邪神の天巫と天伺官
太陽が眠り、月が空に昇る宵の時。――青い空を闇色の帳が包み、夜に閉ざされた空の下を一つの影が風となって走り抜けていた
草木を踏みしめ、森の木々をすり抜けるその影は、比喩ではなく風と同じかそれ以上の速さで夜闇の中を移動していく
淡く温度のない冷たい月光が照らし出すその姿は、中央に太陽と月の紋様を持ち、その周囲に五枚花弁の紋が刻まれた白い羽織を翻す女性のそれだった
赤みがかった長い髪を一つに束ね、狩衣を纏ったその女性は、整った怜悧な美貌を持つ女性であり、凛とした眼差しでその進む先を見据えていた
「逃がさないわよ」
自身が進む先に、風によるそれとは違う不自然な風の揺らぎを見て取った女性は、その手に生み出した真紅の炎をそこへ向かって解き放つ
無数の炎弾がまるで意志を持っているかのように宙を奔り、標的と定めた目標点に命中すると同時に炸裂し、轟音と共に破壊の力をまき散らす
「――仕留めた……?」
煌々とした紅蓮が夜の暗闇が切り払い、黒い空を赤く染める中、足を止めてそれを見据えていた女性は、あらゆる事態を想定して身構えながら燃え盛かる炎を双眸に映す
「っ!」
しかし、次の瞬間、燃え盛る真紅の炎が、まるで蠟燭を吹き消すようにかき消され、夜の闇が戻ってくる
背後から月光を浴びて浮かび上がるその影は、白い着物の上に夜の闇に紛れるための外套を羽織り、顔を半透明のヴェールで隠していた
しかし外套から時折除く着物とシルエットは、女性特有の特徴を有しており、淑やかに佇むその姿は、妖艶で神秘的な美しさを纏っている
身体の前で組まれたその手には、極彩色の力が纏わされており、そこから零れる燐光の蛍が夜闇に漂い、溶けて消える様は、息を呑むような荘厳ささえ感じられた
「その咒術は神術系の……やはりあなたは、〝邪神〟の『天巫』ね」
それを見据えた赤髪の女性は、相対する人物を視線で射抜いて言う
この世界に生きる人間には、「霊力」と呼ばれる力が宿っている。
魂から湧き上がるその力は、肉体に纏わせることで身体能力を強化したり、指向性を与えることで、「術」と呼ばれる形へ変えることができる
先程赤髪の少女が放った炎弾も、霊力をそのように変換して生み出したものだ
このように、霊力には様々な使い方があり、武器や肉体を使っての戦闘を主とする者を「武者」、術を用いての戦闘を主とする者を「術士」と呼んで区別している
そして「天巫」とは、武者や術士とは異なり、この世界に存在する「神」に霊力を捧げる代わりに、その力の一端を借り受け、行使することができる巫女達の事
自分自身の霊力以上に、神霊から貸与された力を行使するその力は、武者や術士以上に特異性に富んでいいるのが特徴だ
「『陰神』とも『陽神』とも違う禍津の神――悪神と並ぶ世界の脅威である邪神に仕えるあなたを、このまま逃がすわけにはいかないわ」
自身の炎術を無力化した相手を見据えた赤髪の少女は、邪神の天巫たるその女性を逃すまいと、刃のように研ぎ澄ませた鋭い意志を宿した瞳を向ける
この世界には、人とは別に「神」と呼ばれる存在がいる
八百万――まさに、数えきれないほどに存在するその神々は、性質によって四つに分類される
一つは「陽神」。霊力が持つ陰陽五行属性の「陽」を司る神。
一つは「陰神」。「鬼」などとも呼ばれ、陰陽五行属性の「陰」を司る神。
この二つが人と最も親しい神であり、この世界で「神」といえばこの二種類の神を示すといってもいい
そして、それら陰陽の神々と人類の敵として定義されるのが、「悪神」と「邪神」。
人を殺し、神を滅ぼし、世界に災いをもたらすこれらの神と、それに遣わされるものを討伐するのが、「天伺官」と呼ばれる者達にとって最も大切な仕事でもある
即ち、必然的に悪神と邪神こそが、この世界に生きる者達の敵だった
そして、相対する女性はその邪神に仕える天巫。ならばこそ、そのような相手をみすみす取り逃がすことはできなかった
「『霊器解放』!」
