01 転生の記憶は突然に
新連載はじめました。よければブクマや評価よろしくお願いいたします。
本日は夜にもう一話投稿します。
「それじゃあ、ママたちお店の方整理してくるから、おうちの中で遊んでてね」
「はーい」「ん」「あぶー」
母親の言葉に姉弟達はそれぞれの言葉で頷く。
(ふふふーおてつだいしたらほめてもらえるかなー)
返事をしたあと、5歳の長女アンナは荷物だらけの部屋を見渡した。そして、ぐっと握りこぶしを作って気合いを入れる。
大好きな両親と3歳の弟に産まれたばかりの妹。アンナはこの家族が大好きだ。
今日は人生で初めての「おうとへのおひっこし」で家族皆テンションが高い。両親はこれからここで食堂を営む予定だ。アンナはまだきちんとは理解できていないけれど、親に言われたとおり「かんばんむすめ」になる気満々だった。
(「かんばんむすめ」は誰よりもイイコなんだよ、きっと!)
そんな気持ちから、アンナは弟に妹を見てて貰い、自分は部屋に積まれた荷物を整理することにした。
(おもい…でも、せいりせいとんはイイコだよね!)
中に入っているモノを確認しながらヨイショヨイショと運ぶ。そんなとき、ひとつの荷物が崩れてアンナの上に落ちてきた。
真っ白な袋に入った荷物が迫ってきた瞬間、アンナの5歳の脳みその中に、大量の記憶が流れ込んできた。
それは、別の世界の別の人間が生まれてから死ぬまでの記憶。
(あたまいたい…。なに、乙ゲーってなに? スチル…? ボイス…? なんの話? それに、だれ? 私とそっくりな顔の…お姉ちゃん…? ちがうの、私はちょうじょで…)
アンナの自身の記憶と別の人間の記憶がグチャグチャと混ざる。無理やり理解させられて、割れるように頭が痛い。
「ねーちゃ?」
異変を感じた弟が心配そうにコチラを見てくる。最近はイヤイヤ期に入ったようで、中々可愛がらせてくれない弟。そんな彼が見せてくれたデレを逃したくはない。けれど、膨大な記憶が詰め込まれる苦痛に返事をすることすら出来なかった。
詰め込まれた記憶の最後の映像がリアルに脳内に再生される。
通っている高校から自宅までの帰り道。
自分とそっくりな顔をしたセーラ服を着た少女と歩く光景。
目当てのキャラクターや、予想できるストーリーなどの他愛ない話。
それから、突然目の前に現れた大きなトラック。
最後は、その真っ白な車体に押しつぶされた激痛。
とっさに彼女を――姉をかばおうとしたけれど、多分それは姉も同じで…。
そして、視界はブラックアウトした。
「姉さん!?」
思い出した。
私は、双子であるという以外は特に何の変哲もない、どこにでもいる乙女ゲーマーな女子高生。
あの日、私たちは新作乙女ゲームを買いにちょっとだけ遠回りした。
ただそれだけのことで、運命が大きく変わってしまった。
誰かの悲鳴と、ゆっくりと命が流れ出ていく感覚が生々しく思い出される。
あのときに『私』は死んでしまったらしい。
なら、今の私、アンナは?
『私』の姉は?
混乱がおさまらない頭のまま、たまらず外へと駆け出した。
姉が絶対にどこかにいる、という確信を持って。
「ねーちゃ!?」
弟の驚いた声がする。
あとでちゃんと謝るからごめんね、と心の中で言い訳をして、アンナは――私は走り出した。
アンナには見覚えがあり、私には見覚えのない街だ。
私風に言うならば、中世ヨーロッパモチーフのファンタジー世界のような街。アンナからすると、新しい居場所になる憧れの都会の風景。
その街中を、予感がする方に向かって走る。
いる。
双子の勘とも言える何かがそう告げていた。
「姉さん!!」
姉の名前はなんだったっけ?
