19 いざ!学園へ
遅くなりました!
「この『身分的平等』を掲げた学園で、身分と関係なく、切磋琢磨してくれる友人が一人でも多くできることを切に願っています。
新入生代表、アルフォンス・インブリンク」
王子と呼ぶにふさわしい美貌の少年が、壇上で挨拶を終えた。
杏と蘭はとうとうゲームの舞台へと上がってしまった。ゲームのシナリオ通りに進めば杏か蘭、どちらかが死んでしまうという鬼畜展開のゲームに、だ。
ただ、二人も座して死を待っていたわけではない。あらゆる情報を集め、できる限りの努力をした。その結果、ゲームで言うパラメータはほぼカンスト。財力の点では個人事業主と、様々な業種のスポンサーという形で一財産築いている。権力も、その財産に見合ったものは手に入れたはずだ。その他にも杏は冒険者や商業ギルドの人脈、蘭はお嬢様らしく上流階級の人間や支援した研究所など様々なタイプの人と付き合いがある。考えられる対抗手段は全て手に入れてきたつもりだ。
それでも、死亡フラグが周囲にわんさと居ると思うとちょっと気が気じゃない。
例えば今斜め前に見えている緑の髪をした少年だ。杏個人としては一番警戒が必要なタイプではないかと思っている。何故かというと、彼は女好きだからだ。
彼はユーゴ・カルム。カルム商会の次男で、茶目っ気のある商売人だ。女タラシではあるものの、奇跡のようなバランス感覚で修羅場になったことは一度もないらしい。…といっても、彼が女タラシに進化するのはこの学園に入ってからのこと。
実は彼はこの学園に来てやっと自由を謳歌出来るようになった、という設定がある。
ユーゴは商会の次男だから跡継ぎにはなれない。けれど、万が一のためにスペアとして教育はしなければならない。そして、カルム商会には跡継ぎを二人育てられるだけの資金があった。跡継ぎにはなれないのに、勉強は強要される日々。そんな中、彼は多少微弱ながら魔力があると認められた。それを千載一遇のチャンスと思い「未来の顧客獲得のため」と両親を説き伏せてここにきたのだ。
そんな息苦しい境遇ならちょっとハメも外したくなるだろう。それに、彼はタラシではあるものの、根っからの商売人でもある。口説きながら自社の商品をチョイスして売り抜いていく手腕は見事なものだ。
ちなみに、そんな鬱屈した感情をヒロインはあっさり見抜き「今まで努力した自分を褒めてあげないとね」なんて言って陥落させるのだ。跡継ぎのスペアだから努力は当然と見なされていた彼の救いになったのは当然だろう。
(しないけどねー!
私は彼を救ってはあげないけどねーー! 何故なら惚れられたら蘭が死んでしまうからーー!!)
恋愛フラグを立てるわけにはいかない。そのためには心を鬼にしなくては。
ただ、どの攻略対象もユーゴのように心の弱いところがあって、そこをヒロインに救われて惚れる、というイベントがある。そのイベントを起こさないということは、彼らの心の弱い部分はそのままになってしまうのであって…その辺り良心が痛まないわけではない。
しんどいのなら、ちょっとくらい手を貸してあげたくなるのが人情というものだろう。
(魔王倒して余裕があったら…。
いや、まずは目の前の目標、蘭と二人で生き残ることを重視しよう。二兎を追う者は一兎をも得ず、だ)
あれこれ考え込みながら一人で百面相をしていれば、退屈な入学式はいつのまにか終わったらしい。人の流れに沿って杏は教室へと入っていく。
生徒達は事前に自分たちのクラスを知っているため、立ち止まるような生徒はいない。
ちなみにこの学園は特殊な例を除き、入学試験の点数別にクラスを決めている。満点入学を果たしたアルフォンス王子とラナ、それからどの教科も全て1問だけケアレスミスを起こしたアンナは当然のようにAクラスだ。
迷わず教室に入っていくと、見慣れた顔が近づいてきた。
ラナだ。
「アンナ、お久しぶり。…というわけでもないわね」
「そうかな? 一ヶ月会ってないとか結構久しぶりだと思うよ?