厳かに紡ぎ出された声と共に、少女の魂から噴き上がった紅蓮の炎がその手の中に収束し、純白の鞘に納められた太刀を顕現させる
「――『鴇茜』!」
自らの霊力が形を以って名を得た己が武器――白を基調に、鮮やかな紅の差し色が入ったその太刀を腰へ佩いた少女は、その柄に手をかけて抜刀の構えを取る
「……!」
白い太刀を構えた赤髪の少女は、それを見た邪神の天巫が、顔を隠すヴェールの下でわずかに息を詰まらせるのを感じ取っていた
霊力を高めた者は、己が魂を「霊器」と呼ばれる武器として顕現させることができる
赤髪の少女の魂が具現化した白い太刀は、五行属性の一つである「火」の力を帯びて、清廉な火花をその身に纏わせていた
「皇国所属一級天伺官『火之宮静利』! ――参ります!」
名乗りを上げた赤髪の少女――「静利」は、その言葉と共に地を蹴って、矢のような速さで邪神の天巫へと肉薄する
「はああッ!」
静利の裂帛の気合と共に鞘から刃が引き抜かれ、緋色の刃紋が奔る白銀の刀身が閃く
その魂に宿る力を具現化した刃は、紅蓮の炎を纏い、斬閃の軌跡を夜天に描き出す
「ッ!」
しかし、緋色の三日月を生み出す斬閃と共に放たれた紅蓮の炎は、邪神の天巫たる女性が生み出した結界に阻まれてしまう
それを見て小さく歯噛みする静利だが、その斬撃を受け止めた邪神の天巫も、その威力にわずかにたじろいで、半歩後ろへと下がらされてしまう
「まだよ!」
渾身の斬撃を阻まれながらも、静利の攻撃はまだ終わらない。斬撃を振り抜くと同時に放たれたのは、先程までその太刀を収めていた白い鞘。
華とも羽とも取れる真紅の紋様が刻まれた白い鞘が抜き放たれ、金色の装飾が施された鞘の先端部分――鐺――が結界に叩き付けられると、灼熱の炎が爆炎となって吹き荒れる
「……っ」
触れた瞬間に爆発を発生させるその能力を用い、結界に爆炎を炸裂させると、邪神の天巫は、噴煙を切り裂いて後方へと飛びずさって距離を取ろうとする
霊力を用いた戦闘には、基本的に得手不得手な間合いというものが存在する。だが、直接戦闘を得手とする武者が、術士のように遠距離からの攻撃が全くできないというわけでもない
例えば静利の場合、顕現させる霊器が太刀であることもあって、近接から中距離の間合いでの戦闘を得意としているが、霊力を用いることでその力を飛ばすことで、ある程度の距離まで遠距離攻撃を行うことができる
だが、攻撃の間合いと防御の間合いはまた別。武者である静利とは違い、天巫である邪神の巫女は、その力を借り受けて戦うため、近接戦闘では武者に優位を譲ることになってしまうのだ
「させない!」
当然、そんな思惑など見通している静利は、太刀を一閃させて無数の炎の矢を邪神の天巫に向けて放つ
指向性を与えられた静利の霊力は、その魂が宿す五行属性を強く反映し、炎の形をとって行使される
単純な力の塊として放たれた紅蓮が、今まさに命中するという瞬間、邪神の天巫は、その霊力を勾玉が嵌め込まれた錫杖として顕現させる
「霊器……!」
それがその魂を武器として具現化した霊器であることを見抜いた静利の前で、先程放った炎矢が空中から出現した白樹によって阻まれる
「〝木〟属性……!」
邪神の天巫が呼び出したその木を見た静利はその属性を瞬時に見極めるが、同時にその柳眉をひそめて思案を巡らせる
(でもどういうこと? 天巫は契約している神の力を使うはず。……これでは、ただの霊力の行使だわ
これが、木を操る様な神と契約した天巫ならまだしも、邪神は、〝神を殺す〟神。その力は、あの時みせたような無力化のはず)
静利の疑念は、まさにその一言に尽きる。「天巫」の最大の利点は、契約した神の力を行使することができることにある
世に広く知られている邪神の力と、先程天巫の女性が見せた力は全く違うものだった。無論、天巫だからといって、全く霊力が使えないわけではないが、この状況であえてそれを使わない理由には思い至らない
(なんで、さっきは使ったのに今度は自分の霊力を――? いえ、邪神は他の神とは違う。もしかしたら、そこに何かの制約がある……?)
