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シュールナンセンス掌編集

隣にいるのが彼女なら

作者: 藍上央理

「隣にいるのが彼女なら」



 隣で、月を輪っかにして棒で押して遊んでいる奴がいた。

「いいご身分だね」

 私は憂鬱な気分でそう言った。

 「いいご身分だねと言うより、そういう機会をもてたことは幸運だね、と言いたまえ」

 と言葉を訂正されてしまった。

 彼が言うには、太陽を輪っかにして遊ぶ連中もいて、そいつらはいつも棒を焦がして、半死半生で遊んでいる。

冷たいレモンソーダのような月は、実に喉ごしがいい。

気付けば、私は月の飲み屋のカウンターであざらしを相手に話し込んでいた。

 くるくると回る天球儀を見つめながら、アルコールゼロのレモンソーダを飲む。

 私はアルコールを飲むと前後不覚に陥るので、寝酒でしか飲まない。

 それにあまりアルコールは好きではない。

 隣に座った奴がジンを五杯あおって、六杯目のジントニックまで頼んだ。

「今に景気がよくなって、水性でも何でも売れる時代がくるんだ」

 彼の鼻にはボタンの花が咲いていて美しかった。

 せんていばさみをもった彼女がやって来て、男の鼻のボタンをちょん切った。

 彼女が朝を引き連れ、まだベッドの中にいる私の前にブレイクランチをのせた。

「よく眠れた?」

 ボタンを髪にさした彼女が、ハスキーボイスでたずねる。

 くるくると天球儀が巡り、あざらしが二杯目のレモンソーダを追加した。

「ボタンではなく、俺に似合うのは赤い月下美人か、アマリリスだ」

 男が不意に叫んだ。

 とっくの昔にぐでんぐでんに酔っ払い、肝臓を悪くしているのか、彼の鼻に咲く花はみんな真っ赤だ。

 花のあいだから彼女の手がにょっきりと飛び出し、ブランチのコーヒーをすすめてくる。

 私はていねいに断る。彼女が隣にいれば話は別だが、今は朝ではない。

 朝はまだ来ない。

 彼女が夜のあいだに追いついて、ここにいれば、文句などないのだけれど。

 それなのに、彼女は私に黙って、六時間という時間を定期預金してしまったのだ。

 毎月ごとに彼女とはますます離れて行く。

 君には一生あえないかもしれない。

 私はそっと黙ってささやく。

 私は月の夜を愛している……


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