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タイムマシンはどこですか

作者:ねこにゃん
お読み下さりありがとうございます。楽しんでいただければ幸いです。
 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう・・・・」

 震える声でつぶやき続けても現実は変わらなかった。
 抱きしめている真新しいカバンの金具が、カチャカチャと音を立てる。

 家と家の塀の狭い隙間に入り込んでかれこれ2時間弱。
 そろそろタイムリミットが迫ってきている。


「どうしようっ!!!」


 絶望的な気分で、私は、男子生徒しか入っていかない校門を見つめ続けていた。




 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 友達によく、変なところで抜けてる、と言われる。
 自分に自覚はないので、そんなこと無いと反論するも、半笑いで返されて終わる。それか反論の余地もないほど理路整然と言われて詰む。

 諸行無常だ。

 しかしまだまだ若いのだから、神様も大目に見てほしかった。こんな試練乗り越えられない。



 これから入学する高校の女生徒が、私一人だけなんて耐えられないよ!!!!



 元男子校だったことは知っていた。
 今年度から共学となって、『桜花男子高等学校』が『桜花高等学校』になったことももちろん知っていた。

 言い訳をさせてもらえるなら、入試の時も面談の時も他の女子が居たんだよ???
 だから、安心して、どの子と友だちになれるかなーなんて考えてたんだよ???

 それなのに。


 噂で、『女子が誰も入学しないらしい』なんてのが流れて、みんな辞退したなんて私聞いてない。


 ソレを私が聞いたのは、入学式の3日前だった。
 両親も知らなくて、おばあちゃんがすごい勢いでうちに来て教えてくれたのだ。(井戸端会議情報)

 母さんは学校に確認して『まさかそんなことがおきるなんてっ』と青い顔をしていた。
 父さんはオロオロとリビングをうろつき始めた。
 まさかだと思うよね、冗談だと思うよね。冗談だよねそうだよね。

 私も慌てて友達に聞きまくると、酷い返事が返ってきた。

『あれネタだと思ってた』
『まさか知らないと思わなかった』
『あー冗談ね、はは、で?どこ高よ?』
『そうだと思った』

 特に最後のやつはない、3年なんてあっという間だよなんて戯言は、自分で体験してからにしてほしい。


 ・・・・・・思い返してみれば、怪しかったこともないではない。

 面談のときも妙に歓迎されてたし(女子少ないからだと思ってた)、合格通知が届いた後電話が来て『本当にいいんですね?』とか念を推されたし(暇なんだなと思ってた)。



 もう私には、高校浪人か、そのまま突き進むかしか、残されていなかった。




 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 イメージは大事、そう私は景色の一部となっているんだ。
 だから視線を感じてもそれは景色を見ているのであって私を見ているわけではないのだ。


 結論、小庶民な私は、突き進むことにした。


 人間、顔さえ見られなければ、なんとかなる。だって強盗する時覆面するでしょ?

 カバンで顔を隠しつつ、壁際を伝うようにして体育館へ向かう。
 途中、手渡しされていた『入学おめでとう』の花は、並んでいるのを無視して(心苦しいが)走り奪った。

 完璧だ、ここまでは完璧だ。そう信じなくちゃ。

 たとえ制服がスカートだから顔を隠しても無駄だとか、花を奪い去る時に先輩とばっちり目があってしまったとか、そんな現実に目を向けちゃいけない。


 なんとか体育館にたどり着いて並べられたパイプ椅子に座ったときは、もう力尽きていた。燃え尽きていた。
 あかん・・あかんわ・・これ三年もたないわ・・・・


「あ、君かー、唯一の女子って」


 隣の、人から、話しかけられた!!!!!


「あっいや、あのそのっ!!」

 まさか話しかけられると思わなかった。予想外の展開に、涙が溢れてきて、ただの会話なのにパニックを起こしそうだ。

 話しかけただけで涙ぐむなんて、面倒くさい奴だと思うのに、彼は(やはり彼だ)むしろ優しく続けてくれた。

「俺、日野啓吾ひのけいご。女子一人なんて大変だよな、俺に出来ることあったらなんでも言って?」


 き、きたぁ!!神様仏様だ!!
 これは地獄にたらされた蜘蛛の糸に違いない。この糸は!私のものだっ!!