刹那の攻防の中思考を巡らせながら太刀を鞘へと納めた静利は、紅蓮の炎を身体に纏って、その間合いを詰める
「――ッ」
炎によって超然たる推進力を獲得し、その間にあった間合いを詰めた静利は、息を呑んだのが伝わってくる天巫の女性へ向けて、鞘に納めていた太刀を解き放つ
鞘の中で蓄積した炎の霊力、そしてそれをそのまま解き放つことで加速させた刃が大気を灼き切って迸り、夜天に紅炎の三日月を生み出す
「ぅ……」
「っ!」
その炎刃は、今度こそ確実に邪神の天巫たる女性の身体を捉え、その口から苦痛に彩られた苦悶の声を零させる
思わず意識を奪われるような美しい声音を耳にしながら、静利はそれさえも喪失するような衝撃に目を瞠る
刃が命中し、邪神の天巫たる女性の衣が焼かれ、そこから露出した雪のように白い肌が傷つけられたまさにその場所。――本来ならば、赤い血が噴き出すはずの傷からは、淡い燐光が零れていたのだ
(嘘。この人……精霊!?)
まるで籠に閉じ込められていた蛍が解き放たれるように傷口から燐光が零れるのは、その存在が肉ではなく霊の力によって構築されている証
それは即ち、この邪神の天巫たる女性が人間ではなく、霊力によって構築された存在――「精霊」であることの証明だった
「あなた、精霊なの?」
「――……っ」
あまりの驚愕に思わず訪ねてしまった静利だが、邪神の天巫たる女性がその問いに答える訳はない
紡がれた霊力に答えるように、地面から生じた黒い木が壁となって静利との間を壁として遮る
(精霊が神の天巫になるなんて、そんな馬鹿なことがあるの!?)
武者も術士も天巫も、人間がどのように霊力を使うかという違いでしかない。だというのに、この邪神の天巫たる女性は、人ならざる身でありながら天巫をしている
それは、静利の知識にはなく、これまで知られている常識としても、埒外のものだった
「さすが、邪神というわけかしら? でも――」
その歪さもまた、邪神に仕える存在の証なのだと結論づけた静利は、即座にその意思を刃のごとく研ぎ澄ませ、その黒木壁の向こうにいる邪神の天巫を幻視して射抜く
「逃がすはずはないでしょう?」
その木の壁は、己の目を晦まし逃亡を図るためのもの。それを見抜いている静利は、その思惑を阻むベく、膨大な霊力を注ぎこんだ紅蓮の刃で黒木の壁を焼き払う
霊力によって顕現した木を焼き尽くし、紅の中で焼失させた静利は、予想通りに背を向けて離れていく邪神の天巫の背を見て地を蹴る
「あなたが人間じゃないなら、私も本気を出させてもらうわ。あなたなら、ちょっとやそっとじゃ死なないでしょう?」
炎を纏い、紅の流星となって追従する静利は、霊力を操ってさらに何かをしようとしている邪神の天巫の背に向けて言う
そこに込められているのは、確固たる意志。己が全ての力を以って戦うという意志を込めて自分に言い聞かせた静利は、太刀を鞘に納めて、それを自身の前に掲げる
瞬間、静利の魂の底から呼び覚まされた膨大な霊力が、鞘に納められた白い太刀へと収束し、その力を交換し、一体に溶け合っていく
自身の霊力を形にした霊器たる太刀と、自身の魂、身体を共鳴させる静利は、その力を言霊と共に解き放つ
「現神顕り――」
しかし、今まさにその力が解き放たれようとしたその瞬間、二人を照らしていた月光が遮られ、深い影が落ちる
「っ!?」
突然のことに言霊を止めた静利と邪神の天巫がつられるように天を仰いだ瞬間、月光を遮って上空から飛来した巨大な影が二人の間へと落ちて粉塵を巻きを上げる
「……ッ!」
(この、霊力の波長……まさか!)
