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俺 Yoeee!?

作者: ゴロタ

予想以上に長くなっちった。

誤字脱字は追々訂正します。

 



 皆さんは俺Tueee! ってご存じですか?


 ラノベなどで主人公が異世界転生をすると必ずチート能力を授かり、敵相手に無双するという物語。

 しかも大体巨乳で美人な女の子たちとムフフな関係になれるという羨まし……………いや、けしからんオマケ付き。


 男だったら1度は必ず憧れるよね?


 うんうん。分かる分かるよ。俺もそんなハーレム展開に憧れたひとりなのだから。


 それでそういう物語の主人公ってイケメンだろ?

 いや、もちろんフツメンも中には居るが、大体がイケメンだし、フツメンでも何故か出会う女の子、出会う女の子にモッテモテ…………いわゆる勝ち組ってやつ?


 ふぅ………憧れるよ。 マジでリスペクト。


 俺もそんなラノベを読み耽りながら夢想したものだ。

 今度生まれ変わったら、異世界転生して俺Tueee! がしたいってさ。












 ……………………………………うん。まぁ確かにね、夢想はしたよ?

 それについては間違い無い。

 でもね、まさかさ、本当に異世界転生しちゃうなんて思わないでしょ、普通。




 しかもベタなトラック転生だった。


 ぶつかって意識がフェードアウト。次に覚醒すると、赤ちゃんでオギャーしているという、典型的なパターンであった。


 前世の俺は30歳にして、魔法使い(童 貞)の社畜であった。

 現世では絶対に魔法使いにはならねぇ!絶対にだ!!


 まぁ、セオリー通りならば、チート能力を授かって女の子にもモッテモテの勝ち組人生を歩むはずなのでそこら辺は心配していない。






 ***





「ええっ? これ、あれっ? そ、そんな…………………この結果は本当なのですか?表示ミスとかではなくて?」

「…………………………………………………はい。真に残念ですが、魔力測定器である水晶に間違いは御座いませんし、何か異常があるわけでも御座いませんので、この結果が貴方様の魔力値であるという事です」


 見間違いかと、何度も水晶の前で目を擦る俺。

 現在5歳。

 屋敷の一室にて、魔力値の測定をしている真っ最中だ。


 俺が転生した世界では、魔力があるのは当たり前で、魔力を持っていない者などひとりも居ない。


 否! 居なかった。


 今日、この日までは。




「あらまぁ。これは残念な結果になったわね?」

「そうだな。だが不幸中の幸いだ。双子の弟であるキィグリーンは高魔力を保持している様だから、そちらを嫡男としてしまえば良かろう」

「そうですわね。そうするのが良いですわ。それで…………ディブルーはどうなさいますの?」

「廃棄………………と言いたいところではあるが、 何かに使えるかもしれん。ふむ。領地の中でも1番辺鄙な場所で飼えばよいのではないか?」

「そうですわね。対外的にはディブルーは病死した事にして、永久に領地から出さなければ問題は無いですわね」


 勝手に俺の今後を話し合っているのが、俺の現世での両親であるカラーマーシュ侯爵であるドゥレッドと、その夫人であるリィホワイトである。


 ちなみに俺の名前がディブルーだ。


「父上!? 母上!? 一体何をおっしゃってらっしゃるのですか?」


 焦せりながら両親に近付こうとしたら、眼前に母上の扇子が突き付けられた。


「あら嫌だ。近付かないでちょうだい! 魔力が無いなどと…………。貴方本当に人間ですの? 平民にすら魔力はあるというのに。この様な平民以下の存在と、血が繋がって居るとは考えたくもありませんわね」

「全くだ。 貴族は全員魔法使いになるのが慣わしなのだ。 それなのに魔力が無いとはな。よもや魔力無しが感染し(うつっ)たりはせんだろうな?」


 つい数十分前は、嫡男である俺の魔力はどれぐらいの数値なのかと、楽しそうに話していたはずなのだが、最悪な結果が出たら急に手のひらを返した扱いに、流石の俺も頭にきた。


