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15 いざ、冒険者ギルドへ②


「では、触りますね」


 用意された水晶に触れる。すると、辺りがまばゆく照らされた。

 光の色はまさに虹色。強いて言えば赤と黄色が強いだろうか。


「おいおいおい、マジか」


 背後にいたダンさんが焦ったような声を上げる。おそらくこの光はちょっと異常なのだろう。強すぎる的な意味で。ちょっとこれは修行をやりすぎただろうか。周りのざわめきもかなりだし、目の前のクラナは青くなっている。

 まぁやってしまったものは仕方がないと開き直った。一応答え合わせのために聞いてみる。


「何が『マジか』なんですか?」


「嬢ちゃんの能力がヤバいくらい高いって話だ。

 王都中の人間をかき集めても、嬢ちゃんほどの光を放つ人間がどれだけいるか…」


 ダンさんは冒険者になって結構長い、ベテラン勢と聞いた。その彼が言うのだから間違いではないだろう。杏がそう評価されるのであれば、蘭だってきっと同等の評価がもらえるに違いない。二人で切磋琢磨しつつ、無理にならない範囲で努力を積み重ねてきたのだから。


(パラメータが見えるから予想はしてたけど、こうやって人に認められるとより嬉しいな。

 今晩蘭にも教えてあげよう。少なくとも強さの面で、努力の方向間違ってなかったみたい)


 気分が上向きになるが、出来る限り平静を装う。謙虚に、無用な敵を作らないように。


「そうなんですね。

 じゃあ冒険者登録はできるってことですよね、よかったぁ」


「…安心するのそこかよ、嬢ちゃん。

 ま、いいさ。能力があっても冒険者としては新米だろ。困ったら店の常連を頼ればいい。みんな嫌な顔はしねぇさ」


「ふふ、安泰ですね。まずは一人でやってみて…ダメそうだったら遠慮なく頼らせてください。

 皆さんよろしくお願いします」


 一度後ろを振り返って、これから同業者となる皆さんに頭を下げる。微妙な顔をする者もそれなりにはいたが、概ね好印象と言ったところだろうか。少なくともクラナ以外に無礼な態度をとった覚えはないのでトラブルも少ないだろう。

 そのクラナはと言えば大急ぎで冒険者カードを持ってきた。このカードにギルドの依頼達成記録が記入されるのだ。おおざっぱに言えばセーブデータのようなもの。


「こちらがアンナさんの冒険者カードになります。

 依頼の達成記録がこちらに記入される形になります。まずは駆け出しなので、難易度Eなどの簡単な依頼から達成していくのをおすすめします」


 引きつりながらも一生懸命に説明してくれるクラナ。


(そうだよね、クラナの八つ当たりで優秀な冒険者候補を一人失うところだったもんね。これに懲りてくれればいいんだけど)


 あれこれと説明を受けていると、ギルドの奥の方からドタバタと人がやってきた。


「おーい、なんか急いで降りてこいと言われたんじゃが、なんぞあったかのう?」


「あれ…ベレトおじさまじゃないですか」


 やってきたのはベレトという『おじさま』と言うにはちょっとばかり歳をくったおじいさん。そよ風亭にもちょくちょく来る人物だ。おじさま、というのはちょっとしたリップサービスである。


(ギルドの奥から来たということは、もしかしてギルドのエラい人なの?)


「なんでぇ。嬢ちゃん知らなかったのか。ベレトのじじいは王都のギルド長だぜ」


 杏の予想通り、というか予想以上にベレトおじさまはエラい人だった。


「うちの店は身分によって贔屓も差別もしない方針ですので。

 あーでも、だからみんなベレトおじさまには会釈するんですね」


 平民でも貴族でもギルド長でも浮浪者でも、きちんと対価を払ってくれるのであれば全員大事なお客様である。これは杏の、というよりも両親の経営方針だ。しっかりした両親でとても誇らしい点でもある。


