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シュールナンセンス掌編集

隣にいるのが彼女なら

作者: 藍上央理
掲載日:2014/08/10

「隣にいるのが彼女なら」



 隣で、月を輪っかにして棒で押して遊んでいる奴がいた。

「いいご身分だね」

 私は憂鬱な気分でそう言った。

 「いいご身分だねと言うより、そういう機会をもてたことは幸運だね、と言いたまえ」

 と言葉を訂正されてしまった。

 彼が言うには、太陽を輪っかにして遊ぶ連中もいて、そいつらはいつも棒を焦がして、半死半生で遊んでいる。

冷たいレモンソーダのような月は、実に喉ごしがいい。

気付けば、私は月の飲み屋のカウンターであざらしを相手に話し込んでいた。

 くるくると回る天球儀を見つめながら、アルコールゼロのレモンソーダを飲む。

 私はアルコールを飲むと前後不覚に陥るので、寝酒でしか飲まない。

 それにあまりアルコールは好きではない。

 隣に座った奴がジンを五杯あおって、六杯目のジントニックまで頼んだ。

「今に景気がよくなって、水性でも何でも売れる時代がくるんだ」

 彼の鼻にはボタンの花が咲いていて美しかった。

 せんていばさみをもった彼女がやって来て、男の鼻のボタンをちょん切った。

 彼女が朝を引き連れ、まだベッドの中にいる私の前にブレイクランチをのせた。

「よく眠れた?」

 ボタンを髪にさした彼女が、ハスキーボイスでたずねる。

 くるくると天球儀が巡り、あざらしが二杯目のレモンソーダを追加した。

「ボタンではなく、俺に似合うのは赤い月下美人か、アマリリスだ」

 男が不意に叫んだ。

 とっくの昔にぐでんぐでんに酔っ払い、肝臓を悪くしているのか、彼の鼻に咲く花はみんな真っ赤だ。

 花のあいだから彼女の手がにょっきりと飛び出し、ブランチのコーヒーをすすめてくる。

 私はていねいに断る。彼女が隣にいれば話は別だが、今は朝ではない。

 朝はまだ来ない。

 彼女が夜のあいだに追いついて、ここにいれば、文句などないのだけれど。

 それなのに、彼女は私に黙って、六時間という時間を定期預金してしまったのだ。

 毎月ごとに彼女とはますます離れて行く。

 君には一生あえないかもしれない。

 私はそっと黙ってささやく。

 私は月の夜を愛している……


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