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14.クライマックス・フェイズ(2)

「っ! また外れた!」

「初佳、避けるっス!」


 水喜の声が聞こえるなり、初佳は慌ててスティックを操作して機体を回避軌道に乗せる。

 恐ろしいことに、敵は水喜の相手をしながら初佳の攻撃を避け、更に攻撃まで仕掛けてきた。今のも水喜の指摘がなければ命中していただろう。


「想像以上に強い……」


 ブレイブゲイルのリーダー機は化け物じみた強さだった。墹之上高校最強コンビと初めて相対したにも関わらず、その攻撃に即応してみせている。


「でも負けてるわけじゃないっスよ!」


 確かに水喜の言うとおりだ。今のところ、初佳と水喜のコンビはリーダー機と互角に戦えている。二対一は卑怯に見えるかも知れないが、互角に戦う姿すら今大会では初めてのことだから全然ありだ。


「このまま、制限時間が来れば私達の勝ち……」

「それを許す相手じゃないっス!」


 そのとおりだった。リーダー機は水喜の攻撃をこともなげに切り抜け、そのまま初佳に一気に接近を図って来た。


「く、来ないでください!」


 全力で後退しながら牽制射撃をして、水喜が再び割って入る時間を稼ぐ。面白いくらい攻撃が当たらない、そもそも水喜の攻撃をこともなげに切り抜けて初佳に接近してくること事態が驚異といえる。


「初佳! 制限時間は無理っス!」

「そうだね、これは……」


 これは認識を改めるしかなかった。初佳と水喜の二人をたった一機で翻弄している。ブレイブゲイルのリーダー機は別次元の実力を持っている。

 恐らく、このまま普通にやり合っていたら自分達が負けるだろう。残念ながら互角にすら至っていないのがこの短時間でわかってしまった。


「水喜ちゃん! どうにか動きを止めて!」

「……了解っス!」


 返事の直後、水喜の機体が大きく動いた。その機動の目指す先にあるのは、ブレイブゲイルのリーダー機だ。

 先ほどの短いやりとりで、初佳と水喜は戦闘の方針転換をした。

 これまでの戦闘方針は、なるべく被害を少なくするように回避重視。時間をかけて相手を撃破するやり方だ。二対一なのでそれが普通の判断なのだが、今回は相手が悪い。

 守りの姿勢では逆にやられてしまう。

 故に、たった今、戦闘方針を攻めの姿勢に切り替えた。これから二人は自機の被害も顧みずに、ただ敵機を落とすことだけに集中する後先考えない戦い方を行うことになる。


「あれを落とせば後は……」

「柄武先輩が終わらせてくれるっスね!」


 小刻みなジグザグ飛行を繰り返し、接近しながら攻撃をかける水喜。それを相変わらず余裕の回避機動で躱すブレイブゲイル。合間に入る初佳の狙撃も躱すかシールドで防がれる。

 やがて水喜機と敵機の距離が縮まり、接近戦に近づいていく。水喜も相手も持っている武装はライフルのみ。接近しすぎると、得意の変速機動を生かしにくいのもあり水喜が不利だ。だから、これまではある程度撃ち合ったら距離をとっていたのだが、


「水喜ちゃん! 頑張って!」

「おうともっス!」


 被弾覚悟で水喜は前に出た。


 ☆


「このおおお!」


 二人がかりでも相手の方が強い。それは水喜もよく理解していた。

 中距離で撃ち合っていればそれなりに戦えていたが、距離を詰められれば回避しきれなくなり、先に致命打を受けるのは自分であろうことも想像がついていた。

 それでも、今は後ろに初佳がいる。中学からずっと一緒の友人だ。

 自分がブレイブゲイルと全力やり合って生まれた隙に、確実に一撃を叩き込んでくれる頼れる相棒。

 そう確信できるから、水喜は迷いなくレバーを押し込み、ペダルを踏むことが出来る。


「とことんやりあってやるっスよ!」


 バックパックに搭載しているミサイルを全弾発射。距離が近すぎると命中しにくくなる武装だが、そもそもこの相手には命中することを想定していないので、一定距離で自爆するように設定してある。