「うわぁぁぁぁぁ!!!」


 頭に血がのぼった俺は徒手空拳、ノープランで父上へと殴りかかろうとし、瞬時に捕縛された。


 しかも生まれたときからずっと俺を警護してくれていたランティスという名の護衛騎士に、だ。


「く、くそっ! 放せっ!放せよランティス!」

「ディブルー坊っちゃま……いえ、今後はただのディブルーか? 高貴な御方であるドゥレッド様への暴挙…………許しがたき大罪である!」

「いっ痛い! 痛いってば!!」


 ランティスは慮外者を見る様な冷徹な目付きで、俺を見やると5歳児に対して一切の容赦

 を見せずに腕を捻って床へと押し倒した。


 床はフカフカな絨毯が敷き詰められており、実際にはそこまで痛くは無かったのだが、生まれて初めて乱暴に扱われたので、肉体的というよりも精神的に痛かった。



「…………ふっ…………ぐっ……………うぅっ…………」



 ちくしょうっ!

 本当は泣きたくなんて無い。

 でも5歳児である俺の涙腺は脆かった。



 止めどなく流れる涙を拭う間もなく、数十分前までは紛れもなく父上だったはずの人物の命令で、俺は領地での軟禁生活を送る事に決定した。


 殺されないだけマシな対応らしいが、どこがだよっ!? って感じであった。


 もう扱いがクソ。 腕を掴まれて引きずられながら屋敷の外まで連れてかれた。




 カラーマーシュ侯爵領へは、犯罪者などを護送するための窓の無い馬車で、ひっそりと隠されるように連行された。




 生まれたばかりの頃に誓った事が、こんな結末をもたらす事になるとは思ってもいなったんだ。




 そう、俺は生まれたときにこう誓った。




【絶対に魔法使いにはならねぇ! 絶対にだ!!】



 と。



 その誓いのせいなのかは、本当のところ分からない。だが、間違いなく俺は魔法使いにはならなかった事だけは確かだ。


 前世では魔法使い=童貞であったが、もちろんこの世界では魔法使い=童貞ではない。


 魔法使い=貴族 こういう認識なのであった。




 って、そんなん知らねぇから!!!











 ―――――――――それから10年の時が流れた。



 この国では15歳で成人扱いとなり、色々な種類の仕事場に就職する。


 貴族の嫡男は父親から領地経営のイロハを学び、実際に領地の中の街や村などを管理する。

 嫡男以外は王城へ就職したり、聖職者になったり、王都の魔法研究所に勤めたりする。



 まぁ、対外的には病死している俺には全く関係の無い話なんですけどね。



 領地の中でももっとも寂れた村へと押し込められた俺であったが、実はとってもゆる~いスローライフ農民生活を送っていた。


 煩わしい貴族間のやり取りは一切無し。


 村人は朴とつとしていて優しい。

 助け合いの精神で、俺の事もずいぶんと気に掛けてくれた。

 閉鎖的な村にありがちな村八分とかも特に無く、のびのびと過ごした。



 そして使える前世の知識。


 実は俺、前世では農業系のノウハウを指導する会社に勤めていたので、色々畑チートしたよ。

 あのまま貴族であったなら、然して必要では無かった能力だけど、ここでは俺はいち農民。俄然やる気は満々だ。


 畑を耕し、牛にばかにしたように鳴かれ、馬に蹴飛ばされそうになり、山羊には追いかけ回され、鶏には突っつかれ、犬には噛みつかれ、猫には引っ掻かれたりもした。


 家畜はまだしも、ペットの犬や猫にまで軽んじられるとは……………。



 俺 Yoeee!?





