02 テレパシー☆ガールズ
本日二度目の更新です。
双子で乙女ゲームの世界に転生。
しかもそのヒロインと悪役令嬢に。
その事実に私たちは一瞬だけ遠い目をしてしまった。うん、ちょっと意味がわからない。
だが、現実となったこのゲームの世界に一時停止機能など備わっているはずもなく、時間は動く。
「ラナお嬢様!
いけません! そのような下々の者と関わり合うなど!」
中身が蘭の美少女の後ろから、いかにも「じいや」といった感じのおじいちゃんがわめく。なんというか、テンプレお貴族様って感じだ。
でもそれで再確認する。今、私と蘭の間には身分差なんてものがあるらしい。
「うるっさーーい! じいは黙ってて!
この子に危害加えたらタダじゃおかないわよ!」
「しかし、ラナお嬢様をお守りするのがこのじいの仕事であり…」
中身が蘭の美幼女、ラナお嬢様のじいやは、ラナが癇癪を起こしても気にせずクドクドと言いつのる。蘭はどちらかと言えば計画を立てるのが好きな知性派だった。双子の賢い方、なんて言われてたりする。けれど、ラナという少女と融合したからなのか、今は派手に地団駄を踏んでいた。以前では考えられなかったことだ。あと、そんな姿も可愛いのだからちょっとずるい。美幼女ずるい。
(…うわー…なるほどこれが悪役令嬢に成長する美幼女かぁ…)
(私は杏じゃないからじじいはお呼びでないのよ! 美青年ださんかーい!)
(はっ!? 誰が爺専よ! 私はかっこいいおじさまが好きなんだっつーの!)
((んっ!?))
じいとラナのやりとりをぼんやり聞いていると、唐突に頭の中に声が響いた。
それは、とても聞き覚えのある声で…。
「じい、ちょっと黙って。
ねぇ杏今喋った?」
「喋ってない…ってことは…」
((テレパシーか!!))
流石双子のシンクロ率で心の声がバッチリハモッた。
どうやら二人はテレパシーが使えるらしい。口でものを伝えなくても、これで意思疏通ができるというわけだ。
ならば、この場で答えが出るかもわからない話し合いをするのは得策ではない。どちらからともなく目線を合わせて頷いた。
この場を穏便に治めるためにはこれ以上会話をするのは難しいだろう。
もしかしたら、突然脱走したアンナを心配して両親が飛んでくるかもしれない。むしろ、今探しに来ている最中かもしれない。
そうなれば、二人がとれる行動は一つだ。
(私、あの通りまっすぐいったところで、これから食堂ひらくとこに住んでるから!)
(おっけ! 今晩周りがうるさくなくなったあたりでもう一度交信試みましょ。
私この町の貴族街の一番上に偉そうにふんぞり返ってる家にいるから)
「じいうるさーーーーい! もう、気分悪いわ。
そこの小娘もとっとと帰れーー!!」
「ご、ごめんなさーい」
怒鳴り散らす貴族の娘とそれに怯えた少女という体でその場は解散した。
本当ならもっと話し込みたいという気持ちはある。テレパシーが遠く離れても使えるとは限らないからだ。でも、なんとなく、このテレパシーは夜でも使えるという予感がある。
それは、姉がこの世界にいると思えたのと同じような、確信めいた感覚。
だから、躊躇うことなくアンナはその場を離れた。
「アンナ! この馬鹿ー!!」
家に着くと案の定、火のついたように泣いている弟妹がいて、心配した両親に泣くまで怒られた。それは当然だろう。今の自分はアンナという5歳の幼い女の子なのだ。しかも、更に幼い弟と妹を置いての脱走。怒らないわけがない。
ただ、その怒りは「大切な家族に何かあったらどうするんだ」という心の裏返しなのできちんと受け入れる。たくさん泣いて、ひたすら謝って、弟が珍しくアンナを庇ってくれて、また泣いてしまった。どうにも5歳の体に精神が引きずられているようだ。こんなにギャン泣きしたのはいつぶりだろう。前の記憶では私が泣いているときは大概蘭も泣いていた気がする。
