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2-25.ベルグ攻防戦 sideリセリルカ

 絹のような金色の髪が、『都市台座』に設置されている簡素な玉座の背もたれに流れている。

 玉座には不釣り合いな小さな体。しかし彼女は、齢八にしてそこに座るに相応しい地位と力を持っていた。


「ヅィーオ、返答しなさいヅィーオ!! はあ……切れてるわ」


 第五王女リセリルカ・ケーニッヒは、家臣の一人であるヅィーオ・レオンリードとの通信用の魔法具をその耳と口から離す。

 彼女は、都市の長としてこの場所を動くことを許されない。故に自分が討って出れないという歯がゆさを噛み締めながら、魔族の狙いをずっと考えていた。


(――本当に、危ない。もし魔族が東門から侵入していたなら、ベルグは今頃大混乱に陥っていたでしょう。魔族が相手となると、ヅィーオ一人ではきついか)


 リセリルカは、改めて通信用の魔法具『拾音器』と『集音器』を使用する。彼女は飛ばす魔力のチャンネルを、家臣ヅィーオから白魔法研究者のミゥ・ツィリンダーに切り替えた。


『――はい、何でしょうリセリルカ様』


『東門の状況報告助かったわミゥ、それと伝えてくれたエイシャにも礼を言っておいて』


 ベルグ東門での屍人(リビングデット)襲来の後、冒険者であるアルフレッドとクララ、それにエイシャは急いでそれぞれの戻るべき場所に帰還していた。

 アルフレッドは冒険者組合(シャフト)、クララは教会。そしてエイシャはツィリンダー家に戻り状況を報告。

 通信用魔法具を持っているツィリンダー家のミゥ経由で、ベルグ東門での戦闘がヒト種側の勝利で終結したこと。ならびに、家臣のエリー・グリフォンスがミゥの息子ケルンを連れて、森林迷宮の周辺調査に赴いたことがリセリルカに知らされたのだ。


『その様子だと、エリーさんは未だ戻らずですか』


『ええ、通信はまだ繋がらないわ。それと、恐らく南門で魔族が出現した』


 家臣エリーの思考は、リセリルカにも理解できていた。

 上級風魔法『飛翔(フライ)』が使える彼女ならば、時間をかけることなく移動が可能。そこにケルンの空間魔法が加われば、速く精度の高い感知ができる。

 ベルグ周辺に屍人が居ないとなれば、ひとまずは門の守備を置いてエリーはリセリルカの元へ帰還、意見交換ならびに作戦立案に落ち着いて時間を裂けるという訳だ。


 ミゥから東門の状況報告が来た段階で、リセリルカは魔法貴族と仮の兵士師団長達――それぞれの兵士団の隊長解任時の副団長――を『都市台座』の広間に呼び出し、まず現状の報告を行った。

 森林地域に魔族が潜んでいる可能性があるのは、魔法貴族の間では周知の事実であったので()したる衝撃は無かったが、情報収集能力の乏しい副団長達は驚きを隠せなかった様子。


 後にリセリルカは魔法貴族諸侯に外出禁止令をベルグ中に広めることと、教会から重度の屍人化に効果のある中級以上の解毒薬(アンチドーテ)を仕入れることを指示。

 魔法貴族の中には商人とのつながりを持つものも多く、新任のリセリルカに対して有能さを示すために、意欲的に働いてくれることだろう。

 同時に彼女は兵士師団長達(仮)に、解毒薬と回復薬(ポーション)を持ったベルグ兵三分の一を率いて南門と東門の内側に待機するよう命じた。

 この時点ではリセリルカはまだ魔族の狙いが何かは分かっていなかったが、万一屍人が門を破ったときの為に兵を配置しておくことは当然の事だろう。


 状況の共有と指示を済ませて彼らを解散させた後、リセリルカは魔族が取りうる行動を幾つか考えた。

 ベルグを襲う動機としては、ヒト種への復讐といったところだろうか。魔族は、高度な知性を持っているという情報がある。あり得る話だ、これまでヒト種の都市に潜んでいた魔族がその正体を暴かれ、逆恨みでもしていると仮定すれば。