打ち付ける粉塵の風と共に感じられる、肌を刺すような邪悪な気配に晒された静利と邪神の天巫は、そこにいる者を見て身を強張らせる
燃え盛る炎を彷彿とさせる鬣を持った獅子を思わせる姿に、額から生える二本角の角。口から見える鋭い白い牙は唾液に濡れ光り、野太いその足の先には鋭い爪が生えている
爛々と光る真紅の目は、生きとし生けるものすべてへの歪んだ憎悪を内包し、目を合わせるだけで心の弱い者ならば恐慌に陥れるであろう程の悍ましさを感じさせる
「妖魔!」
認め見ただけで竦んでしまいそうな威圧感を放ち、悍ましい力を纏う獅子の姿を一目見た静利の口からは驚愕に彩られた声が上がる
「悪神の眷属が何でどうしてこんなタイミングで……っ!?」
突如現れた獅子は、悪神――即ち、この世界と生きとし生けるものに絶望と災いをもたらす神に属する眷属
「妖魔」と呼ばれるそれは、この世にあるものに絶望と破滅をもたらす悪神の力によって生み出される恐怖の権化だ。
人型や獣型、あらゆる姿を持ち、悪神の意思のままに絶望と災禍をもたらす妖魔を討ち払い人々を守ることこそが、天伺官の重要な役目の一つでもある
(まさか、彼女が!? ――でも、邪神と悪神が通じてるなんて聞いたことはないけど……)
まるで見計らったようなタイミングで現れた悪神の眷属に、真っ先にその原因として考えられる邪神の天巫を見た静利だったが、身体を強張らせて臨戦態勢を取る姿に、自身の予測が外れているだろうと感じ取っていた
邪神と悪神。確かにそれは人と神の明確な敵。ひいては、この世界に生きる者にとって共通の敵であるのは間違いない
しかし、だからと言ってそれらが協力関係にあるのかと言えば、それは違う。――すべての神を滅ぼす邪神にとっては、悪神もまた同様に〝敵〟でしかないのだ
だが、そんな思案を許してくれるほど妖魔は優しくはない。知性が低いわけではないが、人と価値観を共有し、分かり合えるような思考形態をしてはいないのだ
咆哮を上げ、その身を構築する歪められた霊力を纏った腕の一振りを紙一重で躱した静利は、空気を裂くような爪の衝撃に肌を撫でられながら後方へと飛び退く
「考えてる暇はないわね……!」
咆哮を上げ、襲いかかってくる獅子の妖魔を見据えた静利は、鞘に納めた太刀の柄を介して自身の霊力を注ぎ込んでいく
静利の武器である太刀「鴇茜」は、注ぎ込んだ霊力に応じて火力を上げる能力を持っている。渾身の力を以って打ち込むために、その刃に力を溜める静利に、獅子妖魔は咆哮を上げて襲い掛かる
鋭い爪が大地を抉り、霊力が込められた咆哮が大気を震わせて地鳴りを引き起こせば、それに呼応するように、悍ましささえ覚える赤い雷が迸って夜天を切り裂く
獅子妖魔の怒涛の攻撃を紙一重で回避し、舞うように潜り抜けていく静利は、十分に自身の霊力を蓄積し、紅蓮の炎粉を纏う柄を握りしめ、それを抜き放つ刹那を見極める
やがて、そんな静利を仕留められないことに苛ついたのか、獅子妖魔は感情に任せてその巨躯と力の全てを込めた一撃を放つ
悪神に汚染された膨大な霊力が生み出す奔流の中、心身に巡らせた霊力によって高められた知覚と身体能力を駆使した静利は、それを最低限のダメージで潜り抜ける
傷ついた身体の痛みを置き去りに死、全身全霊の力と意識を一刀に込めた静利は、己の太刀――「鴇茜」を抜き放たんとする
「っ!」
(しまっ……)
しかし、それは獅子妖魔の罠だった。大きく開かれた口腔に灼熱の炎が灯り、先の一撃をくぐり抜けてきた静利を捉えんとしていた
そして、今まさに獅子妖魔の炎がその猛威を示さんとした瞬間、大地から生じた樹が大地を踏みしめる四つの足と、開かれた顎を絡めとって動きを封じる
(これは――!)
