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2-15.忘れ人の宴Ⅳ

 都市ベルグ内。舗装された白い石畳から、歩きやすいよう短く切りそろえられた、都市外の草地へと――飛び出してきたのは、短い黒髪と燃える様な赤の長髪を持つ少年少女。


 黒髪の少年ケルンは、八百屋の店主から借り受けた大きな菜切包丁を片手で構え。赤髪の少女エイシャは、右手を突き出しながら脳内で魔法陣を構築する。

 接敵に備えて構えを取る二人に、門の左右に控えていた兵士がその目を驚きで見開いた。


「おおっ!? なんだガキども、ベルグの外は魔物で一杯だから危な――」


「――今すぐ門を閉めてくださいッ!!!! 壁の上のヒトはリセ(・・)に……っとにかく早く『都市台座』まで走って!!」


 呑気に肩を竦めながら近づいてくる門兵の言葉を遮って、ケルンは叫ぶ。

 言ったその「リセ」という愛称が、王女リセリルカ・ケーニッヒの名前を示していると知られては色々と面倒なこと――不敬罪の疑いをかけられかねない。

 『都市台座』という場所を言うにとどめ、彼は事態の緊急性を手早く伝えた。


「何をバカなこと言ってんだ……??」


 ぼやきながら接近してきた門兵に、ケルンは目線を一切動かすことは無い。構えは崩さず、集中するため目を閉じる(・・・・・)

 ――直径200M(メルト)。空間魔法『視界(モノクローム)』の認知範囲を全て前方へ向け、球体内にある物体を余すことなく認識する。

 そんなケルンを見て、ベルグ外周壁上にいる兵士も嘲りを飛ばす。


「はあー!? 何やってんだー小僧、冒険者ごっこなら組合行けよー!!」


「見なさい愚か者どもッ!! 走ってくる冒険者二人の向こう側をッ!!」


 苛立たし気にケルンに向けて伸ばされた門兵の手――掴んで強引にベルグ内に戻そうとしたのだろう――それをバシン!! とはたき落としながら、野次を飛ばした壁上にエイシャは(まなじり)を釣り上げ叫び返す。

 鋭い棘のあるその口調には、役に立たない兵士どもへの糾弾が込められていた。

 少女の剣呑さにたじろいだ兵士達が、魔法の発射口である手の先に視線を向けると――


「――な、なんだァ、ありゃあ!!??」「お、おい急げ、閉めるぞ!! お前ら、ベルグ内に早く入れ!!」


 彼らの目に飛び込んできたのは、決死の表情で走る二人の冒険者の向こう。その背後から滲むように湧き出すヒトに似た何か。

 足を引きずる彼らが纏うのは、ズタズタの襤褸切れ。

 そしてその隙間から覗く肌は赤黒く、明らかに尋常でない。

 二人の門兵は、眼前の光景に驚き、慌てたように開いた門を押し出した。


義姉(ねぇ)さん!! 冒険者っぽい前二人除いて、三十八だ!!」


 ケルン、エイシャ共に兵士の声を一切無視して迫り来る屍人を見据える。

 『視界(モノクローム)』を用いて、出現した敵の数を正確に数えたケルンは、戦闘経験が豊富なエイシャに指示を仰ぐ。


「あの様子じゃ、門兵は当てにならない……私が魔法で牽制して、冒険者二人が門の前に到達するのを支援する。ケルンは私の撃ち漏らしを斬り伏せて!!」


 相手が複数の場合、一番気を遣わねばならないのが死角からの不意打ち(バックスタブ)