 発射したミサイルは計八発、リーダー機を包み込むような軌跡で迫り、予定の距離に達すると同時に自爆した。しかし、相変わらずのふわふわした綿毛のような動きでリーダー機は回避。


「一体何が起きてるっていうんスか!」


 何となく予想していたものの、そう叫ばずにいられなかなった。今のミサイル攻撃の合間にも水喜と初佳の射撃は続いている。一撃くらいダメージを貰っても良いはずなのに、ことごとく回避されるか、盾で防御されている。

 まるで予知能力でもあるかのようだと、水喜は戦慄を覚えた。こちらの動きを先読みでもしていなければ不可能な動きだ。


「水喜ちゃん、危ない!」

「くっ!」


 初佳の指摘に慌ててレバーを動かすが間に合わない。一瞬、筐体内の映像がダメージ演出で乱れた。ステータスを確認、左腕に直撃だ。


「それでも、距離を……っ」


 損害に構わず、水喜は敵機に向けて機体を動かした。幸い機動性に影響のある損傷ではない。水喜機の左腕には小型のライフルとサーベルがマウントされていたが、重要度は低い。本命は右腕のライフルと、両足のミサイルだ。

 本命を叩き込むためには、距離をさらに詰める必要がある。

 もちろん、それが危険な賭であることは承知の上だ。

 スラスターを全開にし、得意の直角に線を描く高速機動を開始。初佳の援護射撃を利用して、相手に逃げ場を与えないように努める。

 こちらの攻撃は当たらないが、元々距離が大分近かったのもあり、すぐに接近戦の距離へと到達した。


「この距離なら全部回避させないっスよ!」


 これなら逃げの手を打っても無事では済まない。自慢の回避と盾をどれだけ駆使しても、初佳と二人がかりならそれなりに損傷を与えることが出来る。

 そう思い、トリガーを引いた瞬間だった。

 リーダー機にこれまでに無い動きが生まれた。

 背中から生えている四つの突起パーツの先端が展開。アンテナのような形状へと変化した。更に、巨大な盾の表面装甲の一部も展開し、何らかの放出器のようなものが露出。

 一瞬で行われたこの変化の直後、ブレイブゲイルのリーダー機が光に包まれた。


「バリア発生器……っ!」


 その正体を一瞬で看破すると同時に、水喜は相手の狙いを察した。

 こいつは、強力なバリアを張ったまま体当たりする気だ。


「くっ……!」


 リーダー機は高出力の機体を素体として作成されている。これまで意識する場面はなかったが、速度の面でも水喜機を下回るわけではない。

 それがわかっていて、無駄だとわかっていても、水喜は距離を離すべくレバーを操作した。

 水喜の機体が高速で離脱にかかるのに対し、リーダー機はそれを追いかける形で加速。短い時間、二機は高速で螺旋機動を描き、

「駄目っス、捉えられた!」

 その叫びと同時、バリアを展開したリーダー機が水喜の機体に高速で激突した。


 ☆


「水喜ちゃん!」


 初佳の視界、メインモニタは状況を正確に表示していた。

 起きたのは単純な出来事だ。

バリアを張ったリーダー機が、その機動力を生かしたまま水喜機に激突した。それだけだが、結果として状況は大きく動いた。

二人がかりの甲斐もあって明確なダメージを受けていなかった水喜機がかなりの損傷。それは機体の機能低下を意味し、このギリギリのせめぎ合いにおいては、致命的だ。


何とか引き離さないと!


