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俺たちの創世物語-ジェネシス-Ⅱ  作者: 白米ナオ
第五章 強く、もっと強く
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第五章 ②

 二人はまだ話で盛り上がっていたけど、あたしの声を聞くとこちらに注目した。

 悪いことをしたなと思いつつも、そのまま話を続けることにする。


「明日ってさ、少し危険な作戦になるんだよね? あたしはそれを承知でさっき賛同したんだけど、やっぱりまだ不安は残ってる。

 かといって、いつまでもリュウに守られてばっかりじゃ、なんだか悔しいって思うんだ」


 あたしの話に二人は真剣な表情で耳を傾けている。それを確認して、更に話を続ける。


「だからさ……あたしはもっと強くなりたい。

 いざという時に自分の身は自分で守れて、それどころかリュウを守ってあげられるくらいに、強くなりたいの。

 でも、あたしたちはこの世界で強くなる術をほとんど知らない」

「せやなぁ……ウチらはこの世界でまだ一日しか過ごしとらんから、無理もないやろ」


 シュガーが深く頷いて相槌を打つ。あたしの言いたかったことはまさにそれだ。


「そこで折り入って頼みがあるんだけど……ラナ、フェンリル、あたしは強くなるために修行みたいなことがしたいの。

 この世界について二人はあたしたちより詳しいし、特にフェンリルは戦闘経験も豊富そうだし……ダメ、かな?」


 隣に座っているラナと、下で丸くなっているフェンリルに視線を向ける。

 二人とも唖然としている様子だったけど、否定の色も見えない。


「私は……いいよ。私に出来ることなら、手伝う」


 まずはラナからの肯定の意。口角が上がっている辺り、割と積極的な気がする。


「フン、生意気娘の相手をするなど――」

「フェンリル……ウチからも頼む」


 ぶっきらぼうに言い放とうとしていたフェンリルの出端を挫き、シュガーは真剣な目で懇願した。

 頭を下げるシュガーなんて、ある意味珍しいと思う。

 そしてあのシュガーに頼まれては、やはりフェンリルも断れないはずだ。


「……主の頼みならば仕方がない。だが、相手が女性だろうが容赦はしないぞ」

「望むところだよ。……それじゃあ、リュウとザックは残して広いところに行こう?

 流石に人目につくところは危ないから、一旦街から出よっか」


 あたしの意見に、全員が首肯で返した。

 そして全員立ち上がると、外に出る準備――部屋のカーテンを閉めたりリュウとザックに毛布を掛けたり――をして、部屋の鍵を閉めて階段を降りる。


「おや、お出かけかい?」

「はい! ちょっと女子だけでいろいろと」


 一階に降りると、宿屋のおばさんがリュウから取った鱗を眺めていた。

 傾きつつある太陽の光を受けて、青緑色の鱗はエメラルドのような輝きを放っている。


「本当に、この鱗は今まで見たどんな鱗よりも美しいよ。一度持ち主に会ってみたいもんだ」

「ふふっ、いつかきっと会えますよ」


 もう会ってますよ、とは流石に言えないので、微笑みながらさらりと返しておく。おばさんもまた微笑み返し、そして静かに目を細めた。


「そうだね、きっと会えるさ……それじゃ、気をつけて行ってくるんだよ?」

「はーい!」


 元気よく返事をすると、あたしたちは外に出る。

 シュンの話では確か今日で春は終わり、明日から夏になるはずだ。太陽は少し傾いているものの、街は明るく照らされている。


「ラナ、今何時くらい?」

「……五時半」


 大体八時を目安に街へと帰ってこれば大丈夫だろう。少し暗くなるかもしれないけど、まぁ何とかなるんじゃないかな?

 あたしたちは街の門に向けて歩き始める。この宿屋まで来る道は大通りを通ってきたけど、昼でさえあれほど混雑していたのに、今の時間帯で混雑していないわけがない。

 当然のように人の波に揉まれ、かなりの時間をかけて門の前にある噴水広場に辿り着いた。


「人、多すぎやろ……全員無事か?」


 溜め息混じりに発したシュガーに、誰もが例外なく疲れきった表情で肯定する。

 特に小さいラナにとってはかなり大変な道のりだっただろう。


「ほな、行こか」


 あたしたちは再び歩き始める。先程よりも人が空いているのでとても歩きやすく、あっという間に門の前に着いてしまった。

 強固な装備をした門番はあたしたちを見ると、警戒した姿勢を崩さずに近づいてくる。


「君たち、何の用だ?」


 何の用だと言われても……こういうときに〝修行をしに行きます〟と答えても大丈夫なものなのだろうか?