っと…一応確認しておくけど、私この学園の『身分的平等』な流儀にのっとってタメ口でいいよね?」
「勿論ですわ。公的な場でもありませんし…そもそもアンナに敬語を使われたら、わたくし笑い出さない自信がないわ」
「そこはご令嬢だもの、ポーカーフェイス頑張ってよね。
ま、三年間よろしくね」
「こちらこそ」
教室の真ん中で、未来の王子妃であるラナとどこの馬の骨ともしれない誰かが親しげに言葉を交わしている。周りがざわついたが、二人は気にせず歓談していた。あれは誰だ、という声も聞こえるが正面切って聞かれない限り二人はスルーの予定だ。
(まずは軽くジャブからってねー。おうおう、私に喧嘩売るやつはいるかぁ!?)
(やめなさい。売られても面倒なだけでしょ。
それよりアルがとーっても紹介してほしそうにしてるから紹介してもいいわよね?)
(おうともよー! 初めまして王子様ってやつね)
言葉にしなくても意思疎通が出来るのはとても便利だと改めて確認する。ここ数年ではテレパシーで重要な会話をしながら、口では当たり障りのない会話をするという二重会話をするスキルも手に入れた。最初の頃はうっかりテレパシーの内容を口にしてしまったりして大変だった。
「アルフォンス様、そんなにじっと見つめられては困ってしまいますわ」
「あ、あぁ。すまない。そんなに見ていたかな?」
「見ていましたとも。
こちら、わたくしの親友のアンナさんです。
アンナ、こちらは私の婚約者のアルフォンス様ですわ」
「はじめましてアルフォンス様。私はアンナっていいます」
あの誕生日の出会いはなかったことにしている。だから、杏とアルフォンス王子はこれが初めての出会いである。と、いうことを強調するために、よそ行き笑顔ではじめましてをした。
その意図に彼も気付いたらしく苦笑交じりに返された。
「はじめましてアンナさん。ところで、ここでは身分は関係なく…って俺挨拶でも言ったよね? できれば呼び捨てとかがいいかな?」
「ふふ、初対面から呼び捨てはハードルが高いですね」
「ラナは呼び捨てなのに?」
「ラナとは10年来の親友ですもの。ねぇ?」
「そうですわよ。
いくらアルフォンス様と言えど、わたくしたちの絆はそう簡単には裂けませんわよ?」
「妥協点としてはアルフォンスくん、かな?
三年間よろしくね」
王族に敬称を付けない女子の存在に周りがざわめく。
この国では基本的に妾の存在は認められていない。だが、王族だけは次世代を残すという意味もあって第二夫人がいる場合もあった。
今アルフォンス王子には婚約者のラナがいる。けれど、第二夫人という席は空いているのだ。玉の輿狙いの女子はそこを狙っていたのだろう。先を越された、という空気が感じられる。
(肉食系女子こわー…)
(まぁアルの周りはこんなものよ。出来れば私を追い落として王妃にっていう人まだまだいるもの。結構未来の王子妃として功績作ったんだけどなぁ…)
(功績なかったらガチでヤバかったってことか。
まぁそうだよね。ポッと出の魔王倒しただけの庶民が王子と結ばれるエンディングがあるゲームだもん。
…今考えれば無茶な設定だよねぇ)
(ほんとにね。その無茶な設定のために努力を踏みにじられる悪役令嬢の立場、ちょっとは考えてくれないかしら)
「…なんというか、ほんとに規格外なんだな」
「ラナ、何吹き込んだの? 変な誤解生まれてない?」
「ありのままの親友の姿をお話しただけよ」
「もー…」
「ふふ、そんなにむくれないでちょうだい。そろそろ先生が来る頃ですよ」
優等生なラナと、破天荒なアンナという印象が植え付けられれば上々。
二人でうっかり色々やらかしたとしても、ラナが破天荒なアンナに引きずられたんだな、と思って貰えるように、という算段だ。
こうして、二人の学園生活は幕を開けた。
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