 そんな辛酸を舐めた時期も乗り越え、劇的に向上した村の収穫量に、近隣の村からも我が村へと教えを乞う者たちが集まった。


 別に向上するなら問題は無いだろうと、特に出し渋る事も無く教えて行った結果、村 々(むらむら)は潤いまくった。



 飢饉?何それ?美味しいの? 状態。




 しかし唯一の誤算があった。

 我が村を含め、近隣の村が物凄く潤ってしまったため、野盗が出没する様になってしまったのだ。


 それも日を増すごとに増えて行った。

 まるで雨の日の後のタケノコがごとく、ぴょこぴょこと出て来る始末。


 幸いまだ各村から死者は出て居ないが、このまま行くと遠からず最悪の事態になってしまう可能性があった。

 そのため各々の村長たちは援軍を、領地を統括するカラーマーシュ侯爵家に要請した。





 そして派遣されてきた者たちが、カラーマーシュ侯爵家の領軍兵たちである。

 しかもその領兵を束ねる隊長が、ランティスであった。


 10年前、5歳まで俺の護衛騎士であった男である。

 馬上から偉そうに農 民(こちら)を睥睨している。


「私は領軍兵団所属、第7騎士隊長ランティスだ。野盗の襲撃に村人だけで、今日まで良く耐えたな。 して野盗を討伐するに当たり、詳しい話を聞きたい。村長は何処か?」

「は、はい。 わたくしめに御座います」

「ふむ。では腰を落ち着けて話を聞く事にする。座れる場所へと案内せよ!」

「か、畏まりました。村長であるわたくしめの家へとご案内致します」


 ランティスはそう言って馬に乗ったまま、予想だにしない大物の登場に、緊張でプルプルと微振動する村長の後を着いて行ったのであった。




「ぷふぅ~~~~~」


 俺は無意識に詰めていた息をもらした。


「お? ディーでも緊張とかするんだな」

「ふふっ………珍しいわね。まぁでもそうよね?領軍の兵士なんて見るの私、初めて」


 気安く俺に声を掛けてくるのは、10年来の幼馴染みであるワンダとリーシャの2人だった。ちなみにディーって俺の事だよ。ディブルーって名はもう使えないんだとさ。けっ。



「あれ?ワンダとリーシャじゃん。珍しいね、こんな時間に。いつもだったらまだ畑で収穫してる時間でしょ?」

「はんっ! 領主が直接私軍兵を寄越すってんで、その見物だよ」

「そうそう。 しかもこんな辺鄙な村にわざわざ隊長格である人物を寄越してくれるなんて不思議よね。何らかの隠謀とかがあったら面白いのだけどね」


 ギクッ…………。

 い、いやいやまさか………俺がこの村に居るからって訳じゃ無いよな?

 屋敷を叩き出されたこの10年、誰も俺に会いに来てくれていないじゃないか。

 今回ランティスが、こんな辺鄙な村に出没する野盗なんぞを討伐に来たのもきっと偶然だ。偶然に決まっている。


 自分の考えをブンブン左右に頭を振って吹き飛ばしていると、村長の孫であるエリックがこちらに駆けてきた。


「みんなここに居たんだ。 今家に領軍兵の隊長っていう人が来ててさぁ…………」

「あん? そりぁ知ってるぞ?」

「ランティス様って言うのよね?」

「あれ~? もう知ってるんだ。あっ!でもこれは知らないはず! みんな、耳かして!」


 エリックがチョコチョコと手招きするから、俺とワンダとリーシャはエリックを基点に円陣を組むとしゃがみ込んで顔を突き合わせた。


「これはさっき仕入れたばかりの情報だ。 今宵領軍兵たちは野盗の根城に総攻撃を仕掛けるらしい」

「はあっ!? ちょっと待てよ。今日の夜か? いくらなんでも速すぎないか?」

「…………速い分には問題は無いわ。でもどうやったら今日着いたばかりの領軍兵に野盗の根城が分かったのかしら?」


 そうだよね。普通は野盗の根城がどこにあるのかなんて分からない。

 でもそれが彼らには分かるの手段がある。


 そう、それが魔法だ。


 領軍兵の中に索敵魔法に特化している人物でもいるのだろう。


 村長から野盗に関しての情報を聞きたいって言っていたから、多分そこから目星をつけて索敵したのだ。


 荒唐無稽の様な話だが、魔法使いならば間違いなく行える。


 その話をリーシャたちにすると「魔法使いって凄いんだな」とか「俺たちも魔力はあるけど、特に魔法を行使出来るほど無いしな」など言って、しきりにすげーすげーと連呼していた。





