【男逢少女】『1』(終わりで始まり)
Man Meets Maid.
男は、少女に逢った。
十一月十九日に初めてすれ違った。
その二日後に、また、すれ違った。
それからしばらくしてすれ違った。
バーテンダーの少女とすれ違った。
男は、カウンターに座らなかった。
常にソファ席のどれかに座っていた。
メイドとバーテンダーもいる、秘密のお屋敷。
大抵の場合、メイドに、お給仕された。
彼女は、カウンターの向こうにいた。
酒類の提供を、行なうバーテンダーとして。
男は、酒を飲まなかった。
飲めない訳では、なく、飲まなかった。
以前の職が、エムケイタクシー運転手。
特に必要性も無く、飲まなくなった。
十年十ヶ月の運転手歴。
その名残で飲まない。
だから、男と少女は、すれ違う運命。
そのはずだった。
すれ違い続けた、男と少女の世界。
二つの別世界は、ついに交わる時を得た。
世間は、師走の慌ただしさ。
男と少女は、何度か顔を合わせている関係。
つまり、顔見知りの間柄になっていた。
しかし、じっくり話した事は、無かった。
そして、ようやく話し合う機会に、めぐり遇えた。
ついに、少女が、男に話しかけた。
名前は、お互いに、知っていたが、名乗り合った。
男は、少女に名前の由来を聞いてみた。
それは、気になっていた事だった。
気になる珍しい名前。
この界隈で初めて聞く名前。
この星で、滅多にない名前。
頂いたり、借りたりした名前では、無かった。
架空の動物達を総称する名前でも、無かった。
なんとなく、つけた名前では、無かった。
他の誰でもない自分自身を表現する名前。
考えに考えて、彼女自身が、命名した名前。
そして、男は、少女の夢を、ききとった。
【男逢少女】『2』につづく