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俺たちの創世物語-ジェネシス-Ⅱ  作者: 白米ナオ
第一章 龍の手も借りたい
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第一章 ③

 二人が生徒会室を後にすると、萌先輩は俺の方を向いて話しかける。

「さて……龍馬、この後暇か?」

「えーと……まぁ、帰っても暇ですけど」

「ふーん、そうなんか」

 俺の答えを聞いた萌先輩は不敵な笑みを浮かべ、そして耳元で囁いた。

「一つ提案なんやけど……ウチん家にけぇへんか?」

「え、ええっ?」

 近くにある萌先輩の顔が否応無く目に入り、自分でも分かるくらい心拍数が上がる。萌先輩は童顔だけど、意外に長いまつげがどこか大人っぽい。

 こうして見てみると、なんだかんだで美人なんだなと実感させられる。

「と、とにかくもう少し離れてください……」

「ん? 別にええやん。龍馬が来るって言わへんと、ウチは離れんで?」全然良くないっ!

 確かに暇なことは暇だけど、女性の家に上がりこむのは正直初めてだ。

 偏見かもしれないが、女性の家に上がりこむのは基本的に……恋愛関係に無いといけない気がする。

「じゃあ……行かないって答えたらどうなるんですか?」

「ほんなら、龍馬が来るっちゅうまでどつき続けたるわ」この人、本気でやりかねないな。

 このまま帰るのは無理と悟った俺は、仕方なく重い口を開いた。

「……分かりました。お邪魔させてもらいます」

 すると萌先輩は満面の笑みを浮かべ、俺の背中をバシバシと叩いた。結構痛いです……。

「よぅ言った! ならとっとと行くでぇ~!」

 俺たちは荷物をまとめて生徒会室を後にする。先程取り出した可愛らしいキーホルダーをたくさん付けた鍵を取り出すと、二つある鍵をきちんと施錠した。

「先輩って、そういうキーホルダーとか好きなんですか?」

 何気なく聞いてみると、萌先輩は少し顔を赤くしながらはにかんで答える。

「ま、そんなところや。意外やろ? ウチん家に行けばもっとあるで」

「そうなんですか~」

 確かに意外だった。味覚があんなのだから、てっきり趣味も渋いものだと思っていた。

 勝手に決め付けてはいけないな……。そんな事を考えながら、俺たちは靴を履き替えて学校を出る。

 すると、突然目の前に制服を着た男が十五人ほど立ちはだかった。おでこには〝萌会長万歳!〟の文字が書かれた鉢巻。体には〝親衛隊‐sineitai‐〟の文字が書いてあるたすき。

