【くい】
初めまして。缶と申します。
昨日猫の死体を見ました。
その時に思いついたとても短い小説です。
本来はキャスフィという所にアップした奴ですが……何一つ
こっちに何も落としていない&ココは自作品の転載はOKらしいので折角ということで上げました。
ホラー風味ですがさっぱりしてます。宜しくお願いします。
恐らくこの程度ならR15じゃないと思う。
『7月半ばに行方不明となった――』
とある朝の話だった。
夏日と言うべき日和でとても蒸し暑く、半そでの制服程度では
この熱気を凌げる気がしない。
こんな日には水に浸かるか、怖い話でも見て清涼を感じたいところだ。
テレビを画面を消して靴を履いて家を出た。
「今日家帰ったら……録画した奴でも見ようかな……」
いつも通りの時間に家を出て、いつも通りの道をとって、
いつも通りの学校に向かういつも通りの登校時間だった。
今日だけは少し非凡を帯びていた。
車が急にそれもほんの一瞬だけ車線を変えているのが目に留まった。
(車がとまってるわけでもないし……)
興味本位でその道路を見てみた。
其処にいたのは、全身をくらい、くろい毛を纏った物。
耳が付いている小動物。
ネコ。
(……!)
当然普通のネコとは違っている。
ただのネコならたまにではあるが見かけるし
非凡と称するほどの事項にもならない。
その猫は、死んでいた。
内臓が飛び出ていて、血が辺りに散っていた。
恐らく腸辺りだろうと思う。
猫の内臓に詳しくないので確定的な事は言えないけれど。
「う……わ……気持ち悪っ……」
眉間にしわを寄せて目を半開きにしてみた。
鼻が良い訳ではないけど路傍の道からでも
悪臭がしそうな禍々しさで気分が悪くなる。
厭な意味でひんやりとした空気に包まれる。
しかもその猫は死んでも尚目を開けている状態のようで
その目線は僕の方を向いていた。
「……何か嫌だな……死体に見られるって……」
何か訴えかける訳でも無い。
別段呪力を持っている訳でも無いけれどその猫は
言葉にできない奇妙さと不気味さを持っていた。
僕はその場をそそくさと過ぎ去る事にした。
学校についてもまだ死体のあの猫の顔が焼き付いている。
「おっすー」
「よー……」
友人が駆け寄ってきた。
すると僕の顔色に気づいたようで少し困惑気味に尋ねてきた。
「なんか顔色悪くね?」
「いやぁ……道中で死んだ猫みた……」
「マジか。俺も昔見たなー。鳩だけど。
お前ホラー系とか大丈夫じゃなかったっけ?」
そうなのだ。
今朝の時点で録画してある恐怖系番組を見るつもりでいれるくらいの
適正と言うか、耐性は備わっていると思ってた。
しかし実際そういう類に遭遇してしまうと
やはり嫌になるらしい。
「まーふっつーに死体くらいどっかに転がってるって。
お前ダメージ受けすぎだろ」
「……だよなぁ……」
正気に戻りたくても何故だかあの顔が未だに離れない。
授業も結局身が入らない。
それどころか昼休みに食っていた弁当もあまり上手くのどを通らなかった。
「お前死体がどうとかじゃなくて夏バテしたんじゃねーの?保健室行けよ」
友人が心配そうに僕の方を見て行った。
確かに今日は中々に暑い日だった。
朝から暑いと感じていた。
が、それ以上に多分あの猫が気になっていたんだと思う。
保健室にいく事もせず、職員室まで行って
担任に報告すると僕は早退した。
家まではそうたいした距離ではないので
親も呼ばないと伝えて帰路を急いだ。
多分家が近いとかと言うよりも
道中のネコのその後を見たかったんだと思う。
車が通るその道の真ん中で依然として猫の死体は無残にも転がったままだった。
(……あれ……猫ってこっち向きだったかな……)
来た道と同じ側の歩道を通っているが
登校時に見た時と若干立ち位置は違う筈だ。
(……確かこのガードレールの端で見てた気がするけど……)
いやしかし多分、猫の目がはっきりと見えている訳ではないし
恐らく偶然見つめられていると錯覚してるんだろう。
「うっ……気持ち悪……」
(明日には流石に片付けられてるのかな……市とかに……)
暫く見つめてから何かする訳でも無く僕は家に帰った。
考えてみれば今この時間帯だと親は仕事だった。
(……クーラーつけよ……)
録画の番組を見る事は流石に止めた。
次の日には流石に体調を取り戻して僕は登校していた。
道中で見かけてた猫はすっかりと影を潜めたとでも言うように
跡形も無く消えていた。
誰かがあの後連絡したんだろう。
学校に行っても別段気怠けは無く昨日の事が嘘のように思えた。
あの顔も何故だかぼやけたような気がする。
授業はちゃんと半分くらい寝たし
弁当も残すことなく食べきった。
寝相も特に変な感じはしない。
寝ぼけ眼で目を開けた。
部屋が暗い。夜中だった。
ただただ偶然に眠りから一度冷めたらしい。
「……ねむ……ねよ……」
そうする僕の目に一つの物体がとび込んできた。
窓の所にい佇む仰々しい目つきと
暗い夜中でもわかる程に若干赤い体。
それが本体の黒に重なって奇妙を表していた。
「ネコ…………」
「何で、何で」
猫は不可思議にもゆっくりと喋りだしていた。
しかし僕はそんなことにすら触れることなく
その猫を、
死体として見た筈の猫を見つめていた。
「何でお前は、助けてくれない」
「…………」
その顔は血に染まっていて
開かれた口の中はぐちゃりと崩壊していて
とてもまじまじと見ていられるものではなく
気分の悪さが再来した。
「ぅ……ぇ……」
「何でお前はあのまま放置をしてくれたんだ」
「だっ……だっ……だってっ……」
気持ち悪かったから。
そんな言葉が、損な言葉なんて吐ける筈がない。
「皆……皆スルーし……したじゃない……か」
結局端的な言葉を述べた。別に嘘ではないという言葉を
冷や汗交じりで吐いた。
猫は驚くことも蔑む事もせず依然として僕を見つめていた。
あの時の様に。
「こうして死んだ猫は人に恨みを持ち、悔いを残している
人の魂を喰い終えて漸く死ぬことが出来る。
皆やってる事なんだ」
気味の悪い口が忽ち巨大になる。
視界が赤黒く染まる。