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プロローグ

教室の窓から見えるのは雲ひとつない青空。風に乗って桜の花びらが机の上に一枚、舞い降りた。カーテンが柔らかい風に揺れる。


「部活に入るのが校則だからなー。明日の放課後までにどこに入るか決めとけよー」


若い男性の教室が声を張る。入学式ではきっちり締めていたネクタイも、今は緩くなっている。


「部活か…」


スバルはそう呟いて入部届を眺める。


「ん〜…軽音部、あるかな」


配られた用紙を見ても、軽音部の文字は無い。


「まじか〜」


スバルはガックリと肩を落とす。だが、すぐに顔を上げた。


「よし、無いなら作るっきゃねぇ!」


そう言って立ち上がり、担任の元へと向かう。廊下を出ると新入部員を探す先輩達の姿や、どこに入るか迷って騒いでいる同級生達の姿があった。職員室のプレートがある扉の前に立ち、スライドさせる。スバルは職員室を見渡しながら担任を呼んだ。


「はるせんいるー?」


職員室にいた担任は椅子の向きを変え、スバルに言った。


「春咲先生な。で、どうした?」


腕を組み、不思議そうにスバルを見る。


「俺、軽音部作りたい!」


スバルがそう言うと、担任は目を丸くした。


「いきなり作りたいって言ってもなぁ…」


困った様に短髪の頭を掻きながらスバルに説明する。


「部活は立ち上げられるが、部員を集められ無いと同好会扱いになるか、廃部だ。そうなると部費も出ないし、部室も与えられ無いぞ」

「マジで!?」


担任は書類を用意しながら頷く。


「とりあえず、申請は俺の方でしとくから部員は頑張って集めろよ」

「ありがとうはるせん!部員って何人集めりゃいいの?」


スバルが明るい声で尋ねる。


「部活として認められるには…お前含めて3人いる」

「オッケ!」


目を輝かせると、スバルは駆け出した。


「俺、部員集めてくる!」


スバルは期待に胸を膨らませながら、廊下を走る。後ろから注意する声がその背中を追いかけるも、スバルの耳には届かない。


「ポスター作ろう!…部員募集…っと」


太い油性ペンで白い紙に文字を書くと掲示板に張り出す。


「これでよし、と」


だけど他のポスターにそれは埋もれていく。スバルは紙を掲げて廊下を歩く。


「部員募集してま〜す!」


生徒達がざわめく。


「軽音部?楽器持って無い」

「部費も部室も無いの?じゃあいいや」


次の日になっても部員は集まらなかった。


「うぐ〜っ、何がダメだったんだ…」


スバルは項垂れる。教室ではもうすでに部活を決めた生徒達が入部届に記入を終えている。


「このままじゃまずい…」


スバルは椅子の上に立ち、口を開く。


「皆、俺の歌を聴いてくれ!そんで軽音部一緒にやろうぜ!」


そう言って彼は歌い出す。軽やかな風のような歌声に皆が足を止め、注目する。


「えっ、歌上手!」

「顔隠すから動画上げていい〜?」


女子生徒達がスマホを取り出し、カメラをスバルに向ける。


「おう、いいぜ!宣伝してくれ!」


スバルは明るくそう言って笑顔で歌い始める。伸びやかな歌声は窓から屋上にまで届いた。


「…ん。何だよ、寝てたのによぉ…」


屋上にいた男子生徒が起き上がる。歌声のする方へ目を向ける。


「あれは…」


スバルに気づいた彼は目を微かに見開く。自由な彼の姿に目を逸らした。


「馬鹿じゃねぇの…」


小さく呟いた彼はスバルの歌声に耳を澄ませていた。


校外で一組の男女がスマホを一緒に覗き込んでいた。


「ねね、これ見てよ〜。すごいバズってるんですけど!うちらの高校じゃね?」

「ん〜?」


ピアスを開けた青年がスマホを覗き込む。


「歌の上手い男子高校生だって!」


女子生徒が青年に身を寄せ、腕を組む。


「本当だ。うちの高校の制服じゃん」

「バンド組まないの?いっつも夜、ライブ会場に行ってるじゃん」


青年が首を振り、肩をすくめた。


「応援に行ってるだけ。本気でバンドするつもり無いし。ダサいじゃん」


彼は首の後ろに手を回し、肌を摩る。


「だよねーっ!」


次のショート動画が表示され、話題は違うものに変わった。


スバルは教室で担任に見つかり、注意を受けた。


「あのな、椅子の上に乗るな。勝手にライブを開催するな」


スバルは口を尖らせる。


「何でだよ〜。いいじゃん、はるせんのケチ」

「誰がはるせんだ」


ため息をつくと、書類を丸めてスバルの頭を軽くこずく。


「申請、しておいたのと…これ、シキに持って行ってくれ」

「シキ?誰それ」


スバルは首を傾げた。


「あー、ずっと学校に来てないんだよ。それ、届けに行ってくれ」

「なんで俺が?」


担任はにやりと笑った。


「そいつ、楽器屋の息子なんだよ。上手くいけば、部員を増やせるかも知れないぞ?」


スバルは目を輝かせ、書類を受け取る。


「まじで!?頑張る!」

「じゃ、頼んだぞー」


担任はそう言って背を向けた。ひらり、と手を振る。


「うし、待ってろよ!部員第一号!」


スバルはやる気を燃やし、学校の近くにある楽器屋へと向かった。

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