 逃してなるものか!!


私天鎧小代里てんがいこよりお願いします私の盾になってくだひゃいっ!!!」

「へ?」


 噛んじゃったけど伝わったよね??



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 日野くんは快く引き受けてくれた!!!優しい!!!


『盾??ん?盾????え、良いけど別に。・・え、盾??』とか聞こえたけど、気にしちゃいけない。

 入学式が終わり移動となったが、教室まではどうやら自由に行っていいらしい。
 安心して日野くんの後ろに隠れる。

「やっぱりそういう意味だよな」

 どうやら納得してくれたようだ。後ろにいるからかなり話しかけづらそうだが、ごめんよ日野くん。
 此処は戦場なんだ、安全地帯からはみ出る訳にはいかない。


 ああ、視線が痛い!!!


 視線から逃れたくて日野くんの背中に出来るだけ寄って身を縮める。

 あれ?視線が、チラチラから、ジロジロに、変わったよ悪化したよ????

 思わず日野くんの背中に抱きつく。あ、すごい安心感!これいいな!!


「あー・・・大丈夫???」

「だ、大丈夫ですありがとうございます!あ、ひ、日野くんはだいじょうぶ??」

 ジロジロは、私だけでなく日野くんにも向けられている。
 それに私には日野くん(盾)がいるが、日野くんには日野くん(盾)がいない。

「いやむしろムネ当たっててラッキー」

 何たる寛大さ!!この状況下で私にはもはや余計なプライドや羞恥心など存在しない!

「こんなムネで良ければ喜んでっ!」



 対価を支払っているので、これで思う存分安全地帯に引きこもれるぞ!




 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 やはり神は私を見捨てたようだ。


「ごめんトイレ行きたいんだけど」


 教室へ行くたった数分間にこんな試練を与えなくてもいいと思う。


「私も一緒に行きます入ります!」
「いや、それはさすがに勘弁」


 断られてしまった。そうですよね調子乗りました。
 あっでも、一緒に行って女子トイレに隠れて見守りつつ出てきたら一緒に戻れば良いのでは?

 完璧だ。

「じゃあ途中まで一緒に行きます!」
「え?いいけど」

 よしよし、ソレなら問題ない、試練ちょろいな。
 私は鼻歌交じりで安心して日野くん(盾)に隠れた。





 そうだ私よ、忘れちゃいけない、此処は地獄だったのだ。



「じゃあトイレはいるけど・・・いいか?」

 そう確認してくれる日野くんは菩薩様のように優しい。
 日野くんが教祖だったら私は間違いなくその教団に入ってる。

「もっもちろ、、ろんっ!!!いいいいってらっしゃって、か、かまわない、ぞよ!!」
「口調めっちゃおかしい」

 安全地帯に入って油断していた私の精神は、急な展開に酷く混乱してしまったようだ。

 私は言いたい。
 水回りはまとめて作られるのが一般的だ。だから男子トイレの横には女子トイレがあってしかるべきなんだ。

 だがしかし、目の前には男子トイレただ一つ。
 現実は無情だ。

「じゃあほんとに入るぞ?いいか?」

 どうしようどうしよう。あっ丁度いいところに柱が!

「こっここにいます早く戻ってきて下さいお願いします」

 素早く安全地帯(日野くん)から柱の陰に移動する。ここなら男子トイレの入り口も見張れる!

「・・・・じゃあいってくる」

 そう言って男子トイレに消えていく日野くん。
 途端に周りからの視線がぐさぐさと私に突き刺さっていくのを感じる。

 はよ!はよかえってきて!ひのくん!わたしのたて!!