 壁を背にするというのは、単純だが効果的。

 後ろに気を使う必要がなく、正面の敵だけ対処すればいい。

 門の傍には、全身鎧の兵士がいる。いくら索敵と判断能力が劣っていようとも、彼らとてベルグで兵役を積んだ戦士だ。

 専門の冒険者までとはいかないまでも、前衛兼壁役(タンク)として働いてくれるだろう。


「了解ッ!!!!」


 ――ケルンは、エイシャからの言葉を受けたかと思えば、次の瞬間には地を蹴って飛び出していた。

 同時に、赤髪の少女も魔法の詠唱に入る。


「『万物を灰燼に帰す炎の精霊よ。ザラマンドルよ。其は蜥蜴の体躯。開く顎に纏うは灼熱の劫火(ごうか)。瞳に定めよ。我は指向者、掲げる手先の(シルベ)を穿て』」


 エイシャの掲げた手の先に、幾何文様、緋色の魔法陣が展開する。

 赤熱し、温度を増し――澄んだ鐘の音と共に弾けた。


「『火焔弾(バーンショット)』!!」


 放たれたのは、その赤色の髪よりも少し明るい緋色の炎。

 駆けるケルンを追い越し、逃げる二人組を飛び越え――先頭の屍人(リビングデット)に着弾した。


***


「グァァァァ……ッ!!??」


 突如として飛来した炎の弾が、一匹の屍人に命中。

 激しい爆発によるノックバックの後、その体が発火し、周囲の屍人数匹を巻き込んだ。

 背後で弾けた中級火魔法『火焔弾(バーンショット)』に、屍人から逃げていたクララとアルフレッドは目を剥く。


「はっ……はぁっ、火魔法!? ということはあの赤い髪の女の子、魔法使いでしょうか!?」


「よしっ。門も閉じ出したっ!! 門兵も異常に気付いたみたいだっ……とりあえず、最悪は避けられたけどッ」


 依然押し寄せる屍人を背に、二人はもはや限界の足を動かし続ける。

 火魔法の着弾を見ていた視線をベルグ側に戻すと、黒髪の少年が脱兎の如き勢いで走り込んで来ていた。


「門の下へ急いでください、お二人が着くまで僕と義姉さんで応戦しますから!!」


 二人には目もくれず、ケルンは一直線に屍人の群れへと突っ込んでゆく。

 冒険者二人と交差する直前、黒髪の少年は最低限を叫んだ。


「はっ、……っ待て、君はどうするつもりだ!? あれらは魔族、屍人(リビングデット)なんだぞ!!」


「そうですよ、噛まれたら魔族に堕ちます!! 見た所戦う装備も整ってないですし、解毒薬(アンチドーテ)も持っていないでしょう!?」


 焦る二人の声を背に受けて、ケルンは口角を上げる。

 更に前傾姿勢になり、速度を上げ――『視界(モノクローム)』で自分の体を観察し、最速・最適な位置に足を運び、走る。

 空間魔法は、ケルンの体術全てを大幅に改善させていた。


 エイシャの放った火魔法、その炎から逃れる様にして二匹がケルンの前に踊り出る。

 ――盲者の少年は、速度を緩めることなく突っ込んだ。


「――グルァッ!!」


 徒手格闘も何もなく、屍人の腕が大雑把にケルンに向けて薙がれる。

 『視界(モノクローム)』に写る情報――筋肉の収縮、腕のリーチ――を統合して、少年は屍人の繰り出した攻撃の範囲と威力を想像する。

 ケルンは走るまま半歩だけ体を捌き――攻撃が当たらないスレスレのところで躱す。


「――ふッッ!!」


 すれ違いざま、体に巻き付くようにして振ったケルンの菜切包丁が、屍人の胴を抜いた。

 ――「グァァッ……!!!!」と、傷口から体液を迸らせる屍人の反撃を警戒しながら、ケルンは地を軽く踏みしめて反転。

 突貫の勢いを重心移動で回転力に変え、もう一匹の屍人の背中を逆袈裟に薙いだ。

 都合二撃を与えたケルンは、迸る体液が掛からない位置まで流れるように跳び退る(バックステップ)


「大丈夫です、任せて下さい!!」


 盲者の少年は、好戦的に笑いながら冒険者二人に向けて言う。

 菜切包丁に付着した体液を振り払ったケルンは、危なげなく屍人と応戦し始めた。


「すっごい……あの二人とは動きが全然違う。アルフ、たぶんあの子なら大丈夫ですよ!!」


「あんなに小さいのに、どうなってるんだあの剣捌き……!! 初撃の胴抜き、全く見えなかった……」


 クララは、一行(パーティ)を組んでいた前衛二人と少年を比べ、動きの冴えに目を見張る。

 剣を扱ったことのあるアルフレッドは、黒髪の少年を見て悔しそうに呟いた。

 足を止めて戦闘を見入っていた二人を叱咤するかの如く、エイシャが火魔法の二射目を放つ。


「危ない!!」


 ――黒髪の少年は、火魔法の発射を全く見ていない。

 巻き添えを予感したクララは、思わずケルンに向けて叫んでいた。

 盲目の少年はしかし、全て見えている(・・・・・)

 体を軽くずらし、背後から迫る緋色の矢を躱し――ケルンが斬った二匹の屍人に着弾。

 着弾後の爆発を予見していたかの如く走り出し、ケルンは爆風を追い風に加速した。


 心配が杞憂に終わったクララは、放心したように少年を見つめる。


「背中に目でもついているのでしょうか……?」


「取り合えず、門まで走ろう。魔法使いのヒト、たぶん怒ってる」


 放物線では無く、わざわざ低飛行で放たれた火魔法を見て、アルフレッドはクララに促す。

 ケルンの向かう先には、十匹は超えようかという屍人の群れ。

 かつては弱者。

 覚悟を決めて努力した少年は今、剣を片手に冒険をする。

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