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第一曲目

住宅地の一角に寂れた雰囲気の楽器屋があった。壁にベージュ色に塗られてあったペンキは剥がれ、看板も傾いてしまっている。


「シキ、いるか〜?」


返事は無く、スバルは楽器屋に入った。壁には整然と楽器が並べられ、磨かれた楽器が照明の光を反射して輝く。


「うわ、すげぇ…」


スバルは目を輝かせ、見渡した。すると、壁に飾らせていたベースに気づく。


「これ、めっちゃいいな…」


スバルは呟く。


「何してんすか」

「うわ!?」


見入っていると、後ろから声がしてスバルは慌てて振り返る。


「その制服…うちの高校の制服っすよね?冷やかしなら帰ってもらえます?」


ふわふわとした天然パーマの青年は気だるげな声でそう言った。腕にはバイクのヘルメットを抱えている。つなぎの作業服を着た青年は眠たげな目でスバルを見た。


「俺、書類届けに来たんだ!シキ、だろ?」


鞄から書類を取り出し、シキに渡す。


「紙、ぐしゃぐしゃになってんじゃないっすか。別にいいっすけど…」


ため息をつくと彼は書類を受け取った。


「…?まだなんかあるんすか」


立ち去らないスバルにシキが不思議そうに見る。


「俺、スバルって言うんだ!軽音部一緒にやらね?」


笑顔でスバルがそう言うと、シキは嫌そうに身を引いた。


「は?嫌っすよ。めんどくさい…俺は楽器屋も継ぐ気無いんで。バイク弄りの為に手伝ってるだけだし…」


中途半端な敬語は接客によるものなのか、崩れている。


「うちの高校、バイト禁止、部活に入るのが校則って厳しすぎでしょ。制服は着崩してもあんま言われないけど」


店の前にはバイクが停めてあるのが窓から見えた。


「ま、とにかく軽音部に入る気は無いんで…」

「なぁ、このベースって予約出来ない?」


スバルがベースを指差す。


「は?…買うつもりなんすか?高校生の貯金じゃ、買えないと思いますけど」


値札には0がいくつも並んでいる。


「え〜でも軽音部ならいるだろ、楽器」


スバルはベースを見つめる。その瞳には諦められない憧れが滲んでいた。スバルの横顔を見たシキは目を逸らした。


「…新品買うより、修理した方が安く済みますよ」

「お、なら俺ん家ある!」


スバルが目を輝かせた。


「俺の父さん、バーで演奏してたくらい、上手かったんだぜ!…ガキの頃、ステージ見て憧れてたなぁ」


スバルは嬉しそうに思い出を語る。


「店は閉店して、父さんも…」


そこまで言ってスバルは口を結ぶ。


「…だから俺、父さんみたいにバイト組んでみたいんだよ!」


笑顔を浮かべたスバルにシキがポケットに片手を突っ込んだまま呟く。


「…修理なら割と得意なんでしてもいいっすよ」

「マジで!?助かる!」


スバルが前のめりになる。


「けど、それでもお金はいりますよ。弦が切れてんなら、変えるだけでも費用はかかるっす」


スバルは頭を抱えた。


「どうしよ、俺の貯金じゃ足りんかも…」


シキがスバルのつむじを見下ろす。


「なら、俺の店手伝ってもらえます?放課後でもいいんで。夜はバイク走らせに行きたいし、店番頼みます」


スバルは驚き、顔を上げる。


「え、けど俺店番とかしたことねぇよ?」

「別に客とか来ないんで。突っ立ってるだけでいいっす」


スバルは元気になり、頷く。


「分かった!任せろ!」


スバルが笑顔で親指を立てる。


「じゃ、明日の放課後からよろしくっす」

「おう!…ところで店長は?」


シキが眉を寄せた。


「親父とは話したくないんで。挨拶は一人でして来てください」

「不良だなー」


シキは相変わらず眠たげな目でスバルを見た。


「母親だけじゃなくて兄弟も居ないんで。俺が店を継ぐかどうかで揉めてんすよ」


彼はため息をつく。


「今時、音楽で食っていくとか…現実的じゃないし。誰も楽器屋になんか来ないっすよ」

「そうか〜?別に職業にしなくても趣味でやるやつはいるだろ」


スバルは笑顔を浮かべる。


「音楽じゃ食っていけないけどさ、音楽が無きゃ、人生ってつまんないじゃん」


ベースを眺めながらスバルは呟く。


「父さんの演奏聴いてるお客さん、みんな笑顔だった。俺も、そんな風に皆を楽しませたい」


シキはスバルを見つめ、頑なになっていた心をほぐすように、身体から力を抜いた。


「…軽音部、入ってもいいっすよ」

「え!?マジで!?いいのか!?…やったー!」


スバルは喜び、拳を突き上げる。


「たまにでいいなら。…バイク以外にやりたいこととか無かったけど…あんた見てたら見つかるかもなって」


シキはそう言って微かに笑った。


「じゃ、よろしくな!シキ!」

「うっす」


スバルが笑顔で拳を差し出すと、シキはポケットから手を出し、拳を合わせた。

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