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空瓶  作者: 菜河
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見上げたアルトの向こう側でソルテがこっちを見ていた。


「アルト」

ソルテの顔が険しくなるのを私は見逃さなかった。

「カオリ、この街は国の者が多い。次の街まで待ってくれ」

「何それ、意味わかんない」

ソルテから目を放さずに答える。ますます険しくなる顔をじっと睨んだ。

「今使えば、確実にこの場所が国に見つかってしまう」

アルトは無言でこちらを見下ろして、

「そうなの?」

私の問いにゆっくり頷いた



手招きされて、バルコニーからそっと顔を出す。ちらほらと人の行き来があった。

「右肩に、布を掛けている人が歩いているだろう?」

暗いから顔まではよくわからないけど、確かに帯状の布を右肩から垂らしている人が時折通る。

幅20センチほどの布で、長さはおそらく1メートルくらい。どうやら肩のところでピンか何かで止められて、ずり落ちないようになっているらしい。

それに皆それぞれ色が違う。今通りすぎた彼は鮮やかなピンク、彼女はライトグリーン。

問うようにソルテを見上げる。

「あれが国の人間だ。と言うか、政府の高官だな。役職や所属している課によって布の色が違う」

「特に空色の奴等には気を付けろ。瓶を探しているのは奴等だ」

アルトが囁き、一人の男性を指差した。

彼は私たちのいる宿屋を通りすぎ、3軒隣の店に入っていった。

姿勢よくキビキビと歩き、隙がない印象を受ける。


「そんなにこの瓶は貴重なの?」

「ああ、人の手では作れないものだからな。次の街で見せられる。説明も、出来るだろう」



やっぱりなんだか納得いかないんだけど。



相変わらず険しい顔をしているソルテを睨む。彼は私が睨んでいることに気付いてか、またもや頭を撫でてきた。

「申し訳ない。いつどこで誰が聞いているかわからない。だから簡単に口には出来ないんだ」


私だって危なそうな人たちに捕まって、殺されるなんて遠慮したい。とにかく早く帰りたい、それだけ。でも私の者だというからには知る必要も権利もあるはずだ。



カップに残っていたポタージュを飲みきる。アルトがもっといるかと手を差し出してきたけど、私は首を振り、

「疲れたからもう寝る」

そう言って、隣の部屋に引っ込んだ。






目が覚めたのは明け方だった。

気温が少し下がったのか、ひんやりする。体にシーツを巻き付けて暖をとり、部屋にひとつだけある窓にそっと近寄る。空はやっと白み始めたところだ。朝早いのに通りにはもう疎らに人が行き交っていた。


朝早くから大変だなあ。


寝起きのボーっとした頭でそんなことを考えていた。

寝る前に下ろして、枕元に置いてあった瓶を拾い上げる。部屋はまだ薄暗い。取り出した瓶の光が顔を照らす。


「おまえは一体何なの?」


問いながら揺すると中の液体がキラキラと光る。

キレイ。

ひっくり返してまた戻す。


トロトロ

キラキラ


何となく、

何となくだけど、


蓋を開けてみたい。この液体に触れてみたい。

コルクのような蓋はしっかり填まっていて、固かった。開けさせまいとしているようで、俄然開けてやる、という気にさせる。


10分以上かかって降参したのは、コルク。


開いた!


やっと緩んだコルクをゆっくり抜き取った。

瞬間、

光が溢れた。






開けた瞬間、口から光が飛び出した。

音を発しているのかキンキンと耳なりのような音も聞こえる。


まぶしい。


普通ではあり得ない光の強さに呆けたまま体が動かない。

すごい。

なんてのんびり考えていたら、バーン!と扉を蹴破って、二人が部屋になだれ込んできた。強烈な光を発している瓶を持つ私を見るなり、

「蓋をしろ!」

ソルテが怒鳴りながらカーテンをきつく閉めに走った。

駆け寄ったアルトは私の手から瓶とコルクを文字通り奪って、蓋を閉めようとした。

でもどうしてもはまらないのか、四苦八苦している。


ふふふ


なんだか面白くなってきて、笑いだした私を二人はキッと睨んだ。

それでもおかしくて笑いが止まらない。

二人は未だにアワアワとしている。クスクス笑いながらアルトの手から瓶とコルクを取り返して、


「次の街でね」


しっかりと閉めた。


途端、強い光は止んだ。

ホッと息をつき、それまでと変わらすにぼんやりと光る夕焼け色の瓶を眺める。


「おまえはバカか」


見上げるとソルテが私を見下ろしていた。吐き捨てるような言い方にムッとする。

「出たがってたの」

何でそんなことを口にしたのか、わからない。自分から言ったのに、そんな自分に驚いた。


何も聞かされていない私がそんなことを口にしたからか、二人は目を見開いた。

「話したのか?」

「俺は話してねえよ」

「何も聞いてないよ。そんな気がしただけ。でもそうでしょ?」


「自分に聞け。何で開けた?」

「開けたくなったから」

思った通りのことを言ったら、二人は呆れた顔をした。

「やっぱりおまえはバカだ」

「話してくれないからじゃん」

「もう一度睨んだ私にソルテは肩を竦めた。

「また知らん顔しようとしてる」

「さあな」



「ソルテ」

私たちを遮ったのは、カーテンの隙間から外を覗いていたアルト。ハッとして顔を上げたソルテもカーテンの外を覗いた。

「何か起きてるの?」

「出るぞ、おまえがバカなせいで見つかった」

「え」

無言で手招きしているアルトの横から、カーテンの外を覗く。指差された方を見ると、昨日見た空色の帯を肩に掛けた人が道の向こう側からこっちを見ていた。


蓋を開ける前はいなかったのに、たったあれだけで気づかれたの?

確かに光は強かったけど。


「カオリ、行こう。奴等は瓶を奪うまで地の果てまで追ってくる。帰れなくなるぞ」

私、非常にまずいことをしたのかもしれない。

今さら顔から血の気が失せて、しゃがみこむ。

帰れない。という言葉が頭の中で何度も響いている。

「カオリ」

俯いていた私が顔を上げると、例のごとくアルトの顔がすぐそこにあった。

「ご・・・ごめんなさい私・・・」

涙が盛り上がるのを感じるけど、瞬きを繰り返して、なんとかこらえた。

「いいんだ。立て、行くぞ」

頭をポンポンされる。

ふらつきそうになりながら、なんとか立ち上がって頭に乗っていたアルトの手をどかした。

「大丈夫、捕まらない」

グッと顎を引いて、強きに発言した。そうでもしないと涙がこぼれてしまいそうだった。

「ああ」

アルトと、今まさに出ていこうとしているソルテが微笑んだ。





ありがとうございました


次回から改稿部分から抜け出します(._.)


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