第一話
勇者……それは、古来より伝わる救世主のことだ。あるは、世界を征服しようとする魔王と戦い、あるときはとらわれた姫を助けるために竜と戦い……またある者は、自国の技術の発展に力を入れて、
国の経済、あるいは産業等は世界最低レベルからトップレベルへと躍進した。
他にも、勇者の功績となっている、伝説を挙げればきりが無いだろう。
此処にもまた、一人の世界を救った勇者がいた。
その男の名は、月村風哉。金髪に緋色の目、顔立ちには、まだ幼さが残っているものの、優しさを感じさせ、みた者を不思議と安心させる。本人はあまり男らしくないと気に入ってはおらず、身長が高くないのが悩みである。
しかし、そんな彼は世界を救った後、居なくなってしまう……。
そう、彼は異世界へと訪れていたのだった。
「ふう……ここは、森の中、か」
そう呟いた風哉は、取りあえず、危険が無いかを確認するために、回りを見渡す。勿論何も無く、取りあえず一息つく。
「はぁぁ、こんな所にいきなり転移させられても、場所が分からないよ……目印も無いし、今の場所が分からなかったら地図も意味ないんだよね。もうちょっと人の居るとこにしてほしかったなぁ」
風哉は一旦不満を口に出すと、すぐに切り替えて、取りあえず森から抜けるのに、どの方向に進もうか、考え始める。
「といっても、どの方向に進むのが人の居る場所に近いかなんて、分からないから勘で決めるしか無いんだよなぁ。
……頼むぞ。僕の第六感っ!」
風哉はクルクルと回って、止まった方向に進もうと決め、回り始める。しかし、優柔不断な風哉は、なかなか止まることが出来ない。
「うっ……気持ち悪い。流石に回りすぎたか……仕方が無い、回るのは止めだ。木の枝が倒れた方に進もう」
そういって風哉は良い感じの木の枝を見つけるために歩き出した。
……目的と結果が逆になっていることに、今の風哉は、気づいていなかった。木の枝探しに夢中になっていると、
「ちっ、魔物か……。こんな時に」
勿論、風哉が木の枝探しに夢中になっている時だからこそ、攻撃してきたのだが、風哉相手に、というか普通の人が相手でも、通用しないような不意打ちであった。
何故なら、木の陰に潜んで様子を伺っていたため、飛び出してくるときに葉っぱに当たって、音がしているからだが、不意打ちを躱された犬に近い獣は、逃げ出した。
「くそ……逃げるなよっ! もう少し闘おうとしろよ!」
逃げ出す犬の獣を追いかけずに、風哉は腰から短剣を抜いて、一旦大きく息を吸い、吐き出す。そして短剣を構える。
「喰らえ……“雷神の慈悲”」
雷を纏った短剣は、逃げる犬の獣を一瞬の内に貫いたのだった。
そのまま飛んでいった短剣は雷光を発し、それをみた者は、雷神様のお怒りだと騒ぎ出すのだが、その事を風哉は知らない。
そして、これが風哉の異世界冒険譚の始まりであった。
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