思い出せず気が急いてしまう。
いつも姉さんとかネネとか、適当に呼んでいたことを悔やむ。
どうにか思い出したい。けれど、自分の名前も姉の名前も、唐突に流し込まれた記憶の濁流から上手く引っ張り出せない。今はアンナの記憶と私の記憶がぐちゃぐちゃに混ざっているのだ。
思い出せるのは、ただただ大切な双子の片割れだったことだけ。
「姉さん…どこ!?」
5歳児の小さな体では、全力疾走してもそう遠くまでは走れない。それどころか、すぐに息が切れてしまう。その上、ここは王都。私の記憶の中の街よりは人は少ないが、それでも5歳児には十分ハンデになる。全ての人が見上げなければ顔も見えないのだから。行く道はまるで障害物競争のように思えた。
ハァハァと息をきらす。それでも、立ち止まってしまえば二度と会えないような予感に急かされ、私は走った。
と、そこへ一台の馬車が通る。
(貴族の馬車だ。避けなきゃ!)
私の中のアンナがそう告げる。貴族の馬車の進路を妨げるなど、子供であっても許されない行為だ。5歳のアンナだからこそ、両親にキツく言いつけられた記憶。最悪、死んでしまうからね、と両親に言われた。
アンナは幼いながらに「上の人」と「下の人」がいることは理解していた。そして、豪華な馬車に乗れる「上の人」の中にはアンナを含めた「下の人」に酷いことをする人もいる。だから、外に出るときは気を付けなければならないとアンナはわかっていたはずだ。しかし今はアンナの中に唐突に割り込んできた私のせいで、アンナの常識が吹っ飛んでいたらしい。
そして、そんな常識をやっと思い出したときに限って転んでしまう。目の前に迫ってくる馬車は、先程思い出した私の死に様を連想させた。
(待ってよ…まだ、会えてない。姉さんに会えてないよ!)
襲いくるであろう痛みを予想して、ギュウと目をつぶる。
馬の嘶きと、御者らしき人の罵倒。
そして、いる、という確信。
その瞬間、馬車に轢かれる、怖いといった感情が吹っ飛んだ。
「姉さん!」
「杏! このおばか!!!!」
どうにか馬車が止まる。
その中から、全く聞き覚えのない高い子供の声が響いた。
緩いウェーブを描いた赤い髪、びっしりと長いまつげに囲まれた瞳は綺麗なエメラルドグリーン。身に付けている可愛らしいドレスも相まってお人形さんのような美少女だ。だが、私にはその中身が姉であるとはっきりわかった。私は姉に向かって叫ぶ。
「蘭! よかった、生きて…え? 生きてない? 死んだ?」
「このばか!! 馬車の前に飛び出す奴があるかーーー!!!」
可愛らしい幼女の絶叫。
普段は声を荒げることがない蘭が、心配してこんなにも叫んでくれている。それが嬉しくて、おかしかった。つい笑いがこみ上げてしまう。
「何笑ってんのよアンタ! 折角なんでか生きてるのに、また死ぬところだったのよ!?」
「だ、だって…。蘭ってば全然変わらない…見た目赤髪の美幼女なのにギャップがやばいウケる…」
「そういうアンタだって無駄に美幼女になってるわよ? 栗色の髪に灰色の目とかまるで…
…えっ!?」
「どしたの?」
「…アンタ、名前は!? こっちの! あと私の容姿も教えて!」
「名前? 杏じゃなく? アンナって呼ばれてるけど……。あとネネは今ふわふわ赤髪でエメグリ目の……お嬢様って感じだけど……」
そう伝えると美幼女蘭は頭を抱えた。
「……栗色髪のアンナに赤髪のラナ。これどう考えても…『戦え!星乙女』略して『たたおと』のゲーム内では?」
「えっ!? 双子で異世界転生ってやつ!?」
「たぶん、そう。しかも、ヒロインと悪役令嬢よ」
「えぇぇ!?」
漫画や小説果てはゲームで色々見たことのある設定が、よもや私たち双子に降りかかってくるとは…。
二次元の神様は何考えてるのー!?
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