少しの時間を置けば機動性はある程度回復する。何でもいいから時間を稼がなければならない。

焦る心とは別に、体の方はいつも通り動いてくれた。

右手親指がレバー上のアナログスティックを操作。牽制含みの相手の未来位置への攻撃が行われる。

しかし、リーダー機はその全てを見越したかのように、回避と盾の防御でやり過ごした。水喜は離脱を始めているが、十分な距離には至っていない。


「離れてください!」


 距離を詰めながら更に射撃をかける初佳に対して、リーダー機はわかりやすい行動で意志を示した。


 再びバリアをまとったのである。


「連続使用!? 水喜ちゃん逃げて!」


 初佳が悲鳴じみた声を上げるより早く、水喜の機体は動いていた。使えるスラスターを全て使ってバリア攻撃からの離脱を試みる。


「このぉっ!」


 初佳はライフルで精彩を欠く動きの水喜を援護。ゲームの仕様上、バリアは防御判定のたびにエネルギー消費が発生する。いくら相手が高出力機のカスタムとはいえ、連続使用の上、高威力のライフル弾を受ければ継続使用は不可能なはず。

 リーダー機は水喜機と何度か衝突しかけるも、初佳の射撃に阻まれた。水喜への攻撃に集中しているからか、何発かはバリアに命中。

 幸いなことに、水喜がこれ以上ダメージを重ねる前に、リーダー機はバリアを解除して一時離脱した。


「水喜ちゃん! 大丈夫!」


 返事はすぐに来た。


「初佳! まともにやり合って勝てる相手じゃないっス!」


 筐体内に響く悲鳴のような水喜の声。


「どういう意味……っ!」


 疑問に答えるように、水喜機が動いた。

 スラスターを吹かし、リーダー機に接近しながら、両脚を畳み込む。

間違い無い、水喜は切り札の変形大型ミサイルを至近距離から発射するつもりだ。

慌ててライフルの弾倉を新しいものに交換し、初佳はリーダー機を逃さないよう、狙撃を行う。


「っ! お願い! 当たって!」


 なんとしても、水喜の捨て身の攻撃を成功させる必要がある。

 大型ミサイルを発射すれば水喜の機体は両脚を失い、機動性が更に減少する。もしリーダー機が攻撃をかいくぐったら、水喜の撃墜は確実だろう。

 二対一だからこそ何とか張り合えているこの現状で水喜が撃墜された場合、初佳が一人で持ち堪えられる可能性はゼロに近い。

 初佳に出来ることは狙撃でリーダー機を出来る限り引き離さないようにすることだった。

 幸いなことに、それは成功した。

 相手も決着を急いでいるのか、水喜機の挙動を見ても距離を取らず、むしろ回避機動を取りながら近づいてくれた。


「水喜ちゃん、今!」


 初佳の声が水喜に聞こえたのかはわからない。が、まさしくそのタイミングで、水喜機が脚部大型ミサイルを発射した。

 上半身のスラスターを吹かして水喜が離脱してすぐだった。

発射された大型ミサイルはすぐ近くまで来ていたリーダー機の手前と真後ろで、それぞれ大爆発を起こした。


「…………」


 初佳は画面内に出現した二つの巨大な火球を無言で見つめる。一瞬、「やった!」と喝采をあげそうになったが、その台詞自体がアニメ等でよくある悪いフラグであるのに思い至り、我慢した。

 水喜の方も似たような心境なのか、通信が入って来ない。

 初佳は無言のまま、コントロールスティックを操作して、爆発直前までリーダー機がいた場所にライフルの狙いを定める。クロスティールに一撃撃破は無い。残念ながら直撃していても、撃墜はされない。