「待ちたまえ、少年! ……我等の会長と逢引きとは見過ごせないな」

 彼らの登場と共に、萌先輩の表情がげっそりしていく。

「あーあ……また来たんか、親衛隊のやつら」

「親衛隊? ……なんなんですか、それ?」

 俺が疑問符を浮かべるとともに、先頭に立っていた眼鏡男が高笑いした。

「無知なる君に分かりやすく説明しよう。我等は、自他共に認める萌会長親衛隊である! 我等の存在意義は唯一つ! 萌会長を敬い崇めることにある!」

「……ま、ぶっちゃけただのファンクラブってところや」

「は、はぁ……」大仰な名前の割に、冷たくあしらわれているなぁ。

 こいつらの存在はともかく、上からの物言いと逢引きという勘違いが気に食わなかった。だから俺は、少しだけ反抗することにした。

「とりあえず、アンタらよりは無知じゃないと思うし、そもそも逢引きではない」

 流石に言い方が不味かったか。先頭の眼鏡男の額に青筋が浮かび、明らかに気分を害した様子だった。同時に、後ろの男子からもブーイングが起こる。

「言ってくれるじゃないか。私たちは全員、学年順位が二桁なんだぞ!」

「別に俺だって百位代前半だ。それに、そのたすきは何だよ。〝親衛隊〟って書いたつもりなのだろうが、nが一個足りてないから〝死ね痛い〟になってるじゃねぇか!」

 俺が語気を荒げて指摘すると、皆一様にたすきを確認し始めた。この体たらくで俺より成績が上だとか、絶対認めたくねぇ。

 隣で萌先輩が爆笑している中、〝死ね痛い〟の皆様はたすきにマジックでnを足し始めた。本当に学年順位二桁なのかよ……。

「ふっ……話が逸れたな。逢引きでないのなら、今から何処へ行こうというのだ?」

 自分が話を逸らした事実を棚上げし、あくまで上からの物言いを続ける。そんな眼鏡男の質問に答えたのは、隣にいる萌先輩だった。

「それはな、今からウチん家に行くんや」

 すると男たちは一瞬固まり、そして思い思いに叫び始めた。

「うおおおおっ! 俺も行きてぇ、じゃなかった許せねぇ!」「萌会長の家だとっ! そんな聖域に踏み込むとは何様のつもりだっ!」「くそぅ……羨ましすぎる」

 俺は目の前に広がる光景にうんざりしながら、笑っている萌先輩に尋ねる。

「……何でストレートに行き先言ったんですか?」

 萌先輩は涙目になって腹を抱えつつ、笑いをこらえながら答えた。

「だって……おもろそうやし、親衛隊も痛い目見た方がええと思うたし」

 痛い目? これから何をする気なんだ? 状況が飲み込めないまま呆然と立ちつくしていると、先頭の眼鏡男が俺を指差して叫ぶ。

「くそう! こうなったら実力行使だ! かかれ!」

 後ろの男たちも雄叫びを上げ、一斉にこちらに向かって走り出した。いつの間にか遠くに避難していた萌先輩は、口に手を当ててこちらに向かって叫ぶ。

「まぁ、そいつらはそういう連中やから、手加減はせんでええで! 先に殴られりゃ正当防衛が発生しよるから、先生には怒られんように説明したる!」

 ……要するに、戦えって事? なんでそうなるんだ。

 しかし、ずっと立っていても一方的にボコボコにされる。仕方なく拳を握り、体を低姿勢にしていつ来ても大丈夫なように身構えた。

「「「うおおおおっ!」」」


 ――数分後。

「「「くそっ、覚えてろよ~!」」」

 ありきたりな捨て台詞を残し、男たちは去っていった。

「……なんて手応えのない奴らだ。一撃入れられただけで諦めるなよ」

 俺は確かに最初に殴られた。それからは猛反撃……と言いたいところだったが、一人一人の力はかなり弱く、十五人いた男たちは皆、一発殴っただけでうずくまってしまった。結局、俺はほとんど怪我をすることなく、親衛隊の男たちを追い払ったのだ。

「いやぁ~、ホンマ龍馬は強いなぁ。おかげで助かったわ」

 萌先輩の言葉に俺は苦笑するしかない。

「いや、口ほどにもないだけでしたよ? あれならきっと萌先輩でも……」

「ま、追い払えるわな」……え? 追い払えるの?

「だったら、なんで俺に戦わせたんですか?」

 俺の質問に、萌先輩は少し沈んだ表情で答える。

「あいつらな、ホンマはウチの言うことしっかり聞くんやけど、男と歩いとる時は見境がないねん。せやから、隣におった龍馬にちゃちゃっと追っ払ってもらったっちゅーわけ」

「……じゃあ普段は先輩が〝どけ〟って命令したらどくんですか?」

「そりゃ当たり前や」何処まで従順なんだ、あいつら。

「そうなんですか……。だとしたら、俺が戦って何のメリットがあるんですか?」

 一番疑問に思っていたことを尋ねると、萌先輩はニヤリと笑って答えた。

「そりゃあ、あいつらも男に負けたら諦めつくやろ? これでしばらくは、あいつらに出くわさんで済みそうや。あぁ、気が楽やわぁ~」……多分諦めないと思いますよ。

 もっと聞きたいことはいろいろあったけど、萌先輩の幸せそうな表情を見ていたらどうでもよくなった。これ以上、首を突っ込む必要はないだろう……うん。

「ほな、気を取り直してウチん家に行こかぁ!」

「は、はぁ……」

 気の抜けた返事をすると、俺と萌先輩は歩き始めた。


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