それを見て取った静利が視線をずらすと、そこに錫杖を地面に突き立てている邪神の天巫の姿があった
それを見れば、獅子妖魔の動きを封じた樹を誰が生み出したのかは一目瞭然。その姿を視界の端に収めた静利は、収めていた太刀を解き放つ
「お礼は言わないわ――」
この声が届いているのかは分からない。ただ、自分に戦わせて逃げることもせず、何の目的があるのか、その力を振るう邪神の天巫に語りかけた静利は、炎を纏わせた太刀を鞘走らせる
「よ!」
鮮烈な真紅の一閃が奔ると同時、人間に倍する巨躯を持つ獅子妖魔の身体が一刀の下に断絶される
その一撃は、獅子妖魔の命さえも絶ち切り、切断面から生じた霊力の炎が息絶えた巨躯を焼き、浄化していく
「これは……っ」
それを見届けていた静利は、獅子妖魔の亡骸が突如膨張していくのを見て息を詰まらせる
「霊力が膨張している! このままじゃ、炸裂する!」
獅子妖魔の身体を構築していた霊力が、その死と共に暴走し、今にも炸裂してしまいそうなほどに膨らんでいるのを見た静利は、反射的に身を翻らせて全速力で離脱する
しかしその瞬間、獅子妖魔の身体が巨大な爆弾のように炸裂し、歪んだ霊力の爆発が静利を呑み込む
「く……うッ」
自身の霊力を全開にし、獅子妖魔の亡骸から生じた爆発を受け止めた静利は、その威力のままに吹き飛ばされてしまう
まるで風に舞う木の葉のように吹き飛ばされ、地面を転がって爆風からはじき出された静利は、全身を強打した痛みに小さく呻き声を漏らす
「う……っ」
全身から訴えられてくる痛みを耐えながら身体を起こした静利は周囲を見回すが、そこには先程自爆した獅子妖魔が作り出した地面のくぼみがあるだけ
「いない……逃げられてしまったわね」
先の爆発に乗じて邪神の天巫に逃げられたことを確認した静利は、小さくため息をついて立ち上がると歩を進める
「邪神の天巫に、妖魔――やっぱり、何かあるのね」
無論、国に仕え、国に住まう人々を守る天伺官である静利が、あてもなく彷徨い歩いていたわけはない。
静利がここにいたのは、国からの命令を受けて捜索に来ていたからだ。そして、その先で邪神の天巫と悪神の眷属に出会った
――ならば、その目的地は一つ。本来、静利が任務のために向かっていた場所だ。
「――ッ。これが……」
歩を進め、小高い丘の上に立った静利は、そこから見える景色を見て思わず息を詰まらせる
その瞳に月明かりの下に広がっている景色を映した静利は、強張った声音で震えるように声を絞り出す
「花枕……!」