 ***





 そして数時間後、領軍兵による野盗討伐は行われた。


 村人は若い男衆が駆り出されていた。


 まぁ、駆り出されたといっても村の灯りを絶やさぬ様に、キャンプファイアーよろしくちょっと大きめな焚き火をしていただけですが。



 俺たちも村の若い衆であるため、外で焚き火していた。


「しっかしなぁ………。領軍兵が居るって言ってもさすがに怖いよなぁ」

「そうだよな。俺たちも武装してるって言っても、これじゃあな……………」

「うん。 農具じゃちょっとね。不安だよね」


 焚き火をしている場所から手が届く場所に、俺たちは(くわ)(すき)(かま)などで一応の武装をしている。


 万が一 領軍兵が討ち洩らしたりした場合に備えて、なのだが如何せん辺鄙な村に一般的な剣や槍があるわけが無く、武器が無いよりかは幾分マシ程度の認識だ。




 緊張を滲ませながら火を絶やすこと無く過ごすこと約1時間。




 微かにだが、雄々しい雄叫びか木霊のように聞こえて来た。


『ウオォォォォォ……………ォォォ……………………』


「は、始まったのか?」

「み、みたいだな」

「ま、まじか…………」


 情けなくも膝が自動的に震えてしまう。

 だが致し方が無い。我々はまだ15歳。成人したばかりであったし、辺鄙な村では酔っ払い同士の喧嘩、友人同士の喧嘩以外では特に争い事や戦いなども起きないのだから。





 その雄叫びは夜が深まって来るごとに、段々と小さくなって行った。


 その事に俺たちは安心していた。

 そろそろ野盗討伐も終わりなのであろう、と。


 焚き火を囲むメンバーも、安堵の表情を浮かべながら夜食にと作ってもらったサンドウィッチをパクつき、シチューをお代わりして和んで居た。





 と、その時。





 ガサガサと大きな音を鳴らし、繁みの中から血にまみれたフードを、目深に被った人物がヨロヨロと出てきた。


「ブツブツ…………ブツブツ…………」


「だ、大丈夫ですか?」

「大変だ! 助けないと…………………」


 ワンダとエリックは慌てながらも、助けようと血まみれフードへ近付こうとしたのだが、俺は直ぐに2人の手を掴み引き留めた。


 俺はそのフードに見覚えがあったからだ。

 フードには我が国の紋章が描かれており、それを与えられるのは貴族の、魔法使いだけであるという事を覚えていた。



「………………ボソボソ……………ブツブツ……………」



 その間も血まみれフードが小さく呪文を呟やき続けている。


「危ないっっっ!!! 駄目だっっっ!!!」


 俺が叫んだその時、血まみれフードの頭上の空間に大きな炎の球体が現れ、近くの木々にも火が燃え移り周囲を赤々と照らした。



 そしてその瞬間、熱風に煽られた血まみれフードのフードが落ち、鈍く落ち窪んだ虚ろなな眼をした男の顔が現れた。


「けひっ………けひひっ………もう駄目だ………もう終わりなんだよぉぉぉぉぉ……………」


 男は口の端に出来た泡を飛ばしながら絶叫し、泥だらけの指先を俺たちが居る方へと力無く振った。



 スローモーションの様にこちらに向かってくる炎の球体。


 呆然と炎の球体を見続ける事しかワンダもエリックも、もちろん俺もそれしか出来なかった。



 だが結果は予期せぬ終結を迎える事となる。



 俺たちの目前まで迫って来ていた炎の球体が、忽然と消失したのだ。



 一体何が起こったのか訳が分からず、俺たちはお互いを見やった後、炎の球体を生み出した魔法使いへと視線を向けた。

 もしや、正気に戻って魔法を消してくれたのではと考えたのだ。


「けひっ……………けけっ………ぁぁぁぁ……」


 うぬぅ………。

 正気を失って壊れたままである。


 もしや幻覚だったのではと、考えたのだが魔法使いの男の直ぐ上にあった木々は、まだ燃えている。



 ん?

 燃えている?


 ちょっと待った! 現在進行形で考えねばならない事は、魔法使いの炎の球体では無い!


 今、目の前で燃えまくっている木々だ。



「ま、不味いっ! ワンダ!エリック! 村のみんな総出で消さないと、全部燃えちゃう!」


 俺が燃え上がる木々を指差すと、両者共に状況を把握。

 直ぐ様足の速いエリックが村人を呼びに行き、集まった者たち一丸となって木々の消火活動に従事した。



 途中、野盗討伐に出ていた兵士にも手伝ってもらい、何とか明け方ごろには鎮火したのであった。


 不幸中の幸いなのか、村人や住居への被害はゼロであった。




 そして他の村人から詰問される我ら3人。


 当初は焚き火の管理を怠ったから火事は起きたと疑われたのだが、俺たちの近くで壊れたままの魔法使いが、けひけひ笑って座り込んでいたため、直ぐに俺たちへの疑いは晴れたのであった。