「なーなーあれじゃね?女一人で入学したやつ」
「ほんとだ、なぁおい」


 柱の陰って、後ろは、無防備だ。

 ギギギっと音がなりそうなほどギクシャクとした動作で後ろを振り返る。

 上履きの色からしてせんぱいだ。あっここ2年の階だ。ひのくんのばかやろう。
 なんかこわい、髪茶色いしこわい、背高いしこわい、目つき悪いしこわい。

「ひぃっ」

 思わず悲鳴を上げてしまった。なんてことだ、先輩方は気分を害したようだ。

「なんだ、ひとりではいったっつーからどんな自信満々な美人かと思ったのによ」
「マジふつーじゃん、期待はずれだよ」
「あーがっかりー」

 私に対して言ったであろう、先輩方の言葉を頭の中で繰り返してなぞる。

 マジ普通?期待外れ??がっかり?????


「ほ、ほんとですかぁぁぁ!!!ですよねですよねぇ!!普通すぎて私なんて目に映らないほど矮小ですよねぇぇ!!」

 思わず飛び上がって万歳三唱したよ!
 そうだった私は景色だよ!女子だからというだけで見られてるなんて自意識過剰だったよ!

「そ、そこまでいってな」
「いやあ!ほんと先輩方ありがとうございます自信持てました!」

「おーい天鎧さん」

 あっ盾(日野くん)が戻ってきた!
 クックックッ!残像を見せる勢いで安全地帯に戻ってやりましたよ!無事生還!

「何かあったのか?」

「いやいや大したことじゃないよ!先輩方失礼しますー!」

 何か言いたそうな感じの先輩方だったが、残念。私はゆかねばならぬのだよ!


 さあさあ、盾(日野くん)の後ろにいる私は無敵だ!!いざ行かん、教室へ!


「よし発進だ!我が盾よ!教室は近い!!!」

「お前調子乗ってんな」


 日野くんに頭をポンポンされて撫でられてしまった。きゃっ!


 うむ!もっと撫でるが良い!



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 テンションを上げすぎると、後が辛い。調子に乗りすぎた私死ぬほど辛たん。


 はっと気付くと、もう下校するだけとなっていた。
 あれ程三年間持たないと思ってたのに、今日は入学式だからなのだろうか、時間が過ぎるのが早い。


 あっ違いますね、記憶を飛ばしてただけでしたテヘペロ。


 更に追加でダメージを自分で与えつつも、隣の席が日野くんであるこの奇跡に、感謝を捧げる。
 フリをして、帰ろうと席を立った盾(日野くん)の後ろをすかさずとる。

 あ、この言い方なんか暗殺者っぽくてかっこいいな。

「一緒に帰ろう!いや帰らせて下さいホントお願いしますこの通りです」

「お、戻った」

 この通り、と言いつつ、後ろをがっちりマークしているので、日野くんからは見えない事をいいことに、特に何もしていない。
 私ってば地獄に落とされても仕方ないんじゃ?いやそんなことないはず。


「はいはい、帰ろうな」

 なんだか完全に年下のような扱いだぞ?此処はもっと私の(ささやかな)ムネをアピールするべきなのでは?

 グイグイ腕で締め上げても全く動じない日野くん。早くも飽きられたかっ!

 盾を失う恐怖を感じつつ、何事か話しかけてくるクラスメイト(男)たちを完全に無視して盾(日野くん)にしがみつく私。
 ・・・・・ものすごく感じわるいのは承知の上だ。慣れるまで待ってくれ!


「こんな状態だろ?慣れるまで気長に待ってくれや」


 ひゃう!ひのくんお釈迦様か!!
 まだ見ぬ日野くんのお母上様、日野くんを産んでくださってありがとうございます!!!

 感謝感激しているが後ろにいるから伝わらない。でも前に行きたくない。むう。

 悩んでいる間に、日野くんはさっさと移動していて、私があんなに時間を掛けて(2時間)登校した道のりを、たったの5分で歩いてしまった。もう駅だよ!!

