15.とりあえずのエンディング
大会とゴールデンウィークが終わった。
「なんか、久しぶりにここに来たな」
柄武は墹之上高校情報部の部室にいた。たまたま他より放課後に突入した時間が早かったらしく一人である。
冷蔵庫から瓶コーラを取り出して、自分用になっているパソコンを起動。クロスティールのニュースサイトをチェックする。
そこには全国大会予選の結果が掲載されていた。
柄武達の参加した静岡東地区大会の結果もしっかり掲載されており、優勝は墹之上高校情報部とはっきり記されている。
あの勝利は夢や幻でなかった証拠である。
「未だに信じられんなぁ・・・・・・」
決勝戦の後、表彰式に出たし、夏にある全国大会本戦についての軽い説明なども受けたのだが、こうして部室にいるとまるで現実感が無かった。
大会の後、ゴールデンウィークの残りは忙しく過ぎていった。鈴華に招かれて全員で一日中バーベキューをしたり、わざわざこちらまで来てくれた弦切が焼き肉を奢ってくれたり、とにかく食べて騒いで連休は幕を閉じた。
おかげで今、柄武の胃腸は大変なことになっている上に、思ったより休めなかったおかげでこれまでの疲労が蓄積しまくっているのだが、悪い気分ではなかった。
とにかく終わった。一年かけてやって来たことの結果が出た。それも、最良といって良い結果だ。
「そういや俺、何すりゃあいいんだ?」
コーラを飲みながら、そんな間の抜けたことを口にする。
考えてみればこの一年はずっとクロスティールに注力していた。学業の空いた時間は全てこのゲームに割り当てていたと言っても良い。
今や目標は消失した。一応、全国大会というイベントは控えているが、柄武にとっては正直それほど重要なものに思えなかった。そもそも勝利に餓えているタイプの人間ではないためかもしれない。
「おや、柄武。早いじゃないか」
とめどない思考に身を任せていると、京輝がやって来た。彼はいつも通りの笑みを浮かべながら、冷蔵庫からコーラを取り出した。
「いやあ、こうして部室に来るのも久しぶりだねぇ」
「ずっと名賀乃の家でしたからね」
「そうだねぇ。しかし、いざ部室に来ても。することが思いつかないね」
自分用のパソコンを起動しながら京輝は言った。どうやら柄武と似たような状況らしい。
「全くです。普段俺達、何してましたっけ?」
「うーん。ああ、そうだ。思い出して来た。大体、僕達がこうしてのんびりしていると、誰かが来るんだ」
「ああ、俺も思い出して来ましたよ」
昨年までは、こうしてのんびりしていると鈴華か加野がやって来て、何かしらのアクションを起こしたものだ。
もう鈴華はいない。卒業してしまった。元の関係に戻ったとはいえ、その点だけはどうしようもない。
「時間的に、そろそろ皆が揃うね」
「そうですね」
賑やかで無闇に人を引っ張る先輩はいなくなってしまったけれど、今の情報部の面々も十分賑やかだ。きっと、彼女達がやってくれば「することが思いつかない」なんて言っていられない状況になるだろう。
そんなことを考えていると部室の外がふいに賑やかになった。
「でも水喜ちゃん。しばらくのんびりしてもいいんじゃない?」
「せっかく運営からご褒美に試作パーツ貰ったんだから、試すくらい良いと思うっス」
「ま、京輝に手伝って貰って、やればいいいんじゃない?」
聞こえてくる会話で、今日の活動内容は決まったようなものだ。
「どうやら、やることは決まっているみたいだね」
「暇を持て余すよりはいいかもしれませんね」
ドアが開き、三人の女子が部室に入って来る。
割と充実した放課後が、今日も始まる予感がした。