 そして起こった事を包み隠さず兵士に伝えると、俺たちは何故かランティスの元へと連れて行かれた。

 ちなみにその時、俺はドナドナの牛の様な心情で連行されたのだが、それは言うまでも無い事であろう。



 ドキドキハラハラしながらランティスの居る村長宅へ入る。


 大丈夫。大丈夫だ。もう10年だ。幼かった俺ももう成人。さぞ顔も変わっている事であろう。分かるわけ無い。むしろ覚えてすら居ない。そんな自己暗示をしつつ村長宅の居間にあたる部屋へと通される。




「ディブルー坊っちゃま、お久ぶりで御座います。わざわざこちらにお出で頂きましたこと、平にご容赦下さいませ」




 開口1番、ランティスは畏まった態度で俺に向かって深く頭を下げた。


「はあっ!?」

「えっ!? 何?」


 そんなランティスの俺への態度に、驚愕な表情でこちらを見るワンダとエリック。


 ですよねー。

 驚くよねー。

 てか、1番驚いてんの俺何ですけど???


 あっれー?

 侯爵家を叩き出される時の扱い、犯罪者みたいだったんですけど?

 それにランティスには、腕を捻られて床に押さえ付けられた記憶しか無いんですけど?


「………………………………………………………」


 そりぁ驚いて返事も出来なくなるよ。何故俺をディブルーと呼ぶんだ?それも敬語で?


 侯爵家での俺の扱いって死者だろ?意味わからん。


「……………………………ディブルー坊っちゃまがわたくしを許せないのは、重々承知の上で御座います。しかしこれは覆しようが無い事案なのです!」


 苦渋に満ちた表情で、ランティスが胸元から取り出したのは封蝋された1枚の羊皮紙であった。


 俺はその封蝋の紋章を確認すると、一瞬気が遠くなった。


 その紋章とは、我が国の王家が使用する紋章だったのだから。


「さあ坊っちゃま。 お受け取り下さいませ」


 ランティスが呆然としている俺の手に、王家の紋章が付いた羊皮紙を捻り込もうとしてくる。


 読むよ!ちゃんと読むから止めろ! 読めなくなったら不敬罪では済まなくなるぞ!


 急かすランティスをひと睨みすると、封蝋をパキンと割って中の書状に目を通す。



 そこには――――――――――――こう書いてあった。



【余の息子で、第3王子であるラクトのたっての願いにて、お主は王城へ召集のちラクトの伴侶として遇する。 ちなみにお主の突然の急報を怪しんだラクトが、この10年で調べたカラーマーシュ侯爵家の非人道的な諸行の数々を告発。 現在子息のキィグリーンに爵位を譲渡中である。 お主の死亡書も撤回してあるゆえ、この書状を読見終わり次第、王城へと馳せ参じるべし。 ダグワイア王国国王、スレッショルド2世】



 意味不明である。

 俺の脳の理解力が足りないのか、内容が謎過ぎる。


 王の息子で第3王子のラクトって誰だよ。


 しかも男の俺を伴侶として遇するって?どーゆう意味? 王都ジョーク?つまんねぇから。


「坊っちゃま。どうやら読み終わられたご様子。では王都へ直ちに参りましょう!ささ、ラクト様も、首を長くしてお待ちで御座いますので」

「ぐ、ぐえっ! 止めろランティス!俺は行くなんて一言も…………」

「ああ、嘆かわしい。 この10年で御言葉使いが随分と退化なさいましたね、坊っちゃま」

「いや、10年前も対して変わってないから! 元々口は悪いから!」

「大丈夫で御座いますよ? 王都への道中、馬車の中で教えて頂き完璧にして下されば!」


 や、やめろー。

 うすら寒い笑顔で俺を馬車へと、力業で向かわせるランティス、マジ怖えぇぇぇ!!!