あちらの家族も大事だが、このアンナの両親も弟妹も、とても大切な家族であるという実感がある。時間が経って、記憶の混乱が落ち着いてきたせいかもしれない。
どちらも大切な家族。その中にはもちろん今日であったお人形のように綺麗な少女も含まれている。例え外見が違っても、彼女は私の姉なのだ。
そんなことを再確認しながら、記憶の棚卸しをする。
そうして徐々に、前の私、杏は死んでしまったのだということを実感していった。
(転生ってことは、前の世界とか…杏と蘭の双子には戻れないってことよね。
じゃあ現実を見ないと…。
確か蘭は『戦え!星乙女』って言ってたっけ)
ゲームの設定を思い出す。
確かこのゲームは乙女ゲームでありながらRPGの要素を足した新しいジャンルのものだったはず。
物語の始まりは現代でいう高校一年生、15歳から。
そこで主人公は膨大な魔力があることがわかり、貴族もいる表向き身分差別がないと言われる学校に通う。
一年生の間は所謂パラメーター上げパート。マナー・流行・一般教養、それから魔法の基礎について座学で勉強するのだ。
そして二年生からは実技に…となるはずが、国内で魔王なるものが復活の兆しを見せる。そこで魔力のある学園の生徒達も、対魔王の戦力としてあてにされるというわけ。
(普通に考えたら学生頼んなよって話よね。
でも、思い出してきた。
このゲームパラメータ上げサボると即バッドエンドになるし、そもそもパラメータ上げめんどくさいしで私あんまりやってないんだ…)
逆に蘭はこういうパラメーター要素とかがあると燃えあがるタチだったようで、かなりハマりこんでいたはず。
攻略対象そっちのけで魔王を瞬殺することに命をかけていた覚えがある。
(これ蘭が主人公に転生したほうがよかったんじゃないのかなぁ…。
ていうか、悪役令嬢って大概魔王側の準ボスになって消滅してなかったっけ?
…やばいやばい、主人公と悪役令嬢が両方生き残るエンディングあったかどうかわからない…!!)
思い出した事実に杏は驚愕する。
一応折角買ったゲームということで、一通りクリアした覚えはあるが、どのルートを通っても悪役令嬢ラナは主人公に立ちはだかり最後には消滅していた。
そうじゃないルートも一応あるにはある。だが、それは主人公が本業である学業をサボり退学、魔王に対抗する戦力が足りずに国ごと滅びるなど悲惨なエンディングだった。
(…このゲームに推しメンいないから、フラグをへし折ることに躊躇いはない。まだ見ぬリアルイケメンよりも蘭の方が数倍大事よ!
それよりも、どのルートを通れば円満解決するわけ!?)
記憶が戻って早々暗雲が立ちこめる。
死んだ記憶がある以上、杏も蘭もこの世界で生きていかなければならない。
だが、ゲームのルートに乗っかってしまえばかなりの確率でどちらかが死んでしまうのだ。
(ぶっちゃけ、ゲームのルートどれかに入れば高確率で悪役令嬢の私が死ぬわよ)
グルグルと考え込んでいると唐突に蘭の声が聞こえてきた。
まず聞こえてきた声にホッとする。もしかしたら遠距離ではテレパシーが使えない可能性もあったからだ。
(ネネ! よかったー!
遠距離だとテレパシー使えないのかと焦っちゃったよ。
ところで、高確率で死ぬってやっぱり?)
(私はアンタと違って全ルート制覇したからよーく覚えてるわ。
主人公が死ねば大体世界が破滅、主人公が誰かのルートに入れば悪役令嬢が破滅は確定よ)
(うわ………何その無理ゲー。なんでそんなのに双子をこんな状況に放り込んだわけ?
神様とやら恨んでやる!)
(恨んでも何も始まらないでしょ。それより、私絶対こんなわけわかんないことで死んでなんかやらないからね。
打倒ゲームルートよ!)
(おっけー! フラグ全部バキバキにへし折ってやらぁ!!)
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