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11 初戦!出会いイベント粉砕の巻


 あれから季節は何度か巡り、杏はアンナとして10歳の誕生日を迎えようとしていた。

 ゲームの主人公アンナの誕生日は初夏と決まっている。何故なら、そこで重大なイベントが発生することが多いからだ。


「杏の誕生日パーティするわよ」


「へ?」


 いつものお茶会で、悪役令嬢ラナフラグを叩き折りまくっている蘭は突然そんなことを言い出した。


「どしたの、急に」


「思い出したのよ。

 ゲームのオープニングのこと。いっつもスキップしちゃうオープニング映像だからちょっと忘れてた…。

 主人公は10歳の誕生日にひっそりお忍びで街に来ていた王子様と会うイベントがあるの」


「あ~…そんなんもあったわね。

 でも警戒する必要ある?

 もうラブラブなんでしょ?」


 蘭は最近王子との仲も良好で、国の未来は明るいとかなんとか言われているとか。平民の杏が見ることはないが、夜会では仲睦まじくダンスをしているらしい。美少女と美少年のダンス。さぞかし見応えがあることだろう。


「うー…ラブラブって言ってもまだ10歳の子供よ?

 それこそ初恋がどうのこうのくらいなもんじゃない。初恋って実らないっていうし。

 …何より、死亡フラグの芽があるなら潰しておきたい」


「まーそっか。折角ラブラブなのに変なフラグ立つのもイヤだよねぇ。

 オッケー。でも具体的にどうするの?」


「ラナがお世話になってる人なんだし、公爵家で簡単な昼食会でも開けないかと思って。

 出会いイベントは昼間だし、夜には食堂開けないとでしょ?」


「それはそだねー。

 …しかし、どんなイベントなんだっけ?」


「えーとね」


 10歳の誕生日。アンナはいつも通り食堂の看板娘として忙しく働いていた。今現在の杏と違い、食堂の運営は赤は出ていないモノの毎日忙しく働かないとちょっと厳しい状況だった。それでも両親はなんとか娘の誕生日を祝ってやりたくて、近くのお菓子屋さんにケーキを注文した。庶民にとって砂糖をふんだんに使ったケーキは滅多に味わえない品だ。

 しかし、そのケーキは心ない貴族にめちゃくちゃにされてしまう。何故貴族がそんなことをしたのかまでは描写されていないが、まぁ多分やつあたりの類いだろう。怒鳴り散らす貴族と、家族が自分のために用意してくれたケーキを台無しにされてオロオロする主人公。そこに現れたのがメイン攻略対象のアルフォンス王子だ。

 不当に怒る貴族をなだめ、泣きじゃくる主人公に新しいケーキを用意してくれた、と。


「そこから店の景気も良くなって好循環が~って感じかな?」


「思うんだけど、これタダの施しだよね。

 ここから恋愛感情になるとか…何勘違いしてるんだアンナ…」


 どう考えてもただの親切な王子と、施しを受けた平民である。確かに子供の淡い初恋になる可能性はあるが、それを叶えるエンディングがあるあたり乙女の執念を感じる。


「う、うーん…。でもほら、助けてくれるのは王子様って相場が決まってるし」


「同じように助けてくれたお偉い貴族様…例えば蘭のお父さんでも恋に落ちるのかって話よね」


「流石にそこは年齢差ありすぎでしょ。

 同じくらいの歳の王子様だからこそ、よ」


「まぁ深読みするなら、何故かそこから実家の景気が良くなったっていうのは実は王子様の手引きだったとかそういう…」


「手引きって…。

 まぁでもアルとの純愛ルートに入ると、実は…って話が出てくるわね」


「ますます会わなくてもいいわよね。うちの経営、王子様に助けて貰わなくても、すっごい順調だもの」


「弟くんも妹ちゃんも浄化魔法覚えたんだっけ?」


「そうそう! もーすっごい可愛いんだから!」


 杏が孤児院でのつまみ細工講師などに忙しく動いている間、成長した弟妹たちが店の方を頑張ってくれているのだ。

 8歳になった弟と6歳になった妹は二人とも四則演算をマスターし、更に浄化魔法も使えるようになった。ただ、5歳の頃から魔力を鍛えに鍛え抜いていた規格外の姉とは違って、魔力量は普通程度である。店にくる人たちを分担してこなせるだけの魔力があればいいのだ。下手に魔法が使えるからと目を付けられても困る。