 助けて へるぷみー。


 俺は親友と言っても過言では無い2人の幼馴染みに、視線で助けを求めたのだが、勢いよく逸らされた。


 ガーーーーーーーーーーーーン。


 ショックだ。 俺が実は侯爵家の人間だって分かって目を逸らしたのでは無いって信じたい。

 ランティスだよな?ランティスが怖いせいだよな、きっと。


 俺は自分に言い聞かせる様に何度もランティスのせいにした。




 馬車に乗る、乗らないでランティスと揉めていると、村長宅よりワンダとエリックが駆け出してきた。


「おいおいおいっ!ディー!お前が侯爵家の子息って本当かよ?」

「嘘でしょ? その冗談面白く無いんですけど?」

「お、お前ら…………………………」


 うんうん。

 だよなー。 俺だってこの10年でもう立派な農民だよ。今さら貴族に戻ったって駄目だろ。培われた10年の歳月ってでかいし、元々前世も一般庶民だったんだよ、俺は。


「…………………………君たち? 邪魔だよ?」


「「「ひょえっ………」」」


 地の底から響き渡る様な低音ヴォイスで、ランティスが背後より声を掛けてくる。


 びびって踏ん張りが利かなくなった俺は、簡単に馬車へと乗せられてしまい、無情にもそのままランティスも一緒に乗り込んで来た。


 くそっ………このままじゃ確実に逃げられない。第3王子の嫁という、意味の分からないポジションへと祭り上げられてしまう。


 だが王都へは数日掛かる。その間に逃走を計るしか無い。



「おお~い! 王都での土産を楽しみに待ってるぞ~!」

「居ない間のディーの家の管理は任せてよ! ゆっくり楽しんで来てね~!」


 馬車の外からはワンダとエリックの暢気な声が聞こえてくる。


 事の重大さを奴らは知らないんだ。


 涙で前が見えなくなる。


 その涙の意味はもう戻れない哀愁か、はたまた王子の嫁という摩訶不思議な立ち位置を思ってかは定かでは無かったのであった。





 その後何度か逃げようと画策したのだが、そのどれも失敗。

 直ぐにランティスに連れ戻されたのは言うまでも無いのかもしれない。





その後のオマケ


ディブルー⇒王族に逆らえるはずもなく、嫌々第3王子の妻の座におさまる。 てか、妻って何でやねんと、内心ずっとツッコミを入れている。毎晩毎晩王子に尻を狙われてい気がして、無防備に寝れない。 ※自身の秘密には最後まで気付かない。


※自身の秘密は下記参照


キィグリーン⇒可もなく不可もなく領地を治める領主となる。 ディブルーの事は両親に死んだと聞かされており、それを10年もの間信じていた。 魔力は普通の貴族よりも多い。


ランティス⇒1番調子の良い奴。長いものには巻かれろ精神の持ち主。黒か白かで言ったら限り無く黒に近い濃い灰色。奥さんと3人の子持ち。


ラクト⇒アイスクリームでは無い、第3王子。幼いディブルーに一目惚れ。初恋の執念にて、巧妙に隠匿されたディブルーが死んではいないのと、その行方を探りだした。

細マッチョのイケメン。 現在妻であるディブルーの尻を狙って色々模索中。


ワンダ&エリック&リーシャ⇒待てども待てども帰ってこないディブルーに業を煮やし王都まで会いに来る猛者(世間知らず)たち。

エリックとリーシャが結婚。ワンダは歳上の女性と結婚して幸せに暮らしてる。

たま~に避暑と称して、村へとやって来るディブルー&ラクトを歓待する。


血まみれフードの魔法使い⇒正気に返らせる魔法で正気にかえる。王都で仕事に失敗。心が折れる。エリートは1度折れると中々元には戻らない。凝り固まった憎悪や妬みや嫉妬から野盗にまで身を落とす。元々は子爵家の次男。


ディブルーの両親⇒悪どいことも悪びれもせずに行う純粋な悪。 現在は城の貴人を収監する牢に居り、余罪の追求が行われている。




※本編では明かされなかったちょいネタ


ディブルーたちの前で突然消失した炎の球体⇒実はディブルーの隠れた能力。

ディブルーには魔力が全く無い。ただし、自分に向けられた他人の魔法を打ち消す事が可能。

だから炎の球体を消す事が出来て無事だった。


あれっ?これちょいネタじゃねーや。結構重要だった。

でも今後は多分出てこない。だって王子の嫁に魔法をぶっぱなそうとする奴が、まず居ない。

ただし、怪我をした時回復魔法等を受けるとバレる可能性有り。ディブルーは大きな怪我は出来ませんな。


階級について上から


王族

公爵

侯爵

伯爵

子爵

男爵

準男爵

平民

農民 ←主人公ここでした。

奴隷


って感じです。ま、農民と平民は順不同でも、特に問題はないかな?




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