エピローグ
何も知らなかった夏を経て――
二人の少年は生きることも死ぬことも知った。
ただ生きてるだけの夏月も、ただ死を想っている翼も、もういない。
夏月は翼に出会えたから――
翼は夏月に出会えたから――
生きることを知った夏。
死ぬことを見つめた夏。
夏休みが明け、二学期には何事もなく翼は登校してきた。
翼の瞳は相変わらず虚ろで、必要以上に他人と接することもなく、儚い存在感もそのままだった。
細すぎる左腕の傷跡も残ったままで、翼の狂気の跡を忘れさせてはくれない。
けれど、夏月は知っている。
その虚ろな瞳の奥にあるものは、以前とは違っていることを。
翼は生きようとしていることを。
その瞳の奥には光があることを。
夏月は知っていた。
そして。
翼は生きることを知った。
相変わらずの日々の中、それでも確かに生きていることを感じていた。
以前とは違うことを感じていた。
これから先。
一度目覚めてしまった『狂気』が消えることはないけれど、きっと生きていける。
もう狂気に怯えることはない。
死を想うことはない。
独りになることはない。
夏月には翼がいる。
翼には夏月がいる。
二人は生きることを知ったから。
死ぬことの哀しさを知ったから。
きっと生きていける。
見えない翼がその背にあるから。
闇夜の彼方に羽ばたくために。
死ぬためではなく、生きるために。
――夏の翼が今、開く




