第五話
「戻って来られたとはいえ、まだ状況が厳しいのは変わりないんだけどね」
森に帰ってきた風哉は、休みをとらずにすぐに歩き始めた。
「食料が無いんだ。早く街か村でも何でも良いから早く見つけないと」
そう言った後、風哉は日が傾いてきたのを見て、走り始めた。
しかし、そのせいで気付かなかった。ドラゴンが近くに居ることに。日が完全に落ちて、走るのを止めて、座り込んだ風哉は、
少ししてから大きな足音が近づいて来るのに。
「あれは……ドラゴンッ!?」
風哉が電気を飛ばし、少しだけ周囲が、明るくなった事で、ドラゴンの姿を捉える事が出来た。しかし、それは悪手であったと、風哉はすぐに気づいた。ドラゴンがこちらに向かって、火の息を吐いてきた。
「ヤバッ!」
風哉はすぐに横に飛んで伏せる。火の息の威力はそこまで高くなく、風哉はダメージを殆ど受けていない。だが……
「火が……」
そう、草木に火がついてしまったのだ。このまま燃え広がると森が火事になってしまう。
その事は、風哉は分かってはいるのだが燃えていくスピードも早く、風哉には火を消す手段が無い。せいぜい、風魔法で火を少しでも近づけさせない事しか風哉には出来ない。
しかも、魔力が何時まで続くか分からないのだ。まさに絶体絶命という他ない。
「あっ! でも森が全部燃えたら、どんなに広いか見えるかもしれないのか。って、無理があるか。それまで僕が持たないよ」
風哉が今いる場所は、短剣によって地面が抉られているので、草木が無く、燃えないが、いくら勇者である風哉でもこの高温の中で何時間も耐えられないだろう。
更に再び、ドラゴンが火の息を吐こうとしている。
「くそっ、やるしかないか。……魔力操作」
風哉はそう言って、手に意識を集中させる。そして、性質を決めていく。
「性質……“反射”、追尾機能無し、威力重視、ルート決定、
威力……」
(くそっ、まだか……! 焦るな焦るな焦るな、大丈夫だ。
……タイミングさえ間違えなければ、いけるっ!)
風哉は焦りながら、タイミングを図っている。風哉は、周りを火で囲まれているのに、今この時だけはこの緊張の一瞬だけは、
まるで氷の極寒地獄の中に居るのかと思う位、寒く感じていた。
そして、ついにドラゴンが火を吹こうとしていた。
(焦るな、しっかり引きつけるんだ。よく見ろっ! 集中しろっ!
チャンスは短い……でも、出来る、僕ならっ!)
風哉が意識をドラゴンに集中させる。普段はなら気付ける様な周りの変化も、今は気付かないだろう。
……そして、実際気付かなかった。
「へっ、何だ……?」
ドラゴンは火を吐こうとしていた体勢のまま凍っていたのだ。
それどころか、周りの火も消え、風哉の目に見える景色が全て氷になっていた。
風哉の足元も氷になっていたため、風哉は靴も凍り、動くことが出来ない。
「何なんだこれ。誰がやったんだ?」
そう呟いた風哉の左斜め後方から、女の声が風哉の耳に届いた。
「私がやったのよ」
現れた女は、まだ十五歳に達していないだろうといった感じた。そして、彼女の蒼とも水色ともつかない様な髪と瞳の色が、風哉には氷と似合って見えた。そして、後ろには騎士をゾロゾロと連れてきていた。
「君が?」
「ええ、そうよ。……全く、森の中に怪しげな光が見えたとか、雷の音みたいなのが聞こえたとかっていう報告を受けて来てみれば……あなた、此処が立ち入り禁止って知らないの?」
「えっ!? 立ち入り禁止何ですか?」
「白々しい嘘は止めてちょうだい。この森の入り口には、立ち入り禁止の看板もあるし、そもそもこの森には入れないように結界が張ってあるじゃない。ということは、結界を破って中に入ったって事じゃない」
「いや、結界なんて知らないぞっ! 僕はそんなことをしてないからな!」
「ふん、まあ良いわ。街に帰ってから聞きましょう。
……3班、彼を拘束して連れて行きなさい」
「おいっ! なんだその扱いは! まるで氷犯罪者みたいな扱いじゃないかっ!」
「犯罪者みたいな、じゃなくて、此処に立ち入ったって事が重罪なのよ。あなたは立派は犯罪者よ」
「おいっ! ちょっと待てよ!」
こうして、風哉は念願の街に入ることができたのだった。
……犯罪者という形で。