんな?」


「公的な外交時…かしら?」


 そんなものがあるのは王に近しい立場の人間か、外交を司るエリートたちだけだ。

 そしてこの国の場合、そういった場所は普通女性はいない。いるとすれば王妃や王女だ。杏にはほぼ不必要なスキルと言い切っていいだろう。


「あ、うん。絶対ないわ。

 じゃあマナーとか…あと学力方面はもうほどほどでいいかな」


「大丈夫だと思う。まぁ…もうエルンストとかにはかなり気に入られちゃってるけどね」


「それな…。なぜなんだ…」


 頭を抱える杏と、苦笑する蘭。

 ただ、杏がゲームのガチモブイケオジに恋をしたのだから、もう攻略対象との恋愛ルートはなさそうだ、と安心したらしい。笑顔も少し明るくなっている気がした。


「ヒロイン思考に陥ってたときさぁ。

 全部私がやらなきゃ…って思ったらもうホントキャパオーバーになっちゃって。やらないことをきめるのも大事よね」


「そりゃそうでしょ。蘭は私と違って一点集中できない環境にいるもの。

 次期王妃に対する教育も始まってるんでしょう? それになんだかんだアルフォンスくんの公務も手伝ってるんだっけ?

 無理しちゃダメだって。過労死、ダメ、絶対」


 未来の王子妃である蘭もそうだが、アルフォンス王子のスケジュールも「ちょっとそれはどうなの?」という詰まりっぷりらしい。

 将来的にはもう少し楽になってくれるといいのだが。


「今回痛感したわ。私そんなに器用に何個もこなせないもの。

 …悪いけど、魔王との対決の時は私火力にはなれないと思ってほしい。

 その分バフ特化になれるよう頑張るわ」


「勿論。火力役は任せて。

 でもその前に、夏休み辺りに暇とれたら一緒に試してみたいことがあるんだけど」


 先ほどさらっと報告した事の中から、ディガルドに教えて貰った論文の話を再度する。

 魔王や魔物についての考察だ。これがうまくハマれば、もっと労力をかけず魔物を倒すことだって可能かもしれない。


「【負の魔力】ねぇ…。正直、信憑性があるかって言われると悩むところだわ。なんて言えばいいのかしら…私は公爵令嬢として育ってきた記憶もあるじゃない?

 だからなのかしら…。魔物っていうのは倒すしかないものっていうのが常識だったというか…」


「教育の差、かな?

 私は平民育ちだから、魔物っていうとおとぎ話の中のものかちょっと凶暴な野生動物って印象だったんだよね。

 でも、全然違った」


 実際に冒険者として魔物と対峙した時の感覚は、今でも忘れられない。

 あれは、この世に存在してはいけない何かだと直感的に思った。ぞわりと、自分の中に流れている魔力とは相容れない何かがいるような、そんな感覚だった。

 端的に言えば、どれだけパラメータが高くても恐怖を感じる何か。魔物はそういった印象を受けた。


「私はまだ魔物を直接目にしたことはないけれど…そうね、そう教えられてきたわ。

 ただ、その【負の魔力】とかが発見されていないだけで、ないとは断定できないところがポイントよね。もし発見できれば魔物に対する対応策が違ってくるかもしれない。

 つまり、魔物を生け捕りにしたいってこと?」


「そうそう。私は冒険者もやってたせいでとにかく倒す! 息の根止めてやんぜ! って感じだからさ。バフ特化の蘭の力を借りたいと思って」


「弱体化や捕縛なんかが出来ればいいのかしら…?」


「そうそう。無力化してもらえればこっちで解析するから。幸いディガルドさんの治療始めてから魔力ソナーって言えばいいのかな? 魔力や魔力回路を探知する魔法うまくなったんだよね」


「あ、そういえばディガルドさんの話も聞きたいわ。いつからそんな仲良くなったの?」


「うん、それでね。夏休みに入ったらいっそのこと蘭も冒険者登録して…」


「ちょっと大事なところ飛ばさないでくれる?」


「魔物研究も大事でしょ! そんな萌えか恋愛かわかんない話したって楽しくない!」


「私は楽しいわよ?」


 サロンに入ってきた当初の切羽詰まった表情はどこへやら。蘭は楽しそうにコイバナを聞き出そうとしてくる。落ち込んでいたりするよりは100倍良いものの、自分が主役のコイバナが苦手な杏は必死に話題をそらすのだった。


閲覧ありがとうございます。


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