18 総仕上げ
「この前の儀式で、なんかもう色んな人にドン引きされるくらい才能あるって褒められてきたよ。
んで、学園への入学も決められた。…結構抵抗したんだけどなぁ」
定例の月一のお茶会もこれで何回目になっただろうか。
双子は14歳になっていた。
先日、国を挙げての魔力調査という名の儀式があった。国中の14歳が魔力調査を受け、一定以上の魔力を持つことが分かれば王都の学校へと入学させられるのだ。
蘭も杏もそれを受けてきた。結果は予想通りではあるが、二人とも規格外の魔力との診断。前世を思い出した5歳の時から休まず鍛錬を続けてきた成果だ。
ただ、学園への入学は死亡フラグへの切符でもある。ここに入らず魔王を倒す道もあるのではないかと模索したが、慣習や法には勝てなかった。そんなわけで二人とも来年には学園へ行くことが決定してしまった
「まぁ、国としては優秀な魔法の使い手なんて囲い込みたいに決まってるからね。
国内の魔物退治にしろ、他国との戦闘にしろ、優秀な人材は国が雇いたいに決まってるもの。在野にいられたんじゃ困っちゃうわ」
「そうやって才能ある人間に教育受けさせて恩を売るって政策はわからんでもないけどね。
ただ、私みたいなイレギュラーも考えておいた方がいいんじゃないかなぁ?」
「私が国政に関われるようになったら進言してもいいけど…正直杏はイレギュラー中のイレギュラーでしょ。こういう例って正直ないと思う」
「まぁそうなんだけどさぁ…。
とりあえず今日は入学試験の相談したいんだけど…私本気で受けていいのかなぁ?」
学園は、一定以上の魔力を持っていれば無条件で入学を強制される。
と同時に、この学園は卒業さえすれば将来安泰と言われる場所でもある。
魔力持ちは貴重な魔法の使い手として引く手数多になるのは当然のこと。難しい学力試験をくぐり抜け、無事卒業した人間は、例え平民であっても研究職として高給取りになれるのだ。
そのため、この学校は例え魔力持ちとして入学が確定していても入学試験を受けることになる。
「私は立場もあって本気でやらざるを得ないわねぇ。その辺りはアルにも話してるし…。
アルを学力で打ち負かせば、女性の政治介入も夢じゃなくなるしね」
「そういえばこの国あんまり女性の活躍の場ないんだっけ?」
「ないない。女性は家を守るモノって感じ。特に貴族はそうよね。次世代を育成するのが仕事って感じ?
…絶対近代化してやるわ」
「日本でも色々めんどくさかった問題だし、あんまり急激にやらないようにねー。
じゃなくて、試験の話よ」
「あ、ごめん。ついつい…。未来の王妃だからって出しゃばるなってじじいが余りにも多くてついね…。
んで試験かぁ…。正直杏はどっちでもいいとは思うけど…。
手を抜きすぎると学園に入ったあとで悪目立ちするんじゃないかな?
入学後速攻で私とつるむ予定だしさ」
「んーそっかぁ。じゃあ全教科満点とるつもりで挑んで、一カ所ケアレスミスしておこうかな。
蘭は満点狙いでしょ?」
「勿論」
この試験に人生を賭けている青少年が聞いたら怒りで卒倒しそうな台詞である。ただ、これは驕りでもなんでもない。蘭のツテで数年分の学園入試の過去問を入手したのだが、どの年度も満点を取ることが出来たからだ。例年通りの難易度であれば、恐らく二人とも満点は揺らがないだろう。
「アルも勿論満点狙うだろうし、彼ならとれるんじゃないかな?
二人で満点入学して、挨拶とかめんどくさいことは任せる予定」
「あーあれか。新入生代表のあいさつみたいなの。
この世界でもあるのね」
「そりゃベースが現代日本だもん。
ま、そういうのは王子がやった方が角立たないでしょ」
「はぁ…始まっちゃうね。学園生活。
ベストは尽くしたと思うんだけどなぁ…」
「そうねぇ。パラメータは得意分野はほぼカンスト。
不得意分野も学園で積極的に授業をとればカンスト直前くらいまではいけると思う。
だから、パラメータ関連は大分頑張ったと思うよ」
「だよね。そこは私たち二人とも褒められてイイと思う」
転生してから今まで。死亡フラグを回避するために脇目も振らずに頑張った。お互いをたたえて微笑み合う。恐らく、一人だけだったらここまで頑張れなかった。自分の命だけでなく、相手の命もかかっているからこそ必死になれた。
「権力財力も、この年齢にしては大分頑張ったよね」
「そりゃあもう。
王都内の浮浪者浮浪児問題の解決、最低限の算術読み書きの普及。あと、病気の研究や清潔にすることで疫病被害を予防するっていう考えの普及なんかもやったものね」
「あーあれね。冒険者ギルドを通してちょーっと色々噂流して貰っただけだけど…。うん、あれで病気の蔓延を防げたのはよかったなぁ」
「あと杏は冒険者としてもかなり活躍したんでしょ?