 なんか止められそうな気がするけど。

 言いよどんでいるあたしを見たラナは、またしても気を利かせて質問に答える。


「私たちは旅人なのですが、手持ちのブレドが無くて困っています。

 なので、近くの草原に生えている薬草を取りに向かおうと思っているのですが」

「ふむ……それならまぁいいだろう。あまり遅くなるなよ?」


 あっさりと通行の許可を取ってしまった。

 場数を踏んでいるからだろうか、ラナの交渉術は目を見張るものがある。咄嗟に出てくる言い分も説得力があるし。

 門番が詰所に駆け込もうとしたとき、鈍い音を立てて門が開き始めた。

 あまりに突然の出来事に、あたしたちはおろか門番も驚いている様子だった。


「……先にあちら側から誰かが来たようだ。門は勝手に開くから、君たちも通るんだ」

「は、はぁ」


 何も言えないあたしは気の抜けた返事しか出来ず、言われたとおり開いた門に向かって歩を進めた。もちろん後ろの二人と一匹もあたしについて来る。


「アレ、何やろな?」


 シュガーの言うアレとは、おそらく門の向こう側にいるあの集団のことだろう。

 先頭に立っているのは、青いドレスを着て金髪を左右の縦ロールにしている女性。

 一見どこかの国の女王様と勘違いしてしまいそうな、とても美しい人だった。

 そしてその後ろを歩いているのは、この街の門番よりも頑丈かつ豪華な意匠をこらしている鎧を身に纏った兵士が五人ほど。見るからに強そうな雰囲気を醸し出している。


「さぁ……革命が起きて亡命してきた、何処かの国の女王様じゃない?」


 心にも無いことをボソッと返すと、シュガーは何故か深く納得していた。


「ははぁ、なるほどな。せやからあんな場違いなカッコしとるんか」


 〝場違い〟は失礼ではなかろうかと思ったけど、どうせこの人に指摘してもサラリと返されることだろう。無駄骨を折る気はさらさら無い。

 あたしは黙って歩き続け、門をくぐり、例の集団とすれ違う。



 ――ゾワゾワッ!



「っ!」


 突然、体中を何かが駆け巡るような心地の悪い悪寒が走った。

 別に寒さを感じたわけでもないし、何かがあたしの服の中に入り込んだ様子も無い。


「ひっ!」


 直後、後ろにいたラナにも同じような反応があった。

 どうやらこの悪寒、あたしだけに起きているものではなさそうだ。


「なんや二人して、どないしたん?」


 そしてシュガーだけは何も起きず、訝しげな表情で尋ねてきた。

 何が起こっているのかさっぱり分からないので、反応に困ったあたしは小さく首を振る。

 結局、あたしたちは少し歩いて門を抜け街を出た。後ろでは門が鈍い音を立てて閉まり、例の集団もすぐに見えなくなる。


「あれが……水星」


 その様子を見届けていると、ふとラナが小さく呟いた。

 表情は青ざめていて、心なしか体も小刻みに震えているように見える。まるで何かに怯えるように……。


「ラナ、大丈夫? すごく気分悪そうだけど……」


 流石に心配になって声を掛けてみるけど、ラナの反応は返ってこない。

 その場に留まるのもいけないと思い、あたしは動かないラナを背負うことにした。


「ちょっとゴメンね……よいしょ、っと!」


 華奢な体型のラナはとても軽く、ほぼ一切の重さを感じさせなかった。例えるならば、空気をそのまま背負っているような感覚だ。

 流石は風妖精とでも言うべきだろうか、もしかしたらラナを構成しているのは実際に空気そのものなのかもしれない。

 そんなファンタジック極まりない構想を巡らせながら、あたしたちは昼に通った広大な草原に出た。

 日の沈み行く西には草原が続き、街のある北方には海に沿って白い砂地が見える。


「うーん……何処がいいかなぁ?」

「せやなぁ……セインは炎をよぅけ使うし、海沿いの方がえぇんちゃうかな?」


 シュガーの言うことはもっともだ。あたしの〝火葬〟でどれほどシェイディアの森を炎に包んだかを考えると、草地で想創を行うのは危険極まりない。

 それに比べてあの海辺なら、燃えるものは見当たらないし危険な生物も少なそうだ。

 せめて日の出ているうちに海辺へ到着しよう、そう思ったあたしはラナを背負ったまま北へと歩き始めた。

 しかしシュガーはその場で立ち尽くし、何かを考えるような素振りを見せる。


「……今なら元の姿でもえぇよなぁ。んーと……変化! 〝フィアウルフ〟!」


 シュガーの叫び声と共に、フェンリルの小さな体が想創光に包まれる。

 するとその小さな体は想創光と共に大きくなっていき、少しだけ見えるシルエットも巨大化する。


「……ふっ、やはりこの姿の方が楽だな」


 想創光が消えると、そこには街に入る前の姿に戻ったフェンリルがいた。

 久しく見る巨体が嬉しいのか、フェンリルは尻尾を振ったりその場で高く跳躍したりしていた。


「フェンリルもこっちの方が楽やろ。ほな行こかぁ~」


 そんなフェンリルを満足げに見ながら、シュガーは器用にフェンリルの背中に飛び乗る。

 当のフェンリルはというと、主人を背中に乗せてすごく嬉しそうだ。

 それから数分歩き、あたしたちは目的地の海岸に辿り着いた。

 まぁシュガーを乗せたフェンリルは草原を颯爽と走り抜け、あたしの歩く半分の時間で着いていたけど。


「さぁて……修行開始やっ!」


 元気よく腕を上に突き出して叫ぶシュガー。

 夕焼けに照らされた海に向けて叫んでいることもあり、なんだかとっても絵になっている。


「と、言いたいトコやけど……ラナ、さっきからどないしたん?」

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