「計算も浄化魔法も問題ないし、ものすごーくお利口でかわいいの!」


「あんたがシスコンブラコンになるとは思わなかったわ」


「心配しないで! 双子は蘭だけだから!」


「なーんにも心配なんかしてないわよ。

 ま、そっちも心配いらなさそうだけど…用心して街に行かずに公爵家でパーティって感じかな。

 …死亡フラグを明確に避けられたかどうかがわからないのがしんどいところよね」


 蘭は杏よりも死亡フラグが立ちやすい。

 憂鬱そうに呟く姿は、ゲームのスチル姿とは似ても似つかないのだが。やはり本人にしかわからない葛藤というものはあるのだろう。




「娘のためにお招きありがとうございます」


「うふふ、そう固くならないでくださいな」


 パーティ当日。蘭のお母さんと、杏の父の挨拶からパーティは始まった。といっても、蘭に言わせると貴族のいうパーティとは比べものにならないらしい。強いて言うならお茶会だそうだ。

 本当であればそういった準備も全て蘭がやる予定なのだが、蘭のお母さんが「是非私にも手伝わせて」となったそうだ。意外と気さくそうな人である。ちなみに蘭のお父さんは公務があるからということで不参加だ。もしも参加していたら杏の両親が卒倒していたかもしれない。


「本日はお招きありがとうございます。アンナと言います。

 あら? それは、先日作ったブローチですね。お気に召していただけていれば幸いです」


「あらあらあら…思っていたよりもずっと礼儀正しいのね」


「うふふ。だって、わたくしが教えたもの」


 杏が丁寧に応対すると、蘭のお母さんはちょっと意外そうな表情をした。

 現在の杏のマナーのパラメータは100ちょっと。ゲーム内で王子を惚れさせたい場合はまだまだだが、普通に学園で生活をするには十分な数値だ。

 もちろんこれは蘭が一生懸命教えてくれた成果でもある。蘭は自分が褒められたかのように鼻高々だ。


「あら、そうだったの?」


「勿論。基本的な取引はアンナにお任せしているから。

 そのときに子供だと思って侮られてしまったら困っちゃうでしょう?」


「ラナ様には大変お世話になりました」


「…ちょっと、今は私的な場なんだからかしこまらないで?

 そもそもわたくしが、あなたのお誕生日を祝いたかったんだから」


「ふふ、そう言ってもらえるならお言葉に甘えちゃおうかな」


 実はここまでは打ち合わせ通りだ。

 一応私たち家族は招待してもらった身だけど、身分的には平民。その平民が最初から横柄な態度をとっていればやはり見ている貴族側はいやな気持ちになる。というより、プライドを傷つけられる。だから、最初は丁寧に。蘭が許可を出してから普段通りにする、というわけ。

 ちなみに家族には出来るだけずっと丁寧に振る舞ってほしいとお願いしている。

 ちょっと負担だったかな? と、思わないでもない。一番下の妹だけはまだよくわかっていないのかニコニコしていたが。


「ご家族の皆様も楽になさって?

 本当は家族水入らずでお祝いをしたかったでしょうに、こうして呼びつけてしまったのですから」


「ありがとうございます」


 両親は口では礼を言うけれど、終始丁寧な物腰だ。けれど、多少緊張は解けたかもしれない。

 今日は運良く晴れていたので、お庭でのガーデンパーティだ。美味しい料理やお菓子に舌鼓をうつ。

 両親はその味に興味を引かれたらしく、控えめながら懸命に作り方を聞いていた。

 妹は蘭に「おひめさまなの?」と聞いたり、それを弟がたしなめたりと、フラグ回避のためのお誕生日会なのも忘れて楽しく過ごすことができた。


閲覧ありがとうございます。

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