 だから、爆発が終わり、ダメージを受けて損傷しているところを徹底的に狙う。


「性能が低下していれば……」

「やれるっス!」


 通信に反応があった。きっと、水喜の方も同じように武器を用意しているに違いない。

 爆発の演出が消えるまでの数秒間。短いが、緊張感のある時間の中、それは起きた。

 火球の中から、光の球が飛び出してきた。


「……っ! 水喜ちゃん!」


 それがリーダー機のバリアだと気づくのに、わずかに時間がかかった。

悪いことに、リーダー機はすぐ近くにいる水喜機に突っ込んでいく。

更に悪いことに、水喜の方も初佳と同じく、反応が遅れていた。

隙というに十分な時間が生まれた。

 初佳の筐体内のモニタに火花を散らして吹き飛ぶ水喜機が表示された。

 速度はさほどではないが、下半身を失った水喜の機体にとっては十分すぎるダメージだ。

 吹き飛んだ水喜機は全身に火花を散らす。スラスターの噴射光も弱々しく、動きも機敏とはとても言えない。その姿は最早、狩られるだけの獲物だ。

 絶望的なその状況で初佳は見た。

水喜機が残った右手のライフルを発射し、果敢に抵抗する姿を。


「このおお!」


 反射的にペダルを踏み込んで最大加速。最短距離で水喜とリーダー機のいる場所に自機を加速させる。

 急速に縮まる距離を意識しながら、初佳はトリガーを連続で引く。

 これまでにない近距離での射撃を受けたリーダー機は慌てて回避し、水喜機から距離を取る。


「距離を……!」


 更に連射。相変わらずの木の葉が舞うような回避で躱されるライフル。それでいい。水喜機が生存する時間が少しでも延びれば。

 そう考えた矢先のことだった。


「……っ!」


 回避機動をしながらリーダー機は水喜機にライフルを発射。性能低下で満足に機動できない水喜の機体に直撃。


 水喜機は撃墜された。


 造作も無い、そんな言葉がぴったりの、あっさりとした最期だった。


「これでは……っ!」


 一対一では勝ち目がない。初佳は素早く判断しながら、次の行動に出た。自分でも驚くほど素直に気持ちが切り替わった。最期の瞬間まで勝利を諦めなかった水喜を目の前にしていたからだろうか。

 初佳は自機を前進させると同時に、タッチパネルを操作。自機がこれまでに無い挙動を行う。

 初佳機が、唯一最大の武器である、ライフルを投げ捨てた。

 スラスターを吹かしてリーダー機に迫る初佳機は、腰から予備兵装の小型マシンガンを取り出す。


「いきます!」


 射撃を専門とする機体にあるまじき近距離まで接近し、マシンガンを連射。狙いは正確だが、リーダー機はそれを難なく回避する。更に、その機動力を生かして初佳機と適切な距離を取りつつ、ライフルで反撃してくる。

 その攻撃を何とか初佳は回避する。射撃用に構成および操作設定を組んでいる初佳機は、回避性能が水喜機に比べて数段落ちる。機動戦闘におけるプレイヤーの能力差もかなりのものだ。

 それでも、初佳は不利な近距離戦を選択する。まるでやけくそ気味に特攻するかのように。


「これで……!」


 弾切れになったマシンガンを捨てて、最後の武器であるコンバットナイフを構え、さらに加速。

当然ながら、悠長に近接戦闘をしてくれる相手ではない。

突撃してくる初佳機を軽く回避して、側面に回り込むリーダー機。


「くっ……!」


 対応しきれない。そこに容赦無くライフルが発射される。

 爆発のエフェクトが画面内で発生した。


同時に、発会場のどよめきが筐体の中まで響いて来る。


「やった……!」


 初佳は、自機の損害にも構わず喝采をあげていた。理由は簡単だ。

 球形モニターの中、被弾して退避しているブレイブゲイルのリーダー機が写っている。

 たった今、発生した爆発は二つ。

 一つは初佳機が被弾したエフェクト。

 もう一つはリーダー機の被弾によるものだ。


 ☆


「当たったか!」


 観戦している京輝はその瞬間をはっきり見届けていた。

 戦況を写す大型スクリーンとは別に、各所に設けられたモニターで、何が起きたか確認するため直前の映像を巻き戻している様子が映し出されている。あの時、画面は初佳とブレイブゲイルのリーダー機にかなり寄っていたので、会場の全員には突然リーダー機がダメージを受けたように見えたはずだ。

 そんな中でただ一人、京輝は何が起きたか把握していた。

 わかっていれば、それほど難しいことでも面白いことでもない。

 初佳機は、両手で取り回すライフルに全てを賭けた構成になっている。サブマシンガンもコンバットナイフも予備の武装としてつけてはいるが、容量に余裕があったからに過ぎない。あの二つを使う時は追い詰められた時だ。


