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3.最も大事で地道な作業 

「これは、間に合わないね・・・・・・」

「間に合いませんか」

「今のままじゃな」


 情報部の部室であるパソコン教室の準備室。日程表の書き込まれたホワイトボードを前に、柄武達は頭を抱えていた。

 時刻は放課後。部活の時間だ。部室には部員が全員揃っている。


「あのー、先輩。なんで無理なんスか? 五人で何とかなる作業量に見えるっスけど」

「いやー、それが簡単な話でさ。恥ずかしながらパソコンが足りないのよ」


 朗らかに笑いながら加野が説明した。まったく他人みたいに、と柄武は抗議の声を上げかけたが、エネルギーの無駄だと判断して寸前で留まる。


「加野先輩の言うとおりだ。この部、というか、俺達にはまともなPCが無い」

「ええっ! だって隣に一杯あるじゃないっすか!」


 パソコン教室への扉を指さす水喜。仰る通りだが、間違いだ。


「そっちのは教材用のだからスペックが高くないし、下校時刻までしか使えないんだ」

「じゃあ、家で自分のパソコンでやれば?」

「僕はいいけど、柄武のは僕のお下がりでちょっと厳しいんだよね。加野はどうだい?」

「うーん。私のノートじゃ、絵を描くのが限界って感じかな?」

「……あの、部のPCはないんでしょうか? 部費とかで」


 ずっと静かにしていた初佳がおずおずと質問した。

 彼女の言うとおり、情報部も部として存在している以上、学校から部費が支給されている。

 それに対して京輝が申し訳なさそうに答える。


「うちは実績がないから貧乏部でね。唯一の自作PCは型遅れだし。全員分のPCはあっても、一ヶ月で突貫工事をするには大分効率が落ちてしまうんだ」

「京輝先輩、開発だけじゃなくて練習もするッスよね?」

「うん。僕以外は練習もしなきゃいけないよね? 出来れば、効率の良い環境で、皆で集中して土日も作業し続けたいんだけど、学校は時間制限があるからねぇ」


 どうしたものか、と頭をかく京輝。彼の困った時の癖だ。


「よっしゃ柄武。何とかしろ」

「無理です」


 加野が無理な要求をしたので即答した。


「使えない男だねぇ。つか、京輝とたまにバイトしてたじゃん。あれは何だったの?」

「あれはGAのパーツ代や自分用のPCの強化なんかに消えたよ・・・・・・」

「ああ、もう色々と手を尽くした後だったのね・・・・・・」

「PCとかパーツとか、学生には大金っスからねぇ・・・・・・」


 そんな風に全員が遠い目をしたところで、初佳が不意に立ち上がった。


「あ! あの!」

「どうかしたん? 初佳?」


 加野の問いに、初佳は深呼吸を一つしてから、意を決したように口を開く。


「えっと、その・・・・・・私の家で良ければ、場所と機材を提供できると思います」

「どういうことだ? あ、座って落ち着いて話してくれればいいよ」


 はい、と立ち上がった時と同じく、慌てて椅子に座る初佳。


「私のパ・・・・・・お父さんが趣味でクロスティールをやっているんです。それで、今回の引っ越しで離れを建てて、そこで友達と遊ぶために部屋を作りまして」

「離れに専用部屋って、そりゃ凄いな」


 どうやら父親の呼称に関して何か拘りがあるようだったが、とりあえずスルーしつつ柄武は話を促した。


「はい。若い頃からこういうゲームが出るのを待っていたらしくて、凄く乗り気で。部活のことを話したら、困ったことがあったら相談しろって言ってくれましたので・・・・・・」


 多分、二つ返事でオーケーです、と頬を紅潮させながら、初佳は早口に語りを終えた。


「どう思う、京輝」


 加野に促され、京輝は思案顔で言った。


「本当に部屋と機材を貸してくれるならこれ以上ないくらい助かるね。でも迷惑じゃないかい?」

「だ、大丈夫です。パパ・・・・・・お父さん、ゲーム好きだから」

「私も保証するっス。初佳のパパさんはゲーム好きで、昔からよく遊んでくれたっスよ」


 昔から付き合いのある水喜はそう保障する。


「子供の趣味に理解のあるパパか、素敵だね」


 京輝は笑顔でそう言った。


「良いパパだねぇ」


 加野も続けて同意する。


「う・・・・・・そ、そこは流してくれてもいいじゃないですか……」

「諦めろ、そういう人だ、全員な。・・・・・・せっかく俺が流したのに無駄だったな」


 柄武の慰めに肩を落とす初佳。どうやらかなり気にしているらしい。


「うぅ・・・・・・。癖になってて直らないんですよ」


 顔を真っ赤にして俯きつつも、初佳は父親との交渉を約束してくれた。

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