「はっはっは。ただのジジイなんだがなぁ。昔取った杵柄で役職だけもらってるんだよ。

 ところで何があった?」


「アンナちゃんが冒険者になりにきたから、アタシらで見守ってたってわけさ。

 どこかのギルド職員が意地悪しないかっていう見張りも含めてね」


「まぁ俺らが割って入ったから嬢ちゃんに実害は然程ねぇ。むしろ、嬢ちゃんがやり込めてたぐらいだしな。

 それよりも嬢ちゃんの水晶の光っぷりがやべぇんだ。こいつは掘り出しモンだぜ」


 見守ってくれていた姉さんとダンさんが説明してくれた。杏自身が説明するのはちょっと恥ずかしいので正直助かった。びっくりするくらい水晶が光りました、とか自慢気に言うと無駄に敵を作りかねない。


「ほぉ? そんなにか。どれ、もう一度見せてもらえんか?」


「この水晶って何回でも触っていいものなんです?」


「勿論だ。そう簡単に壊れるものでもないしな」


 壊れないと保証してもらったので、もう一度触る。先ほどと変わらず辺りがまぶしくなった。やはり色は赤と黄が強い虹色だ。


「ほぉ…これはこれは。

 アンナちゃんは色々な適性があるみたいだな。その説明は聞いたかい?」


「受付してくれた方に聞きました」


 ギルドの説明はしてもらったが、その説明に不備があるかどうかなんてこっちにわかるわけない。と、暗に示してみた。ダンさんたちが周りに居てくれたから不足はないと思うけど。


「そうかいそうかい。まぁ周りにこんだけいれば嘘も教えまいよ。

 あとは地道に経験を積んでいくと良い。しかし、魔法が一番強いとはねぇ。

 アンナちゃんは今12歳だったか…。

 うん、たくさんギルドで経験を積むといい。恐らく君は学園へ招かれるだろうから」


「学園、ですか?」


 必殺杏のすっとぼけ攻撃。そもそも学園へ招かれるからこそ今こうやってフラグを粉砕するために努力をしているのだ。だが、それを口にしたところで頭がおかしいと思われるだけ。なのですっとぼけは続行である。


「平民でも魔法の才、もしくは何か一芸に秀でていると、貴族の通う学園に入学できるのだよ。アンナちゃんは一芸にも秀でているようだが、魔法の才もあったみたいだね。

 あそこは…貴族が多いから何かと苦労するだろう。その時に実力があれば絡まれづらくなるはずだ」


「なるほど。では、頑張りますので、色々教えてくださいね」


 そういうと周りの顔見知り達は全員満足そうに頷いてくれた。持つべきものは人脈であると実感した杏だった。



 ちなみに、この騒ぎのあとでついでだからと浄化魔法を頼まれる一幕があった。

 だが、今の杏は冒険者としてこの場にいるのである。


(その辺りの取り決めもきちんと示しておかないとあとあと面倒になるかしら?)


「浄化魔法、お急ぎですか?

 でしたら、お一人様10ゴルになります」


「5ゴルじゃないのか?」


 そよ風亭で請け負う値段の倍額だ。それでもギリギリ子供の小遣い稼ぎと言い張れる値段ではある。別に意地悪でそういうことを言っているわけではない。


「ちょっと悩んだんですけどね。でも、私は今冒険者ギルドに冒険者として来てるんですもの。

 本来の値段で浄化魔法を受けたければ、是非そよ風亭へ。弟も妹も仕上がりは私と遜色ないですよ」


 実際浄化魔法があるからそよ風亭での食事を選んでくれている人もいる。そういうお客が減ってしまうのは店としても避けたいところだ。なので、お値段設定は多少お高めにした。


「ふむ、どうするかな…。あっちに行くとついつい飯も食っちまうからなぁ」


「美味しいご飯にもありつけて清潔にもなれるのであちらの方がおすすめですね。

 でも、依頼でひどく汚れて一刻も早くっていうのであれば10ゴルでお受けします」


「全く商売上手だな。んじゃ、嬢ちゃんの実家に寄らせてもらいますか」


「はーい。いってらっしゃーい」


 このやり取りを多くの人が見ていたので、ほとんどの人が納得してそよ風亭へ向かってくれた。


「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえましたら、最新話下部より評価していただけると嬉しいです。

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