 状況的に追い詰められていたのは言うまでもないが、初佳は実に上手く立ち回った。

 事情を知らなければ、万策尽きての一か八かの特攻にしか見えなかっただろう。

 ライフルを捨ててマシンガンに持ち替えた瞬間から、初佳の賭けは始まっていたのだ。


 初佳機のライフルには機体そのものよりも手間をかけて、様々な機能を盛り込んである。 

 例えば、ライフルにスラスターと遠隔操作機能を搭載し、放棄した後でも利用できるようにするなどだ。

 初佳機のライフルは、搭載したスラスターで姿勢制御をして、搭載したカメラの映像を筐体内のサブモニターに表示し、簡単な機動を行いつつ射撃を行えるようにしてあった。

 当然、この機能の使用中は操作が複雑になる。実際、初佳はサブモニターを見ながら右のアナログスティックでライフルの照準を調整しつつ、リーダー機に突撃していた。操作の精度が落ちるので、策が成功する前に撃墜される可能性も高い。


 しかし、初佳は賭けに勝った。リーダー機の背中を、空中で姿勢制御するライフルの照準内に捉えることに成功した。被弾してもお釣りがくるレベルの戦果だ。

 特別製のライフルの威力は高い。それが、スラスター、ジェネレーター、バリア発生器と重要機能が集中する背面に命中したのは大きい。戦果としては最高に近い。

 ブレイブゲイルのリーダー機を仕留めることが出来る可能性がたった今生まれた。

 長い時間ではないが、あの機体の高機動と防御力を大きく削ることに成功した、その上ダメージの蓄積もある。水喜と初佳が必死に作ったこの機会を逃せば、勝機は無い。


「柄武がどこまでやれるかだけど……」


 そう呟きながら京輝はスマートフォンを取り出した。

つい先程、懐かしい相手からメール着信があった。内容はひどく短いもので、


『今のなに!? 何をしたか教えて!』


 とあった。簡潔だが、京輝にはそれで十分相手の意向が伝わった。

 あの面倒な先輩はこの会場に居る。


「というか、大分前から観戦してたね、これは……」


 どうせ照れくさくて自分に連絡できなかったのだろう。相変わらず自分勝手な先輩だ。

 呆れつつも笑みを浮かべながら、京輝は手早くスマホの画面を操作し始める。

 上級生として、未だ諦めずに対戦している後輩のために出来るだけをしなければ。


 ☆


二対一という状況を柄武は何とかした。

それなりに苦戦はしたものの、隠れる場所が多い地形を利用して懸命に相手を翻弄し、攻撃を着実に重ねた。加野の頑張りで相手の蓄積ダメージが大きかった相手を手早く撃破。一対一になればしめたもので、優位が崩れて動きに焦りが見える敵機を手早く追い詰めた。

観客の殆どが水喜達とリーダー機の戦いに注目する中、柄武は地味に仕事をしていたのである。

そして今、首尾良く敵機の後ろをついて、ライフルの直撃弾を浴びせることに成功。敵機は爆炎をあげながら墜落していった。


「よし終わった。おい、名賀乃!」


 最後の一機を叩き落としたことを確認し、若干焦りながら初佳に呼びかける柄武。戦いながらもなんとか戦況はチェックしているが、確認せずにはいられない。

 返ってきたのは謝罪の言葉だった。


「すいません、もうそろそろ無理です!」


 画面内、離れた場所で戦う初佳機とリーダー機のスラスター光が見える。つい先程会場内が一斉に沸いた。初佳からの通信で直撃弾を放つことに成功したのは把握したが、彼女が絶体絶命な状況であることに変わりはない。


「今助けに行く!」

「正直、これでは無理です……」


 スラスター全開で該当空域に向かう。到着まで一分かからない距離だが、その前に初佳に限界が来た。


「ああもう、どうせなら自爆装置もつけておくんでした……」

「名賀乃!」

「頑張ったので! 後、お願いします!」


 その通信の直後、空中で不格好なダンスを踊るように機動していた初佳機に敵機のライフルが直撃した。

 ダメージの蓄積の激しい初佳機は耐えきれず、爆発する。


「…………」


 これで、一人になった。


「去年と同じか……」


 こちらを補足し、急加速して向かって来るリーダー機を見据えて、柄武は呟く。


「さぁて。勝てるかなぁ」


 昨年と違う、不敵な表情で柄武は敵を迎え撃つ。

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