 リセリルカが魔族自身と仮定してまず思いついたのは、エリーが考え付いたのと同じ持久戦だ。


 屍人という戦力をゆっくりと蓄え、数をもってベルグを攻め落とす。東門および南門への初撃は、都市の戦力の概算をするため。そしてベルグの東から南の最深部には『最果ての峡谷』が広がっている――屍人が都市と都市の間に展開していれば、協力を要請して挟撃することも可能だろうが、背後が他地域との境界である以上はベルグ単独で問題を解決しなければならない。

 こういった理由から、持久戦は極めて有効であると言えるだろう。

 何せ、屍人発生の原因は十中八九魔族であり、その親玉さえ討たれなければ相手は無限に兵を生み出せるのだから。

 そしてこの場合、屍人が潜むのは森林迷宮浅~中域だ。なにせ、『最果ての峡谷』近くの魔物は凶悪である。屍人のような思考力のない低級の魔族は、魔物にとって良い餌だ。


 ここまでをリセリルカはエリー同様に考え――即座に切り捨てた。


(……まどろっこしい。もし()がベルグを攻め落とすのなら、確実に単独で侵入するでしょう。内側から混乱させた後――内側と外側の両側から同時に切り崩す。魔族の力は未知数だけれど、相当数の屍人を従える存在が単独で弱い(・・・・・)なんて絶対にあり得ないわ)


 王女は、大群の屍人を従えるであろうその主。魔族に最大級の警戒をしていた。

 リセリルカならば、先ずヒト種側の意識を外側――門の外の屍人に向けさせ、敵は持久戦狙いという思考に誘導する。

 そしてその間に、自身(・・)が都市に侵入。都市の脳系統――最善は都市の長を討つことだが、主要な魔法貴族でも良い――を機能させなくして混乱を生じさせるだろう。

 これが成功すれば、崩すのは容易い。

 都市の内側には、最大戦力を割かなければ倒せないような強大な敵。外側には、大群の屍人。

 まさしく内と外の挟撃――指示系統が麻痺した都市では、これには太刀打ちできないだろう。


 これが、リセリルカの考えうる限りの最悪の事態だった。

 エリーがこの思考に至らなかったのは、魔族が軍師的な立ち位置に居ると錯覚したためである。戦局を見極め、大群に適切な指示を出す軍師だと。

 自分に出来ることと出来ない事を明確に理解し、それを踏まえて行動するエリーには、一人でなんでも出来る万能型の思考までは追えなかった。

 屍人の王。魔族とは、強大な力を有し頭脳を有する。作戦の段階で自分の能力を十全に加味しないことなどあり得ない。

 リセリルカにしても、『出来ることは確実に自分でやる』のだ。

 今回、王女の思考が魔族のそれを間違えずトレースできたのは、ひとへにリセリルカとデヴォルの性質が似通っていたからに他ならない。


 この思考に至った瞬間――リセリルカに家臣ヅィーオからの通信が入った。

 曰く、屍人の体液に侵された二人の冒険者がいる、と。

 まさしく紙一重だ。先の考察が正しいとすれば、この冒険者二人はリセリルカの中で確実にクロだった。

 故に、彼女はヅィーオに『門内に入れず、殺せ』と命を出したのだ。


『敵は二人、冒険者に扮装していたものと思われるわ……私はここを動けないから、頼めないかしらミゥ?』


『南門にはリセリルカ様の家臣が……ええと、ヅィーオさんがいるのではないですか?』


  魔族は大群の屍人を動かし、かつベルグ内に侵入を試みる様な万能型(オールラウンダー)だ。

 いくらヅィーオが歴戦の兵士と言えども、一人で南門を守り切るのは難しいとリセリルカは考えていた。

 特に、相手が魔法使いだった場合は不味い。魔族の魔法など何系統でどんな威力なのかも想像がつかないが、苛烈だろう。

 魔法を使わない純粋な戦士であるヅィーオにとっては、魔力の高まりといった発動の兆候も読み取れない。

 故に、リセリルカは白魔法を持つミゥに支援を求めた。


『……ヅィーオとは相性が悪い敵かもしれないから。それとエリーの報告が遅すぎる。恐らく何か問題があったとみていいでしょう』


『ケルンを危険な目に合わせていることと、ヅィーオさんの支援で貸し二つですからね、リセリルカ様』


 ふう、と一つ溜息を吐いたミゥは、いたずらっぽくリセリルカに言う。


『分かってるわ、ありがとうミゥ』


 その返事を聞いたリセリルカは、苦笑しながらも頼もしそうに感謝を返した。

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