始まりは死
母が死んだ。
殺されたらしい。
犯人はまだ捕まっていない。
僕は悲しいのかもしれない。
命とはなんだろう?。ふとそう思ってしまった。
命の定義を考えていくと世界の闇を見ているようで気持ち悪くなる。
命はどこにあるのだろうか……。
そもそも死ぬことが命の終わりなのか?
ただ肉体を動かすだけのパーツの一つなのかもしれない。
人は命を多様で奥深い意味を持つ概念であり、生物の生きる力や期間、生きていく大もとの外に現れる働きのもとと説いた。
僕もそれに疑問は無い。
ただ身近な人の死というのは、夏の台風のように
僕の心を否応なく乱し、ポッカリと穴を開けた。
それは地獄の穴のように決して閉じることの無い
心の叫びだった。
「 ならどうして君は笑っているんだい?」
唐突に彼は僕に話しかけてきた。
「さあ、わからないや」
僕はわかっているのに答えない青年になって質問に答えた。
「悲しくないのか?」
彼はまた僕に質問を投げかけてきた。
「彼」は自分の事をハリネズミだと言った。
決して彼はハリネズミでは無い、毎日学校の屋上にいる平凡な青年だ。
「悲しいから笑っているのか、楽しくて笑っているの か気持ちの区別がつけられない。」
僕はそう答えた。
「命の定義について考えていたんだろう?」
彼はいつも僕の思考を読み取ってしまう。
「よくわかったね。君は命についてどう思う?」
今度は僕の方から問いかけた。
「命?僕にはわからないよ。そんな大それたこと考えるだけ無駄だと思う。」
「僕はそう思わない」
反論じみたことをしてみた。
「やっぱり君とは考えが合わないみたいだ。いつかわかり会える日が来るといいな」
彼はそう答えた。
その時1限目のチャイムが鳴った。鶏が泣き叫ぶみたいに。
「時間みたいだね。次会うときを楽しみにしてるよ。」
そう言い残して彼はどこかへ去っていった。
そして僕は彼女に出会ってしまった。
雨のように冷たく夜空に浮かぶ雪のような彼女を。
この物語は彼女と出会った時から始まっていた。
1つ言い忘れていたことがあった。
僕の母はこの平和な街で起きている猟奇的殺人事件の3人目の被害者だ。
犯人は現場にいつもこの言葉を残している。
「人は忘れる彙き物だ」
詩的な感性の持ち主なのか、ただふざけているだけなのか本人以外は知り得ないことなのだが僕は興味を持ってしまった。
「殺人事件の犯人はこの学校にいる」
という手紙が届いたのは彼女が転校してきた日だった。