王都の冒険者なら知らないヤツはいない伝説の幼女」
「もう幼女じゃありませんー!
うんまぁ…ちょっと楽しくてやり過ぎたのはある」
冒険者になってからの2年。杏は王都の冒険者であれば知らない人はいないといっても過言ではないくらいには知名度が上がっていた。
基本的にお泊まりが必要になる依頼は受けないものの、どんな難しい依頼も受ける何でも屋。特に薬草の知識が豊富で、杏に頼めばどんな薬草でも入手できるという噂すら流れたものだ。
実際は薬草に宿る微弱な魔力を感知して探し当てているだけなのだが。
一応実力を隠すために魔物退治はあまり受けていなかったのだが、それでも時間をかけずにすぐに倒してくれると言うことで評判が高い。また、金に不自由していないため依頼金が低くとも迷わず受領しているという点も高評価に繋がった。
先輩冒険者たちからは「あまりにも低い金額で依頼を受けると冒険者全員の不利益に繋がる」と言われたこともある。そのため、杏は依頼金が払えない人間には借用書を発行し、つまみ細工工場で働いて貰うなどの代替手段を提示した。そのため、お金がなくても相談すればもしかしたら請け負ってくれるかも…という人が続出したのだ。
「時は金なりって言うじゃん?
だから正直労働奉仕を対価に依頼を受けたいって言い出したときはどうしようかと思ったけどね」
「それでも困ってる人がいるなら助けたいなーと思っちゃったんだよね。
でもそれで「アンナはこの値段で受けてくれたのに他の冒険者はケチだ!」なんてクレーマー出ても困るじゃん?
だから、対価として時間を貰ったわけなんだけど…ついでにつまみ細工に限らず色んな場所で労働すれば技術も身につくしさ」
「ま、お陰様で王都では知らない人が居ない幼女に進化を遂げた、と。
ある意味『戦え!戦乙女』ってゲームタイトル回収しましたって感じ」
「それはちょっと思った。
ただそんなに戦ってはいないんだよ? ソロで戦うのは無茶って言われた奴には手ぇだしてないしさ。
2年になったらバカスカ依頼受けようね。
ほぼ全ての依頼のコツ掴んだし」
「冒険者アンナは一年休業かー…」
「週末だけ依頼受けるのもありかな、とは思ってるけど…。
どのくらい忙しくなるかがわからないのがミソだね」
「私は週末は公務が入るアルをサポートしなきゃいけないから…」
「なるほど、週末デート」
「違うわよ! 公務!」
ほんの少し浮かぶ不安をじゃれ合いで誤魔化す。
これから始まる学園生活で、双子の命運は決まってしまうのだ。
ただ、やれるだけのことをやったという自信が、先行きを少しだけ明るく照らしてくれている気がした。
「ここから、ね」
「準備は万端、仕込みは上々。
あとは迫り来る恋愛フラグをバッタバッタとなぎ倒すだけよ。
蘭はちゃんと王子捕まえといてね」
「勿論。公私ともに支えられる女になったと自負してるわよ。
あとは杏に素敵な恋人でも出来たら恋愛フラグ自動で折れるんだけどね」
「またそれ? 素敵なおじさまが居ればアリかもしんないけどー。
15と35ならまだ許容できる!」
「将来イケオジになりそうな27とかで妥協する気は?」
「…ないこともない。ま、私の恋愛ばっかりはわかんないよー。
ただ、攻略対象のフラグだけは思い切りへし折るから、サポートよろしくね」
「はいはい。
じゃ、頑張りましょうか」
コツンと拳を合わせて、二人は本格的なゲームの世界へ足を踏み入れるのだった。
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