7.見えてくる終盤
「それでさ、昨日、オンラインで何度か同じところと当たったんだけど」
「んー」
加野の言葉に京輝は無反応だ。
「あれって完全ランダムじゃないんだね。マッチング」
「んー」
やはり、加野の言葉に京輝は無反応だ。
「設定すれば同じ所と対戦できるって店長さんは言ってたっス」
「何でしょうね? 私達、そんなに変わった機体で対戦に出ていなかったですし。それほど勝ちにいく戦いもしてませんでしたし」
「知り合いと当たってたとか?」
「だったら動きでわかりますよ。ゲームセンターは県内でしたけど地区が違うし、チーム名は見覚えがありませんでしたし……」
「そうっスねぇ……」
「んー……。……柄武、タブレット貸してくれる?」
周囲の会話に無反応なまま、京輝は柄武に言った。
「はい。データはこれで?」
「ああ、助かるよ……」
そのやり取りを見て、水喜が怒った。
「って、二人とも話しに参加したらどうっスか!」
「……いや、俺は話を聞いてるよ? 京輝先輩はわからないけど」
「うん。早く帰って動かしたいねぇ……」
「これは、駄目ですね……」
「あっはっは。京輝は作業に集中すると、こうなるんだよ。諦めな」
あっけらかんと笑いながら、加野は紅茶のペットボトルを一気に飲み干した。
昨日、弦切からデータを貰って以来、京輝はずっとそちらに夢中なのだ。
部室に来るなり持ち込んだノートPCにかじりついて、離れない。
「で、実際の所、どうよ?」
加野が聞いた相手は柄武だ。京輝がまともに反応しないことは良くわかっているらしい。
「昨日、帰った後に少し触ってみましたけれど、想像以上にいい感じです。思った通り、加野先輩向きだと思いますよ」
「じゃあ、後は京輝の調整次第かな?」
「ん。今やってる。放課後までには一応形になるよ」
「部長、話聞いてたんですね」
「凄いっス」
一年生二人に返事を返さず、京輝は再び作業に没頭してしまった。
「ところで、このパーツって何なんスか? 結局、加野先輩からは聞きそびれてしまいまして」
「ああ、陸戦用のパーツだよ。珍しいものじゃない。ただ、性能がケタ違いにいい」
「へぇ、見てみたいです」
その言葉に、再び京輝が反応した。一応話は聞いているらしい。
「後で見て貰うよ。使えそうだったら、皆のにも組み込もう」
「ほんとっスか!?」
「使えそうだったら、だけどね」
その時だった、黙って作業に没頭していた京輝が、急に立ち上がった。
「来た! 来たよ!」
「ちょ、京輝、どうしたの? いきなり叫んで?」
「まさかもう調整が終わったんですか? もしかして徹夜? ちゃんと寝てます?」
「二人とも何を言っているんだ? 今日は大会の組み合わせ発表日だよ」
京輝のノートPCを全員でのぞき込む。
墹之上高校情報部の名前で登録されたチームはすぐに見つかった。トーナメント表の端の方に位置していた。
そして、情報部が目標としている『ブレイブゲイル』はトーナメント表の向こう側にいた。
決勝まで当たらない構成だ。
「決勝まで行かなきゃ駄目か」
「そうみたいだね」
「あんまり後に当たるとこっちの戦い方を研究されちゃうね」
厄介なことになったと、嘆息する柄武達。
「それで、一回戦の相手は?」
改めてトーナメント表に目を走らせる。
一回戦の対戦相手は「おかし工房」とかいうチームだ。
「このおかし工房というチーム。柄武は知ってるかい?」
「いや、俺はそこらへん詳しくないんで。加野先輩、知ってますか?」
「……知ってる。けど、もっと適任がいるよ」
そう言った加野の視線の先には、一年生二人がいた。
そういえば二人とも先ほどからやけに静かだ。それどころか何故か表情が暗い。
「それは、私達のことっスよね、加野先輩?」
「まあね」
「どうかしたのか、二人とも」
柄武は訝しげな顔で問いかける。二人のこんな様子は初めて見た。
初佳が少し声を震わせながら説明を始めた。
「……おかし工房は、県内のある私立中学校の情報部がエントリーする時のチーム名です。昨年の五月の大会では、ブレイブゲイルと準決勝で対戦しています」
「準決勝で? それって……」
柄武は思い出す。初佳と初めてあった次の日、下校の時、彼女は何を話していたか。
「昨年、うちらがいたチームっスよ」
そう言った水喜と初佳は、柄武には計りきれない、なんとも複雑な表情をしていた。




