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20 初手フラグ折りは頭脳担当


(面白そうな授業筆頭がクラーク先生とか…いやでも教師と生徒って普通は恋愛フラグ立たないよね!?)


 学園での生活がはじまって数日が過ぎた。

 授業は基本的に選択制で、平民出身者の多くはまずマナーをとる。しかし、アンナにとっては既にしっている内容ばかりだった。


「うーん…単位としては多くとっておきたいところではあるのだけど」


「確かにそうですけれども、アンナの場合マナーはあまり必要ではないと思うわ。わたくしが鍛えましたもの」


「そうなのー。一回授業出てみたけどやっぱり基礎講座って感じでラナに教えて貰ったことばかりなのよね。ただ、その基礎講座もとってないのかって目で見られるのはちょっとなぁ」


「あれ? アンナさん知らないんだ?

 既に修了済みの科目は申請すれば週末に試験をやってもらえるよ。飛び級する人はそれをフル活用してドンドン必要単位数修めてるんだって」


 ラナがいるところにアルフォンス王子あり。

 いつの間にか三人で授業の相談をしている形式になる。ここだけ凄く変な空気だよなぁ、と考えていると、一人の猛者がやってきた。周りが遠巻きにしていることを気にした風もない。


「殿下、少々よろしいでしょうか」


「……」


 近づいてきたのは青髪眼鏡の美人さん。攻略対象のエルンストだ。宰相の息子であり、未来の王子の側近として育てられたため、王子との仲は結構気安い…と、いう風に記憶していたのだが。何やら雲行きが怪しい。話しかけられたのにアルフォンス王子が返事をしないのだ。


「殿下?」


「…あのさぁエルンスト。俺、新入生代表挨拶でも、お前の前でも宣言したと思うんだけど。

 俺は学園にいるあいだは一学生でしかないよって」


「それでも殿下は殿下でしょう」


「やだ」


(アルフォンス王子って意外とこどもっぽいの?)


 テレパシーを使って蘭に話しかけてみる。

 正直どこでフラグが建設されてしまうかわからないため、アルフォンス王子と杏の会話は険悪には見えないように気を遣いつつも最低限だ。

 そのため、杏はアルフォンス王子の性格をよく分かっていない。ゲームで見たときは完璧超人に見せようと頑張る努力家だった気がするが。


(うんまぁ…。なんというか…ゲームの時とは少し性格が違うかもしれないわ。

 私の影響かもしれないけど。

 周りに甘えることも覚えたし、王子らしさっていうのを意識して振る舞わないようになったというか…。ま、イケメンにかわりはないけど)


(ノロケか!

 でも、確かに。ゲームで王子ルート通ったあとってこういう風になりそうだよね。

 よかったねぇ。蘭にぞっこんじゃん)


(まぁ…ゲームの強制力とかそういったモノがない限り、杏とアルのルートはない、と思うわ)


 蘭のノロケ混じりの話を聞いている間にも、アルフォンス王子とエルンストの会話は続く。


「全くそんなワガママを言われても困ります。

 昔はもっと聞き分けがよかったのに」


「そういうエルンストも昔は可愛かったよねぇ。今はこーんなにひねくれちゃって。

 ま、とにかくそういうことだから。俺と話したかったら最低限殿下はやめてよね。やっとクラスメイトが会釈やめたり、様付けやめてくれたところなんだから」


「その割にはラナ嬢からは様付けですが?」


「未来のお嫁さんだもの。特別扱いして悪い?」


(なんだかこっちに話向いてきたんだけど…めんどくさ)


(だねぇ。めんどくさいし、さっさと授業詰めちゃおうか。アルには私から伝えるからなんとかなるでしょ。というか、アルだって個人でとる授業あると思うのよねぇ)


「ねぇねぇ、週末に試験受けてクリアできそうなヤツあと何あるかな?」


「そうですわね…。まず初級マナーは受けてしまいましょう。わたくしもそうしますわ。他は…経営の方もアンナさんなら大丈夫なのでは?」


「あー…つまみ細工の責任者になるときに結構勉強したからいけるかも…。

 そういえば試験落ちのペナルティって何かあるのかな? ないならもう全部受けて興味あるのだけに全力注ぎたいんだけど」


「どうなんでしょう? 試験の申し込みをする際に確認してみましょうか」


「えーちょっとちょっと。二人で話進めないでよ、俺すねるよ?」


「だってアルフォンスくんはエルンスト様とのお話が終わってないでしょう?」


「内容が決まりましたらきちんとお教えしますわ」


「…アンナ嬢」


「はい、なんですか?」


 ここで、話の矛先が杏に向いた。


「…大変不本意ですが、アルフォンスの言うようにこの学園内では誰しも一学生でしかありません。アルフォンスに敬称をつけないのでしたら、私にも同じようにお願いします。

 それに…あなたには個人的に大変興味を持っています。平民でありながら入学試験の成績は私に並ぶほどの方ですから」


 はい、ここでエルンストの攻略フラグが立ってしまいました。

 このゲームの攻略対象男性は、対応しているパラメータが高いと無条件で好意がうなぎ登りになる。好意の基礎値が高くなる、といえばいいだろうか。エンディングを迎えるにはその他にも必須イベントを起こしたりしなければならないわけだが。

 このイベントは、学力が一定値を越えると起こる出会いイベントだ。

 ただ、これは想定の範囲内。正直パラメータをガン上げしまくったので、どの攻略対象とも出会わず過ごすのは無理だろうというのが蘭と話し合った結果である。

 では、どうすればいいのか。答えは簡単、フラグを真っ二つにする。


「そうですか。でも私は貴方に興味ないですよ?」


 バキ、とフラグとエルンストの心が折れる音が聞こえた気がする。

 ゲームのこのシーンで現れる選択肢は二つ。

『私なんてとても…』と謙遜するか『そうですか。私は貴方に興味がありません』とけんもほろろにするかの二つ。どう常識的に考えても前者を選ぶだろう。しかし、それでは蘭の死亡フラグが立ってしまう。

 大変心苦しいというか、どう考えても常識がないこの返答。頑張って口にしたが、内心では頭を抱えている。


「ほう…?」


「だって学力って結局物差しの一つで、どう使うかが問題ですもん。現実の問題できちんと応用できるか、じゃないですか。だから試験結果で興味を持ったと言われてもあんまり…。

 それにこの国じゃ女がどれだけ成績良くてもあんまり意味ないというか…こざかしいって言われちゃいますしね」


「それは王子として俺も耳が痛い問題だなぁ。

 ラナもこんなに優秀なのに、王子妃としての仕事しかしないのはちょっともったいないとは思うんだよね」


「頑張って変えてくださいまし。わたくしはともかく次世代はもっと自由が広がってほしいと思っておりますもの」


「まぁそんなわけで成績って言われてもって感じですね」


 うまいこと王子が合いの手をいれてくれたので、それにのっかる。


「…やはり、あなたは面白い方のようだ」


(あれ? これフラグ折れなかった? なんで?)


(フォローしたから…かしら…? でも、確かにあのまんま放置って言うのもめんどくさそうだし。フラグ折るのって難しいわね)


「私もアルフォンス同様、様を付けるのは遠慮して貰いたいものだ。

 アルフォンスの言葉を借りるなら『学生のうちくらいは』というヤツだな」


「…はぁ」


 はじめてのフラグ折り。

 おそらく、失敗。


 フラグ折りは大変難しいようだ。


閲覧ありがとうございます。


少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら

最新話下部より評価していただけると嬉しいです。


また、ブクマや感想も大歓迎です。

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