 私は別に対人恐怖症とかじゃないので、此処までくれば安心。むしろ駅前で男子に後ろから抱きついてる方が目立つ。

 ひょいと離れて、伝えられなかった感謝を日野くんに伝える。


「本当にありがとう!これからもよろしくね!RINEのIDと電話番号とメールアドレスと、あっ、あと住所も教えてください」

「お前はストーカーにでもなるつもりか?」


 ダメ元で言ったのに、日野くんはRINEのIDと電話番号を教えてくれた。
 大丈夫かな日野くん。私だったら絶対に教えないけど。壺とか買わされちゃわないかな。

 心配になって見つめると、日野くんはまた私の頭をなでた。

 そう言えば、今日あれだけお世話になったにも関わらず、ちゃんと日野くん自身を見てなかったなと思って、じっと見る。

 私より高い身長に引き締まった体。
 清潔感のある短い髪。
 撫でられると安心する手。
 面白そうに私を見る顔に心臓が跳ねる。

 頭の中で母さんの声が蘇った。『運命の男は見つけた時に捕まえるのよ』


 もうこれは、本能で悟った。彼だ。日野くんがそうなんだ。


 そう思った瞬間、なんだかキラキラしたフィルターがかかったかのように、日野くんがものすごく格好良く見えた。
 こ、これはもう捕まえるしか無い!!!!!


「好きです日野くん!つきあってくらはいっ!!!!」

「え?」


 またしても噛んじゃったけど伝わったよね????
 びっくりしてる日野くん。当然だよね会ってまだ半日だもんね。

 しかしここは畳み掛けるが有効(多分)!!


「盾としてじゃなくて男性として素敵です!!かっこいい日野くん!!ひゅう!!」

「なんか唆されてる気分」

 そんなことないそんなことない。私真面目に言ってる。
 お願い、神様仏様日野くん。私の気持ちに答えて!!!

「うーん・・・いいよ」
「えっ!まじで」

 120%断られると思ってたよ!断られる心の準備はしてたけど、OKもらえる準備はしてないいいいいい。


「うんまじで。やっぱ、あんなに頼られると、男としてはその、嬉しいし」


 照れながら言う日野くんは天使か。トキメキすぎて、このままだと私の心臓が持ちそうにない。


「よろしくな、こよりちゃん?」
「うひゃあ!よ、よろしくね!・・ひ、日野くん!」


 あぁ!!高校生活はバラ色だな!!!



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 総じて見れば、私はとても幸運だったんじゃないだろうか。

 死にそうな顔で通学した娘が、ウキウキして帰ってきたのをみて、両親はとても喜んでくれた。
 唐揚げうまい、白米うまい。

 高校生活初日で彼氏ができるなんて、そう滅多にあることじゃない。
 しかもあんなに素敵なんだもの!!!


 デレデレしながら床につく私。ほんと明日が楽しみだな!!!




 この時私は完全に油断していた。
 そう、試練というものは、忘れた時にやってくるものなんだ。








 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 輝かしい朝を迎えて、駅前で日野くんを待つ。
 恋をすると景色がきれいに見えるってホントなんだね!!


 ブブー

 お?日野くん着いたのかな?


『ごめん、風邪引いた。だいじょぶか?』


 あわあああああああぁぁああぁ!!そうだよ日野くんが来れない可能性を忘れてたああああ!!!


 携帯を持つ手がガクガク震える。

 続いてきた済まなそうなにゃんこのスタンプを見てときめいてる場合じゃない。
『ひのくんのばかやろう。大丈夫だよお大事にね』なんて見栄を張っている場合でもない。

 敵地だ。ここは戦場の敵地なんだ。しかも味方は居ない。

 完全に今の自分と一致しない元気そうなうさぎをスタンプで送る。どうしようどうしよう。

 もう一度来た済まなそうなにゃんこのスタンプを見て癒やされてる場合じゃない。考えろ。


 ・・・・・・・・自宅に撤退するか????
 いやダメだ、あんなに嬉しそうに送り出してくれた母さんのいる家に、帰れるわけがない。


 詰んだ。完全に詰んだ。

 もう気分は『前門の虎 後門の狼』だ。引くも地獄、引かぬも地獄。


 なんでこんなことになってるんだ?
 ・・・・・・近いから適当に高校を決めた自分のせいですねそうですね。


 あぁほんとにもう!!とりあえず!過去の自分を殴りたいっ!!!!!!!!






 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※作者感想
「普通におうち帰りなよ、こよりちゃん。日野くんがいるときに登校しなよ」
そう思ってるんですが、中々伝わりませんでした。

この後こよりちゃんはどうするんでしょうかね?

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